また“隈研吾建築”ー八雲町役場問題に見る『木の建築』という幻想

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何が起きた?八雲町新庁舎「デザイン問題」の全体像

北海道八雲町では、老朽化(築64年)の現庁舎の建て替えとして、隈研吾氏が“デザイン監修”に関わる新庁舎計画が進んでいました。ところが2026年1月、町は計画を「白紙に戻す」方針を示し、住民説明会では「設計費1.9億円が無駄になる」ことへの反発が大きく報じられました。

ポイントは大きく3つです。

  • 建設費の上振れ:当初約33億円規模の想定が、資材高騰等で約9億円増の見通し
  • 入札不調が続いた:建築主体工事の入札が複数回不調(応札者が出ない)
  • 既に設計費等で約1.9億円支出:白紙化で“取り返せないコスト(サンクコスト)”が顕在化

そもそも「隈研吾が設計」なの?—“監修”とJVの構図

この計画は、町の公式情報では基本設計プロポーザルの最優秀者が「二本柳慶一・隈研吾設計共同企業体」(JV)として選定されています。
つまり、報道で「隈研吾デザイン」と言われても、実務の設計体制としては
JVでの役割分担が前提になります。

ここが誤解を生みやすい点で、

  • 住民側は「有名建築家=全部の責任も全部その人」と受け取りがち
  • 発注・契約上は「監修」「共同企業体」「業務範囲」が分かれている

というズレが起こりやすいです。

なぜ“デザイン”が問題化したのか

今回の炎上は、デザインの好みだけでなく、公共事業としての“成立条件”が崩れたことが本質です。

1) 「象徴性」を狙ったが、建設市場の現実に負けた

計画は、木を大胆に使った大屋根が特徴で、役場機能に加えて公民館等も集約する“町のシンボル”型。
ただ、資材・人件費が上がる局面では、特殊形状・大断面・特注部材が増えるほど、施工者のリスクが増え、応札が出にくくなります。結果として入札不調が続きました。

2) 「設計費1.9億円」だけが独り歩きした

“1.9億円=高すぎる”と感じる人は多いのですが、設計料は本来、建物の規模・用途・難易度で大きく変わります。

国交省は、設計・工事監理等の報酬算定の考え方(業務報酬基準)を示しており、積み上げ(実費加算)や略算の枠組みが整理されています。
また、東京都建築士事務所協会も、告示に準拠した略算例を公開しています。

今回のような延べ約6,000㎡級の複合公共施設で、基本設計〜実施設計まで進んでいれば、設計費が億単位になること自体は珍しくありません(ただし妥当性は業務範囲次第)。

重要なのは「金額」より “その金額で何をどこまでやったのか”(=成果物・検討範囲・追加業務の有無)です。

3) 「隈研吾=木=劣化する?」という別の社会的炎上と接続した

近年、隈研吾氏の木材を多用した公共建築をめぐって、耐久性・維持管理費がSNSや報道で話題になりやすい土壌があります。

例えば群馬県富岡市の庁舎では、完成から7年程度で劣化が話題となり、修繕費負担について設計事務所・施工者側が負担する方向で協議と報じられました。
隈氏自身もインタビューで、木材は経年劣化すること、木造の大規模利用はまだ「実験段階」の側面があることに触れています。

この空気感の中で、八雲町の計画も「豪華デザイン」「木の建築」「税金」という文脈で一気に燃えやすくなりました。

設計料の「相場」って結局いくら?

結論から言うと、“工事費の◯%”だけで語るのは危険です(同じ工事費でも、要求性能や合意形成、BIM、ZEB、積雪寒冷地対応などで業務量が変わる)。

ただ、住民説明で比較しやすいように、よく使われる整理を置きます。

  • 国交省の業務報酬基準:人件費等をもとに算定する枠組み(実費加算/略算)を提示
  • (慣習的な)工事費×料率の目安:規模・用途でブレが大きいが、概算では数%〜一桁後半〜十数%が語られることがある(協会等の略算例や各種解説が存在)

