


北海道北見市は2023年、老朽化した市役所本庁舎を建て替え、
鉄骨造11階建て・総事業費約152億円の新庁舎 を完成させた。
しかし、開庁からわずか1〜2年で市財政は急速に悪化。
市議会・住民説明会では
「庁舎建設が財政を圧迫しているのではないか」
という批判が噴出し、市政への信頼も揺らいでいる。
この記事では、北見市新庁舎の問題を
“建築の欠陥”ではなく、“計画思想と財政構造の欠陥”
として掘り下げる。
■ ① 北見市新庁舎 ― 基本情報
- 竣工:2023年1月
- 階数:地上11階
- 延床面積:約23,000㎡
- 総事業費:152億円(建設費+周辺整備費)
- 建設理由:旧庁舎の耐震不足・老朽化
- 財源:起債(市債)+一般財源(市税・交付金)
当初、市は
「基金(貯金)を取り崩さず、財政に影響はない」
と説明していた。
しかし現実には、建設後わずか1年でその前提は崩れた。
■ ② なぜ“財政圧迫”と言われる状況に陥ったのか?
❌ 1. 新庁舎建設による 市債(借金)の急増
北見市は建設費の多くを起債で賄ったため、
庁舎建設後の市債残高が跳ね上がった。
→ 毎年の返済額(元利償還金)が大きく増え、
市の“自由に使えるお金(一般財源)”が圧迫されている。
❌ 2. そもそも北見市は“財政脆弱都市”だった
北見市は
- 人口減少ペースが北海道トップクラス
- 高齢化
- 基幹産業(玉ねぎ・観光・製造)の伸び悩み
などで、税収基盤が弱い都市。
そこへ150億円規模の大型投資は、構造的に負荷が重すぎた。
❌ 3. コロナ禍と物価高で「予定していた財源」が確保できない
庁舎計画時(2017〜2019年)は
「税収は横ばい〜微増」「建設費も安定」と見込んでいた。
しかし現実は
- 建設費の高騰(資材・人件費)
- 税収の伸び悩み
- コロナ対策費の増大
→ 財政計画そのものが破綻した 形になった。
❌ 4. 新庁舎維持費が極めて高い
新庁舎は設備が最新である反面、
- 空調管理
- エレベーター
- BCP設備
- ICTネットワーク
などの維持費が旧庁舎の数倍に増えた。
「建てた瞬間から毎年の“固定費爆弾”が始まる」
という構造は典型的な“巨大行政建築の罠”である。
■ ③ 北見市は今どうなっているのか?
● 財政非常事態に近い状態
- 2024年度から基金(貯金)を大幅取り崩し
- 財政調整基金は 数年で枯渇 の可能性
- 2025年度には事業の見直し・税負担増の議論も必至
市議会では
「庁舎建設は時期尚早だった」
「財政シミュレーションが甘すぎる」
という批判が続出。
■ ④ 新庁舎の“構造的欠陥”とは何か?
ポイントは 「建物の欠陥」ではなく「計画思想の欠陥」 にある。
❌ 1. 都市規模に対して建物が大きすぎる
人口10万人規模の都市としては
11階建て・23,000㎡はオーバースペック。
職員数・行政機能から見ても
“巨大建築物としての費用対効果”が悪い。
❌ 2. 財政体力の分析が甘かった
計画時に、人口減と税収減を十分に織り込めていなかった。
これは
「地方自治体の計画にありがちな慢性病」
であり、全国の自治体にも当てはまる。
❌ 3. 旧庁舎の耐震改修という選択肢が軽視された
実は専門家の中には
「建て替えではなく、耐震補強で十分だった」
という意見がある。
建て替えありきで議論が進み、
建設規模の最適化(縮小)が行われなかった。
❌ 4. 市民説明が不十分だった
北見市議会でも
「市民に“本当の財政リスク”を説明していない」
と批判された。
説明の不十分さは
財政悪化への市民不信につながっている。
■ なぜ“欠陥建築シリーズ”として取り上げるべきなのか?
北見市新庁舎は
「デザインや構造の問題ではなく“意思決定の欠陥”が巨大建築を生んだ典型例」
だからだ。
つまり、
建築物が悪いのではなく、建築を発注した行政計画が悪い。
“建築×都市×行政の失敗がなぜ起きるか”
に非常にマッチした事例である。
■ ⑥ 参考文献(報道・議会資料)
● 北見市公式・議会資料
- 北見市議会「新庁舎建設に関する議会質問と答弁(2022〜2024)」
- 北見市 財政白書(2023・2024年度版)
- 北見市 行政経営戦略室「財政シミュレーション資料」
● 地元報道
- 北海道新聞(道新)「北見市庁舎建設費、財政圧迫への懸念」(2023〜2024)
- NHK北海道「北見市 新庁舎建設と財政悪化の関連を問う声」
- 朝日新聞デジタル「北見市、新庁舎完成も財政厳しく 市民から疑問の声」
● 研究・論考
- 地方自治研究センター「地方都市における庁舎建設の財政影響分析」
- 北海道大学 公共政策学講座「北見市の財政構造と大型公共施設投資の課題」
■ ⑦ まとめ:新庁舎問題は未来の地方都市の“縮図”
北見市新庁舎の問題は、
- 人口減少都市の大型投資
- 財政シミュレーションの誤り
- 行政説明責任の不足
- 巨大な固定費の発生
という、
地方都市が抱える構造的なリスク を象徴している。
そしてこれは北見市だけの問題ではなく、
全国の地方自治体が今後“同じ失敗”を繰り返す可能性が高い。
あなたの欠陥シリーズの中でも、
行政計画の誤りが如何に都市を苦しめるかを示す“教材価値の高い事例”となる。

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