—政治・経済・周辺都市・不動産・建築から読み解く—
はじめに
JR松山駅周辺の再開発が進むなか、駅西側・車両基地跡地に「5,000席以上のアリーナ」を中心とする広域交流拠点を整備する――この方針は、市の基本計画として2025年に明確化されました。ところが、肝心のアリーナは「いつ着工・完成するのか」が見えにくい。市は最短で2029年度着工、2031年度完成という見込みを示すものの、なお具体の事業規模や手法の詰めは道半ばです。松山市役所+1
本稿では、**「なぜ遅れているのか」**を、
- 政治面 2) 経済面 3) 周辺都市の動き 4) 不動産視点 5) 建築視点
の5つの切り口から整理し、最後に“宅建士×建築学生”としての実務・学習の着眼点をまとめます。
1. 政治面:合意形成の難しさと「立地・規模」論争
最大の政治論点は**「駅前の敷地で十分な規模を確保できるのか」です。県知事は会見で「大規模イベント対応には最低8,000席や多台数の搬入車両スペースが必要」**と指摘。駅前用地(約9,000㎡)の「狭さ」懸念が公的にも可視化され、**5,000席規模から“さらに上積みできるのか”**が議会・住民の論点になっています。松山市役所
この問いは単なる数合わせではありません。誰のためのアリーナか(プロスポーツ/音楽興行/市民利用)、どの規模と機能を“地域の将来戦略”とするのかという価値判断に直結します。市はサウンディング(民間意向)を踏まえ、「7,000~8,000席以上を望む声」「U字形状等の工夫で8,000席超も可能」といった示唆を得ていますが、より大きなキャパを駅前で実現する技術・運営・動線の条件整理が不可欠です。松山市役所+2digital.kentsu.co.jp+2
さらに、文化ホール更新からアリーナ方針への転換理由について説明を求める声も強く、政治的な説明責任(政策目的や費用対効果、代替案比較)が工程に“待ち時間”を生んでいます。TBS NEWS DIG
2. 経済面:建設コストの高止まりと運営収支の不確実性
サウンディングの結果では、建設費高騰・人手不足、そして興行や自主事業だけでは収益確保が難しいという民間からの率直な声が並びました。事業手法としてはPFI(BTO)やDBO、コンセッション等が挙がる一方、維持管理・運営に一定の公的負担が必要との見立ても共有されています。つまり、ハコを作るだけでは回らない。**「誰が・どうやって・どのリスクを持つか」**の設計が肝で、その分の時間が要るのです。digital.kentsu.co.jp
県知事は**「完成は7~10年先になる可能性」**に言及。インフレや金利、建設資材価格のボラティリティ、労務の逼迫を織り込むと、拙速な調達よりも“持続可能なキャッシュフロー設計”を優先せざるを得ないのが現実です。TBS NEWS DIG
3. 周辺都市の状況:**松前町など“広域競合”**が意思決定を難しくする
駅前前提を揺さぶっているのが**「他自治体でのアリーナ構想」です。隣接する松前町も大規模アリーナの可能性に言及し、“場所を固定せず最適地を探るべき”**という民間側の発言も報じられました。立地の選択肢が増えるほど、政治的合意形成は複雑化し、**地元負担・アクセス・周辺開発(宿泊・飲食・駐車場)**を含む広域設計の比較検討に時間がかかります。ebc.co.jp+1
「駅前か、隣町か」という二者択一ではなく、**需要特性(プロスポーツ・大型音楽興行・市民利用)に応じて“最適な供給システム”**を設計する発想が要ります。とはいえ、**新駅舎と駅前広場の更新で“松山駅前の顔が変わる”**局面に、目玉機能(アリーナ)を近接配置する都市ブランド戦略も根強い――ここが政治的にも市民感情的にも難所です。
4. 不動産視点:駅前“収益ポテンシャル”は高いが、**「稼ぎ方設計」**が勝負