八雲町の報道ベースで置くと、

  • 設計費等 約1.9億円
  • 当初建設費 約33億円規模

単純割り算では約5〜6%程度になります(※「設計費等」には設計以外が含まれる可能性があるので厳密ではありません)。
“数字だけ”見ると、極端に逸脱した比率とは言い切れない一方で、問題はそこではなく 「建てられない計画にここまで突っ込んだ」ことです。

都市計画・建築の観点での論点整理(わかりやすく)

A. 「町の象徴」を建築でやるとき、いちばん重要なのはLCC

公共建築は建てて終わりではなく、
維持管理(塗装・防水・木部更新・金物腐食対策)+更新周期+雪害・凍結融解まで含めた“運営の設計”が勝負です。

特に北海道のような環境では、

  • 雪・吹き込み・融雪水
  • 凍結融解
  • 塩害(立地による)
  • 乾湿繰り返し
    が外装ディテールに効きます。

木を見せるなら、庇の出、納まり、換気、交換容易性(部材を“消耗品”として扱えるか)まで最初から仕様化しないと、後で炎上しやすい。

B. 入札不調は「施工者側のリスク判定」でもある

入札不調が続いたのは、単に“高いから”だけではなく、

  • 工期リスク(人手不足)
  • 特注部材・曲面・大屋根などの施工難度
  • 物価変動リスク(見積期間中に単価が動く)
    が積み上がって、施工者が「この条件では怖い」と判断した可能性があります。

C. “スター建築家”の価値は本来、集客だけではない

隈研吾クラスを起用する狙いは、

  • 町のブランド化
  • 木材利用の象徴性(地域材・林業支援)
  • 建築を媒介にした交流人口
    などが考えられます。

でもその価値は、運営計画(イベント、観光導線、駅からのアクセス、周辺商業との相乗)が無いと回収できません。
「建物ができれば人が来る」は、地方ほど成立しにくいです。

隈研吾“が抱える問題”を、冷静に言語化すると

人格批判ではなく、公共建築で揉めやすい構造としてまとめます。

  1. 意匠として木を“見せる”比率が高いほど、維持管理の設計が難しくなる(材料が悪いというより、納まりと運用の問題になりやすい)
  2. 小規模自治体×象徴建築は、コスト増局面で破綻しやすい(入札不調→仕様見直し→再設計→時間と費用が増えるループ)
  3. 監修・JVなど契約構造が複雑だと、トラブル時に**「誰が何に責任を持つのか」**が住民に伝わりにくい
  4. SNS時代では、他案件の炎上(劣化報道など)が“連想ゲーム”で波及する

じゃあ、八雲町はどうすればよかった?(再発防止の設計)

次に同種の計画をやるなら、効果が大きい順に:

  • 最初に「上限コスト」と「削る優先順位」を決めておく(“象徴性”を守る部分/削る部分を合意形成)
  • 概算段階で施工者ヒアリング(市場感)を入れる:入札不調を早期に予測しやすい
  • 木を見せるなら、LCCと交換設計を仕様にする(どの部材を何年で交換、誰が点検、予算はいくら)
  • 設計業務の成果物を住民向けに可視化:「1.9億円で何を得たか」を説明できる形にする(代替案検討、VE案、維持管理計画など)

隈研吾関連の記事はこちら

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那珂川町馬頭広重美術館問題

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参考文献

  • 北海道文化放送(UHB)「世界的建築家・隈研吾氏デザイン監修の新庁舎が『白紙』に…資材高騰で建築費が約9億円も増加」
  • HTB北海道ニュース「隈研吾氏監修の八雲町新庁舎計画、白紙撤回へ住民説明会 設計費1.9億円が無駄に」
  • 八雲町公式サイト「八雲町役場庁舎等建設工事基本設計プロポーザル審査結果」
  • 国土交通省「設計、工事監理等に係る業務報酬基準について」
  • 国土交通省(資料)業務報酬基準の解説(算定枠組み)
  • 東京都建築士事務所協会「設計料ってどのくらい?(告示準拠の略算例)」
  • テレ朝NEWS「隈研吾氏設計の市役所 7年で劣化」
  • 文春オンライン「『木材も経年劣化する…』隈研吾が語った“腐食・カビ”トラブルへの回答」

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