なぜ日本の税金建築は隈研吾を選び続けるのか?――八雲町役場問題が暴いた“公共建築の病理”

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以下はまず「実際に公共(税金が絡む)領域で採用された隈研吾作品の代表例」を挙げ、そのあとに なぜ公共建築で隈研吾が“選ばれやすい構造”ができるのかを、制度・政治(合意形成)・市場(入札)・デザイン(木)・メディア(評判)まで含めて深掘りします。八雲町役場の件も随所で絡めます。


  1. 1) 隈研吾が公共建築のデザインに採用された事例(代表例)
    1. A. 国・大都市級(象徴性が高い)
    2. B. 地方都市の文化・まちづくり拠点(税金×集客の“投資”になりやすい)
    3. C. 自治体庁舎(行政の中枢=批判も称賛も直撃しやすい)
    4. D. 駅など“準公共インフラ”(公共性が高く、象徴デザインが求められる)
  2. 2) なぜ公共建築(税金が絡む建築)で隈研吾が“よく選ばれる”のか:構造で分解する
  3. 3) 公共発注の制度側:そもそも「デザインが評価されやすい」土俵がある
  4. 4) 政策側:日本は“公共建築×木”を国策として推しやすい
  5. 5) 発注者の実利:自治体が欲しいのは「建物」だけでなく「勝てる説明」と「話題」
  6. 6) 施工市場の現実:スター建築家は“入札不調”も呼び得る(八雲町の核心)
  7. 7) 維持管理(LCC)での炎上耐性:隈研吾は“木”ゆえに批判の矢面に立ちやすい
  8. 8) ネットの“うわさ”をどう考察するか:よくある論点と、なぜ広がるか
    1. うわさ①「どうせ有名建築家はコネで選ばれてる」
    2. うわさ②「隈研吾は木が腐る建築ばかり」
    3. うわさ③「隈研吾は案件が多すぎて監理できない」
  9. 9) ここまでの結論:公共建築で隈研吾が選ばれやすい「5つの理由」
  10. 10) 八雲町役場をこの構造に当てはめると(なぜ“起きるべくして起きた”感があるのか)
  11. 隈研吾関連の記事はこちら
  12. 参考文献(一次情報・公的資料中心)

1) 隈研吾が公共建築のデザインに採用された事例(代表例)

「公共建築」と一口に言っても、自治体庁舎のような“完全な公共”から、都市インフラ(駅)や、自治体が整備する文化施設のような“準公共”まで幅があります。ここでは、行政・公共サービスに直結するものを中心に、公式情報で確認できるものを挙げます。

A. 国・大都市級(象徴性が高い)

  • 国立競技場(新国立競技場)
    隈研吾建築都市設計事務所サイトにプロジェクト説明あり。木ルーバーや軒下の表現など“日本らしさ”を意匠の核にしていると説明されています。
  • 浅草文化観光センター(台東区)
    台東区の観光案内・多目的ホール等を積層する公共系施設。Kengo Kuma & Associatesのプロジェクトページで施設概要が確認できます。

B. 地方都市の文化・まちづくり拠点(税金×集客の“投資”になりやすい)

  • TOYAMAキラリ(富山市ガラス美術館+図書館などの複合)
    富山市ガラス美術館の施設概要で「隈研吾氏が設計」と明記され、中心市街地の魅力創出の拠点という位置づけも説明されています。
    事務所側のプロジェクト説明もあります。
  • 雲の上の図書館/YURURIゆすはら(梼原町)
    町のコミュニティコアとしての複合施設。事務所側の説明で、地域材(梼原の杉)や“森のような空間”など、まちの物語と結びつけて語られています。

C. 自治体庁舎(行政の中枢=批判も称賛も直撃しやすい)

  • 富岡市役所(群馬県)
    事務所側ページにプロジェクト説明があり、ストリート型の公共建築、庇やルーバーなどが特徴とされています。
    一方で完成後7年で劣化(錆や塗装剥離等)が報道され、修繕費を設計事務所と施工者が負担する方向で協議と伝えられました。
  • 北海道八雲町 新庁舎計画(白紙撤回が報道)
    町の基本設計プロポーザル最優秀者が「二本柳慶一・隈研吾設計共同企業体」と町公式サイトで示されています。
    ただし2026年1月に「白紙撤回」方針、設計費等約1.9億円、入札不調などが報じられ、公共建築の合意形成と市場の現実が衝突した典型になりました。

D. 駅など“準公共インフラ”(公共性が高く、象徴デザインが求められる)

  • 高輪ゲートウェイ駅(JR東日本)
    JR東日本のプレス資料で「Kengo Kuma as design architect」と明記され、国際交流拠点の“ゲートウェイ”として日本らしさを伝えるデザインを採ったと説明されています。

