――宅建士資格を持つ建築学生が解説――
近年、都市部を中心に高層のタワーマンション、いわゆる「タワマン」が次々と建設されています。眺望の良さや、駅直結の利便性、共用施設の充実などに魅力を感じ、いつかはタワマンに住んでみたいと憧れる方も多いでしょう。しかし、住宅購入という人生で最も大きな買い物をする際には、「本当にその物件が自分の生活スタイルや将来設計に合っているのか」を冷静に見極める必要があります。
結論から言えば、特に引っ越しを何回も繰り返す余裕のない方は、タワーマンションを購入すべきではありません。
その理由を、今回は「管理費」「居住者層の変化」「負のループ」という3つの観点から考えていきます。
1. 管理費と修繕積立金は“年々上がる”宿命にある
タワーマンションに住む上で最も注意すべきなのが、管理費と修繕積立金の上昇です。
マンション全体を維持するためには、エレベーター、消防設備、給排水設備、外壁、共用部などの定期点検や修繕が欠かせません。とりわけタワマンは、通常のマンションに比べて設備が桁違いに多く、また高層階まで延びる構造ゆえに、修繕や部品交換のコストも高額になります。
例えば、エレベーター一つ取っても、タワマンでは10基以上設置されていることが珍しくありません。高層階用・中層階用・非常用など複数のタイプを保守点検し、部品を交換するだけで数百万円単位の費用がかかることもあります。さらに共用施設としてプール、ジム、ゲストルーム、ラウンジなどを設けている場合、それらの維持費も住民全体で負担しなければなりません。
こうした費用は築年数が経過するほど増加します。
初期のうちは販売を促すために「低めの修繕積立金」が設定されているケースが多いですが、10年、20年と経つにつれて管理組合の決議により大幅な値上げが行われるのが一般的です。結果として、購入時には月2〜3万円だった管理費・修繕費が、数十年後には5万円、6万円と上がる可能性もあります。
2. 上層階の富裕層が先に“抜けていく”現実
では、その費用負担が増えたときに何が起きるでしょうか。
実は、タワマンの中でも上層階に住むような富裕層は、生活の選択肢が広く、資金的な余裕もあるため、築年数が経ったタイミングで早めに転居してしまう傾向があります。
新築時はブランド価値も高く、投資目的で購入する富裕層も多いですが、築20年を超えると資産価値の低下が顕著になります。富裕層にとっては「次の新築物件に乗り換える」ことが容易であり、建物の老朽化や管理費の上昇を理由に早めに売り抜けるわけです。
その一方で、中層階・下層階の住民ほど出ていけなくなるという構造的な問題があります。住宅ローンを抱え、転居費用も簡単には出せない。そうなると、築年数が経過してもそのまま住み続けるしかなくなります。
つまり、「お金に余裕のある層が抜けていき、余裕のない層が残る」という現象が起きるのです。
3. 富裕層が抜けた後に起こる“負のループ”
上層階の富裕層が抜けると、残された住民たちはどのような状況に陥るでしょうか。
タワマンの維持管理には多額の費用が必要ですが、その負担を分担する住民の数は限られています。さらに、残った住民の多くは経済的に余裕がない層です。すると、管理費・修繕積立金の値上げが困難になり、必要な修繕が後回しになるという悪循環が始まります。
最初は「ちょっと古くなっただけ」だった建物も、次第に劣化が目立ち、共用施設が使えなくなり、エレベーターの待ち時間が増え、清掃も行き届かなくなっていきます。見た目が悪くなれば資産価値がさらに下がり、売りたい人は増えるのに買いたい人が減る――結果的に“負のスパイラル”が加速していくのです。
こうした状態に陥ると、管理組合の運営も難しくなります。役員を引き受ける人がいない、会議が開けない、意思決定が滞る……。結果として修繕計画が破綻し、長期的には「スラム化」のような状態を招くリスクすらあります。
4. タワマンは“見栄”で住む場所ではない
タワーマンションの広告やSNSでは、「夜景が一望できる」「ホテルライクな生活」といった華やかなイメージが強調されます。確かに、最初のうちは非日常感を味わえるかもしれません。ですが、その裏には「見栄のための生活」が潜んでいることも少なくありません。
特に、周囲の評価やブランドを意識して「自分もタワマンに住みたい」と考える場合は要注意です。**住宅は“三重(みえ)”のために買うものではなく、“自分の生活のために買うもの”**です。
もし無理をして購入し、管理費やローン返済で生活を圧迫してしまえば、本末転倒です。タワマンであることが誇りになるどころか、精神的な負担や将来不安の種になるかもしれません。
5. 代わりに考えたい“地に足のついた暮らし”
もちろん、全てのタワーマンションが悪いわけではありません。立地や管理体制が良好で、居住者のコミュニティがしっかりしているところもあります。ただし、それは多くの場合、「相応のコストを払える人」にしか維持できない世界です。
もしあなたが**「自分の身の丈に合った生活を長く続けたい」**と考えているなら、タワマン以外の選択肢を検討する価値があります。
例えば、
- 管理費が比較的安く抑えられる中規模マンション
- 修繕が容易な低層マンション
- 自分の判断で維持管理できる戸建て住宅
といった選択肢は、長期的に見て安定した暮らしを実現しやすいものです。
6. まとめ:タワマンは“資産”ではなく“負債”になることも
タワーマンションは、確かに便利で魅力的な住宅形態のひとつです。しかし、その華やかさの裏には「維持コストの高さ」「富裕層の離脱」「残された層への負担増」という構造的なリスクがあります。
住宅購入を考える際には、**「今、払えるか」ではなく「将来、払い続けられるか」**を基準に判断すべきです。
特に、お金に余裕がない層の方が「見栄」や「一時的な満足感」でタワマンを選ぶことは、長期的に見て大きな負担になる可能性が高いと言えます。
最後に一言でまとめるなら、
タワマンは“夢の象徴”ではなく、慎重に扱うべきリスク資産です。
生活を守り、将来の安定を得るためには、「見栄のために住む」のではなく、「自分と家族のために選ぶ」という本質を忘れないことが大切です。
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