兵庫・西宮市築40年の「ブランドマンション」で露わになったずさん工事

欠陥建築

――兵庫・西宮から考える「見えない構造リスク」

■ 事件の概要

兵庫県西宮市にある1985年分譲のブランドマンション。
40年の歳月を経て、基礎・床下の調査で計947カ所の施工不良が見つかりました。
鉄筋がコンクリートから露出(露筋)していたり、コンクリートが十分に回っていない“ジャンカ”、果ては鉄筋の切断まで。
分譲時には「一流デベロッパーと大手ゼネコンの安心ブランド」として販売された物件でしたが、その裏に“構造の闇”が潜んでいたのです。

発端は2022年。大雨の後、床下に浸水が起きたことをきっかけに住民が排水管を調べたところ、コンクリート片の詰まりが見つかり、専門家に依頼して基礎部を確認したところ次々と不具合が露見しました。


■ 分譲・施工・管理の構図

  • 分譲主:伊藤忠不動産(現・伊藤忠商事)
  • 施工:住友建設(現・三井住友建設)
    両社とも調査結果を認め、「構造耐力には影響しない」とする見解を発表しました。
    しかし、管理組合側の独自調査では、建築基準法違反の可能性がある箇所が365カ所にのぼるとされ、見解が真っ向から対立しています。

補修については、両社とも「社会的責任として無償対応する方針」としていますが、
築後40年という経過から法的責任は時効となるため、あくまで“道義的対応”にとどまる見込みです。

■ 「時効」の壁――なぜ補償が受けられないのか?

今回の西宮市のマンションでは、分譲主・施工主の両社が
「社会的責任として補修には応じる」としながらも、
法的責任はすでに時効により消滅しているという立場を取っています。

● 建築物の「瑕疵担保責任」とは?

もともと、日本の民法では、建物の売主や請負業者は
瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」を負います。
これは、引き渡した建物に**隠れた欠陥(瑕疵)**があった場合、
売主や施工者が修補や損害賠償に応じなければならないというルールです。

ただし、この責任には明確な時効期間があります。

● 時効期間の基本

区分内容時効期間
民法(旧法)瑕疵担保責任の請求は「引き渡しから10年」以内約10年
新民法(2020年改正後)「契約不適合責任」に名称変更。引渡後10年以内に請求約10年
建築士法・住宅品質確保法(住宅性能表示制度等)構造耐力・雨水侵入に関する瑕疵は10年間保証義務10年

つまり、分譲や引き渡しから10年を超えると、法的に補償を求める権利は消滅します。
今回のマンションは築40年。
引き渡しからすでに4倍の年月が経っており、
裁判上の賠償請求はほぼ不可能です。


● 「発見されたのが最近でも、時効は止まらない」

ここが多くの住民にとって納得しにくい点です。
法律上は「欠陥をいつ発見したか」ではなく、
引き渡しから何年経ったか」で判断されます。

つまり、工事の不具合が
・隠れていて誰も気づかなかった
・最近になって発覚した
場合でも、引渡しから10年以上経過していれば
原則として時効により請求権が消滅してしまうのです。


● 住民が取れる手段は?

  • ① 道義的責任の追及
    伊藤忠商事や三井住友建設のような大手企業は、
    信用維持のために“法的には義務でなくても補修する”という方針を取る場合があります。
    今回もまさにそのケースです。
  • ② 行政・自治体への相談
    建築指導課などに違反通報を行うことで、
    行政指導(是正勧告)を引き出す可能性もあります。
    ただし法的拘束力は限定的です。
  • ③ 損害賠償ではなく「信義則」に基づく請求
    稀に、「信義則上の特例」として補償が認められることもありますが、
    これは極めて例外的で、裁判所の判断に左右されます。

● 時効問題が投げかけるもの

この問題は、「築年数が古い建物は法的に守られない」という現実を示しています。
建物の寿命が50年以上になりつつある今、
10年という時効設定が時代に合っていないという指摘も多く、
法改正を求める声も上がっています。

同時に、購入者・所有者側も
定期的な点検・記録保管(履歴管理)」を行い、
不具合が出た際に早期発見・対応できる体制を持つことが大切です。



■ 管理組合と住民の行動

管理組合は、構造設計一級建築士による詳細調査を行い、
不具合の分布・原因・危険度を可視化した報告書をまとめました。
さらに、売主・施工主に対して、

  • 経営トップによる謝罪
  • 不具合箇所の補修計画
  • 将来的な補償・説明責任の履行
    を求めています。

なお、報道ではマンション名は伏せられていますが、
西宮市内の高台に建つ約80戸規模の階段状マンションとされています。


■ 「見えない構造」への警鐘

今回のケースの本質は、**“外から見えない部分の品質”**にあります。
基礎や床下は、完成後に住民が確認できることはほぼありません。
だからこそ「ブランドマンションだから安心」「新耐震基準だから大丈夫」という思い込みが危険なのです。

特にこの物件は傾斜地に建ち、一部の基礎が外部から確認できた“珍しいケース”だったため発覚しました。
つまり、全国の他のマンションでも同様の欠陥が潜んでいる可能性があります。


■ 建築学生・宅建士として考えること

このニュースは、設計・施工・分譲・管理の「分業構造」が複雑化した日本の住宅市場のリスクを浮き彫りにしました。

  • 設計段階では「施工性」や「監理の実効性」
  • 施工段階では「現場の検査・品質管理体制」
  • 分譲後は「管理組合の技術的理解・監督能力」
    がそれぞれ欠けていたと言えます。

建築学生の立場から見れば、“図面通りに作る”ことの重みを改めて学ぶ機会です。
また宅建士の視点では、物件調査(インスペクション)の重要性、
「築年数」ではなく「構造の実態」で判断する必要性を痛感します。


■ まとめ

  • 築40年のブランドマンションでも、施工不良は潜み得る
  • “安心ブランド”よりも、“現場の透明性”こそが安全の指標。
  • 管理組合・住民自身が専門家と連携して調査・再発防止策を立てることが今後の鍵。
  • 古いマンションほど、「構造の見える化」「履歴の共有化」が求められます。

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