2) なぜ公共建築(税金が絡む建築)で隈研吾が“よく選ばれる”のか:構造で分解する

ここからが本題です。結論を先に言うと、「隈研吾がズルい/運がいい」だけでは説明できません。
公共建築の発注・選定・合意形成・広報・維持管理までの“制度の地形”の上で、隈研吾の強みが 噛み合いやすい という構造があります。


3) 公共発注の制度側:そもそも「デザインが評価されやすい」土俵がある

公共建築の設計者選定は、価格だけの入札ではなく、技術提案を評価して“人(者)を選ぶ”プロポーザル方式が多用されます。国交省の資料でも、プロポーザル方式は「具体の設計案を選ぶのではなく、技術提案を評価して“者”を選ぶ」趣旨だと明確に説明されています。

ここで起きる現象:

  • “象徴性・芸術性・独創性”を評価項目に載せやすい(資料内でも、象徴性等を求められる業務で選定される旨が触れられる)
  • 結果として、「説明しやすいデザインの物語」を持つ設計者が有利になる
  • 審査は“合議”なので、評価者が納得しやすい「実績」「分かりやすいコンセプト」「過去の受賞・露出」が強い武器

隈研吾はこの土俵で強い。なぜなら、「木」「和」「地域材」「軽やかな軒」「粒子(ルーバー)」といった“説明しやすい語彙”が一貫しているからです。説明可能性が高い=公共調達で強い、という面があります。


4) 政策側:日本は“公共建築×木”を国策として推しやすい

ここが非常に大きいです。

日本には公共建築における木材利用を促す基本方針があり(国交省PDF)、さらに法律自体も「脱炭素社会の実現に資する」方向へ拡張・明確化されています(林野庁・国交省ページ)。

つまり、発注者(自治体)側には、次の“政治的に通りやすい大義名分”が最初から用意されている:

  • 脱炭素(木は炭素固定の物語が作りやすい)
  • 地域材利用・林業振興(地産地消の政策)
  • 木質化で“温かい公共空間”
  • 補助制度や国の方針に乗る安心感

そして隈研吾は、国立競技場でも木の庇やルーバーを核にして語っているように、“木を公共の象徴に変換する”のが得意です。政策と作品言語が一致している。


5) 発注者の実利:自治体が欲しいのは「建物」だけでなく「勝てる説明」と「話題」

税金が絡むと、建物の性能だけでなく、

  • なぜこの事業が必要か
  • なぜこの規模か
  • なぜこの設計者か
  • なぜこの費用か

を議会・住民・メディアに説明し続ける必要が出ます。

そこで“世界的建築家”のカードは強い。なぜなら、

  • 事業目的(まちの拠点化・交流人口・中心市街地活性)を語りやすい
  • 広報で一撃がある(メディア露出、建築観光、SNS映え)
  • 合意形成で「有名だから安心」という短絡的だが現実的な効果が出る

TOYAMAキラリは公式に「中心市街地の魅力創出を担う」と説明しており、このタイプの施設は「作品性=まちの投資」の論理で正当化されやすいです。


6) 施工市場の現実:スター建築家は“入札不調”も呼び得る(八雲町の核心)

ここで逆説が出ます。

公共建築は「建てること」がゴール。
しかし有名建築家の“象徴性の高い形”は、

  • 特注部材が増える
  • 納まりが難しくなる
  • 工期リスクが増える
  • 見積の不確実性が増える

→ 施工者が敬遠し、入札不調になりやすい。

八雲町はまさにここに刺さった例で、町公式にはJV選定が示され、報道では入札不調・設計費等約1.9億円・白紙撤回が伝えられました。

言い換えると、公共側の意思決定では「物語が勝つ」局面があり、
施工市場では「リスクが勝つ」局面がある。
この2つがズレると、“計画は勝ったが工事が成立しない”が起きます。


7) 維持管理(LCC)での炎上耐性:隈研吾は“木”ゆえに批判の矢面に立ちやすい

公共建築の炎上は、完成直後より 数年後の維持管理 で起きます。

富岡市役所は、劣化が報道され、市が調べたところ軒裏金具の錆等が確認され、修繕費は設計事務所と施工業者が負担する方向で協議と報じられました。

ここから分かること:

  • 問題の原因は「木そのもの」だけでなく、金物・雨仕舞・塗装・水の回り方など複合になり得る
  • しかし世間の語りは単純化して「木=腐る」「隈研吾=腐る」になりやすい(後述の“ネットのうわさ”の増幅構造)