宅建士の視点で言えば、駅前のアクセス性・可視性・人流は、テナント賃料・広告価値・ネーミングライツなど収益の“種”を抱えています。市のヒアリングでも「駅近接はイベント誘致やネーミングライツで有利」との指摘がありました。問題は、“持続可能な稼働率”をどう作るか。プロスポーツのオフ期・平日昼間の利用、地元主催者の囲い込み、会議・展示・地域行事の多用途化など、非ピークの埋め方を含めた年365日の運用デザインが肝です。松山市役所
権利調整・契約実務でも注意点は多い。再開発エリア特有の都市計画・用途地域・交通計画の変更や、工事期間の騒音・動線変更など、重要事項説明に落とし込むべき論点が増えます。完成後の賃料改定条項、共同販促、イベント時の共用部使用など、“運営条項”の作り込みがバリューを左右するでしょう。松山市役所
5. 建築視点:敷地制約×大規模運用という“難問”を解く
建築側のクリティカルパスは、限られた敷地での
- 可変席・U字・一面スタンドなど形状工夫による収容力・視認性の両立
- 大型トレーラー搬入・バックスペース(舞台・リハ・倉庫)の確保
- 人流動線(駅・LRT・バス・タクシー・一般車・自転車・歩行者)の交錯解消
- 騒音・残響・遮音と周辺環境の両立
- BCP(停電・風水害)と分散避難計画
- 脱炭素・ZEB化・運用エネルギー最適化
といった“総力戦”です。市のサウンディングでも**「形状の工夫で8,000席以上も可能」**といった提案が見られ、**建築計画×運営計画の統合設計(Design for Operations)**がカギになります。digital.kentsu.co.jp
駅前広場・新駅舎との接続は、都市デザイン的にも最大の勝ち筋です。回遊を生むイベント導線、“普段使い”の広場活用、雨天時の動線冗長性を統合し、アリーナ当日以外でも賑わいを生む“日常性”を設計できるか。駅前更新の可視化された将来像はすでに示されているため(画像参照)、アリーナの“都市への縫い込み方”を早期に描き、利害関係者の合意装置にすることが、工程短縮にも有効です。
結論:「遅い」のではなく、“解くべき問い”を丁寧に解いている最中
- 政治面:立地・規模・目的の合意形成(8,000席級の是非、駅前の妥当性)。松山市役所
- 経済面:建設費高止まり下での官民リスク分担と通年稼働モデルづくり。digital.kentsu.co.jp+1
- 周辺都市:広域での最適配置という新条件が、意思決定を複雑化。ebc.co.jp+1
- 不動産:駅前の“稼ぎどころ”を設計できれば、駅前ブランド×収益の両取りも可能。松山市役所
- 建築:敷地制約の中で搬入・動線・可変席を成立させ、日常の広場利用とイベントの非日常を両立させる統合設計が鍵。digital.kentsu.co.jp
市は基本計画の策定とサウンディング結果を公表し、次段の詳細検討へ。最短で2029年度着工・2031年度完成という見立ても示されました。“急がば回れ”で、目的・規模・収支・運営の整合を取っている段階と捉えるのが妥当でしょう。松山市役所+2松山市役所+2
参考:出典(主要)
- 松山市「松山市車両基地跡地広域交流拠点施設基本計画」(2025/7/17更新)ほか・サウンディング結果公表(2025/10/24)等。松山市役所+1
- 建設通信新聞Digital「サウンディング結果概要(規模・事業手法・懸念等)」(2025/10/1)。digital.kentsu.co.jp
- TBS NEWS DIG / あいテレビ 各報道(計画転換理由/駅前再開発・新駅舎・駅前広場)。TBS NEWS DIG
- 毎日新聞「着工は最短2029年度、完成31年度。先行き不透明」(2025/10/7)。mainichi.jp
- EBC(テレビ愛媛)「アリーナ立地めぐる発言・広域の動き」(2025/10/17)。ebc.co.jp
- 市“わがまちメール”回答:敷地の狭さ等の市民懸念整理(2025/1/23・9/5)。松山市役所+1

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