■ 導入
全国に乱立した郊外ショッピングモール。その中には、建物規模だけを優先した結果、利用者が迷う/店に辿り着けない/テナントが定着しないといった「動線破綻」を起こす失敗例も少なくありません。
今回取り上げるのは、匿名化した (仮称)グランドパークモール。
オープン当初は“地域最大級”の呼び声が高かったものの、開業後数年でテナント撤退が相次ぎ、現在は大規模な改修計画が進行中です。
建築的な視点と不動産的な視点から、この「動線の破綻」を解剖します。
① 基本データ(匿名化した実在系モール)
- 名称:(仮称)グランドパークモール
- 所在地:地方政令市 郊外IC付近
- 開業:2010年代前半
- 延床面積:約13万㎡
- 店舗数:約200
- 駐車場:約4,000台
- 外観構成:3区画(ウエスト館・イースト館・センターコア)、吹き抜けアトリウム
- 開発:大手ディベロッパー
- 設計:大手ゼネコン系設計部
② “動線破綻”の中身(建築編)
■ 1. 区画の繋がりが悪すぎる
モールは
- 東館(イースト)
- 西館(ウエスト)
- 中央アトリウム(センターコア)
という3つのブロックで構成されているが、それぞれの接続が極端に悪い。
● 問題点
- 3階はウエスト館からセンター館に行けるが、2階は壁で遮断
- イースト館からセンター館に行くには一度1階に降りてから再度上がる必要
- 店舗前の視認性が極端に低い「裏通路」が多い
→ 利用者が 縦動線(エレベーター・エスカレーター)と横動線(通路)の接続を把握できず迷子になる構造になっている。
■ 2.「袋小路ゾーン」が多すぎる
日本のモールでは避けるべきとされる“行き止まりゾーン”が10か所以上存在。
特にウエスト館の3階は、スポーツ店・子供用品店など大型テナントを配置したものの、通り抜け不可のため、休日でも人が少ない。
→ 結果として、
テナントの売上が伸びず → 店舗撤退 → さらに人が減る
という負の循環に陥った。
■ 3. エスカレーターの配置が“逆”
通常、商業施設では
- 上りエスカレーターを来館者の視界に入る位置へ配置
- 2階で自然にメインモールへ吸い込むように誘導
するのがセオリー。
しかしこのモールは、
来客入口から最も遠い位置に上りエスカレーターがあるという致命的ミス。
→ 来館者は“どこから上がるのか”まず探す必要があり、その時点でストレスを感じる。
③ “動線破綻”の影響(不動産編)
■ テナントの入れ替わりが止まらない
動線の弱いエリアでは
- 開業から4年で約半数が撤退
- 現在は半永久的に空き区画
- 期間限定ショップばかりで固定客がつかない
という事態に。
■ 商業モール全体の集客低下
動線破綻により
- 回遊動線が短縮される(お客が回らない)
- 滞在時間が減る
- 買い回り額が減少
→ 年間来館者数はピーク時の60%以下まで落ち込んだ(推計)。
■ 不動産収益の悪化
運営側にとって
- 空き区画増加 → 賃料収入の低下
- 修繕費の増加
- 集客イベントへの依存度増
など、収支が悪化する。
④ なぜ「動線破綻」が生まれたのか(背景分析)
■ 1. モールの“巨大化競争”
開業当時は全国的に“地域最大級”をキャッチコピーにしたモールが増加。
床面積を増やしすぎ、敷地形状に無理やり収めるように建てられた結果、動線が歪んだ。
■ 2. アンカーテナント偏重
- 大手アパレル
- 電化量販店
- シネコン
- スポーツ大型店
などの大型テナントを優先しすぎた結果、
テナント配置(リーシング)が動線計画に勝ってしまった。
■ 3. 設計段階の「利用者目線」の不足
大型商業施設で本来必要な
- 行動観察
- シミュレーション
- 動線モデル作成
- ピーク時の群衆解析
が充分に行われていなかった可能性。
■ 4. 商業デザインの“視認性原則”を理解していない
商業施設設計では
- 見える・分かる・行ける
の3要素が重要だが、それを満たしていない。
⑤ 住民・利用者の声
- 「入り口で迷う」
- 「隣の館に行くのに1階まで戻るのが面倒」
- 「子連れだと移動距離が長すぎて疲れる」
- 「空き店舗ばかりで寂しい」
SNSでは、
“迷うモール” “使いづらい日本一”
などの言われ方も多い。
⑥ 建築学生の学び
- 建築計画は“形”より“動線”が最重要
- 回遊性を設計段階でシミュレーションするべき
- 動線計画の破綻はテナント構成より致命的になる
⑦ 宅建士・不動産実務の学び
- 商業施設の価値は「動線」と「滞在時間」に依存する
- 不動産開発は“規模の大きさ”ではなく“回遊率”で判断
- 空き区画の多さは建物価値の下落リスクそのもの
⑧ まとめ:なぜこの事例をシリーズに選んだのか
大型モールは一見すると“華やかで成功している建築”に見えるが、実は
動線の破綻=商業施設の死
に直結する。
今回の例は、
- 利用者目線が抜けた設計の危険性
- 不動産価値に直結する動線の重要性
- 商業建築が抱える構造的な課題
を象徴しており、シリーズに最適な“都市の失敗学”といえる。


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