木は、良くも悪くも“目に見える”。
コンクリートの中性化のような見えない劣化より、見える変化がSNSで伸びる。これが炎上リスクを上げます。


8) ネットの“うわさ”をどう考察するか:よくある論点と、なぜ広がるか

ここは慎重に扱います。ネット上には「利権」「コネ」「キックバック」などの断定的言説が出がちですが、一般に閲覧できる確証資料を伴わないものが多く、断定はできません。
そのうえで「なぜそういう“語り”が生まれやすいのか」を構造として分析します。

うわさ①「どうせ有名建築家はコネで選ばれてる」

公共調達には、プロポーザルの評価基準・審査委員・講評など、形式上は透明化の仕組みがあります(国交省の設計業務委託の進め方でも制度趣旨が説明)。
ただし住民側からは、

  • 審査の専門性が分かりにくい
  • “提案書の良さ”が見えにくい
  • 最初から結論が決まっていたように見える

という“情報の非対称”が残りやすい。
見えないものは陰謀に見える、という心理が働きやすいです。

うわさ②「隈研吾は木が腐る建築ばかり」

富岡市役所のように実際に劣化報道が出ると、それが“代表例”として繰り返し引用され、他案件にも連想が飛びます(八雲町にも波及しやすい)。

ただし技術的には、劣化は

  • 素材選定
  • 雨仕舞
  • 金物
  • 納まり
  • 点検・塗装周期(運用)
    の総合です。

それでも「木=悪」という単純化が起きるのは、SNSが
①短い断定文 ②分かりやすい悪役 ③画像で伝わる変化
を好むメディアだからです。

うわさ③「隈研吾は案件が多すぎて監理できない」

これは“あり得る懸念”としては理解できますが、外部から業務分担や監理体制の実態を個別に検証するのは難しいです。
ただ、公共建築では「隈研吾が全部やる」ではなく、JV・協力事務所・大手組織設計など分業が前提になりやすい(八雲町もJV)。
だからこそ、炎上時に 責任の所在が住民に見えにくい → うわさが伸びます。


9) ここまでの結論:公共建築で隈研吾が選ばれやすい「5つの理由」

  1. 公共調達(プロポーザル)で強い“説明可能な美学”を持つ
  2. 国策(木材利用・脱炭素)と作品言語(木)が一致している
  3. 自治体が欲しいのは建物+物語+広報効果で、スター性が合意形成に効く
  4. 一方で施工市場では“難しさ”が入札不調を招きうる(八雲町が典型)
  5. 維持管理フェーズで炎上しやすい(木は変化が可視化され、SNSで拡散されやすい)

10) 八雲町役場をこの構造に当てはめると(なぜ“起きるべくして起きた”感があるのか)

  • プロポーザルで“象徴性の高い提案”が勝つ(JV選定は町公式で確認)
  • しかし建設局面で、物価・人手不足・特注リスクが増えると、施工者のリスク判断が勝って入札が成立しない
  • 結果として、計画が止まり、支出済みの設計費等(報道で約1.9億円)が“見える怒り”になる
  • さらに世間の文脈として「木の隈研吾=劣化」の語りが先行し、批判が加速しやすい(富岡の報道が“連想元”として強い)

この流れは、個人の善悪というより 公共建築の意思決定(物語が勝つ)と、建設市場(リスクが勝つ)のズレが作ります。

隈研吾関連の記事はこちら

富岡市役所問題

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那珂川町馬頭広重美術館問題

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参考文献(一次情報・公的資料中心)

  • 八雲町「八雲町役場庁舎等建設工事基本設計プロポーザル審査結果」
  • HTB北海道ニュース「隈研吾氏監修の八雲町新庁舎計画、白紙撤回へ…設計費1.9億円が無駄に」
  • Kengo Kuma & Associates「国立競技場」
  • Kengo Kuma & Associates「Asakusa Culture Tourist Information Center」
  • 富山市ガラス美術館「施設概要(TOYAMAキラリ・隈研吾設計の説明)」
  • Kengo Kuma & Associates「Toyama キラリ」
  • Kengo Kuma & Associates「雲の上の図書館 / YURURIゆすはら」
  • 林野庁「建築物等における木材の利用の促進に関する法律(改正概要等)」
  • 国土交通省「木材利用促進法(改正法の施行等)」
  • 国土交通省「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針(PDF)」
  • 国土交通省「建築設計業務委託の進め方(プロポーザル方式の趣旨等、PDF)」
  • JR東日本(プレス資料)「Takanawa Gateway Station Overview(design architectとして隈研吾を明記、PDF)」
  • テレ朝NEWS「隈研吾氏設計の市役所 7年で劣化(富岡市役所)」

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