―「ヒルズ」の次。建設費高騰が試す、垂直開発の限界
第4回は虎ノ門・六本木・赤坂。①〜③が千代田区・中央区の「業務都市の更新」だったのに対し、ここは港区、つまり森ビル型の一体開発が生み出してきた高低差の街です。
このエリアの現在地を一言で言えば、「完成の時代」から「延期の時代」へ。2003年の六本木ヒルズ、2014〜2023年の虎ノ門ヒルズ4棟、2023年の麻布台ヒルズと、20年かけて主要ピースが揃いました。そして次の一手である六本木五丁目西地区が、いま建設費と工期の壁に直面しています。
① 六本木五丁目西地区第一種市街地再開発事業
総延床面積 約108万㎡/2030年代前半
通称「第二六本木ヒルズ」。単体では日本最大級の再開発計画です。
A街区〜E街区に分かれ、A-1街区は事務所棟で地上66階・地下8階・高さ約327m、敷地面積約38,600㎡、延床面積約794,450㎡。B街区は高層住宅棟で地上70階・地下5階・高さ約288m、延床面積約239,050㎡、総戸数約800戸。C街区には小学校と幼稚園が入る東洋英和女学院(地上6階・高さ約34m)、E街区には南住宅棟(地上9階・約100戸)。D街区は既存の国際文化会館です。A-2街区は寺院、A-3街区は教会として再整備されます。A-1街区の低層部に商業施設とカンファレンス、最上部に国際水準のホテルと文化・展望施設が配置されます。 Livedoor
ホテルも決まりました。2026年5月15日、東京初進出となる「ローズウッド東京」が高さ約330mのメインタワー最上層部に入ることが発表されました。眼下に広がる16,000㎡の人工地盤上の「都心の森」と調和し、約200室の客室に加え複数のレストラン、宴会場、スパを備え、地区内のイベントホールやカンファレンス施設と連携して六本木エリアのMICE機能強化にも貢献するとしています。 Sakura
東京都の資料では、駅まち広場や交通結節広場、道路ネットワーク、地区内のバリアフリー動線など六本木駅前の拠点を支える都市基盤の整備が目的として掲げられています。 Tokyo Metropolitan Government
ただしスケジュールは後ろにずれ続けています。当初は2025年度着工・2030年度竣工の想定でしたが、現時点では2026年度の地区計画変更、2027年度の権利変換計画認可を経て着工し、2032年度の全体竣工を目指すとされています(2026年7月31日時点)。 LivedoorSakura
森ビルの辻慎吾社長は2025年の年頭所感で「非常に難しいプロジェクトであるうえ、工事費や工期などの見極めも難しくなっている」としつつ、権利者の合意形成を進めながら事業計画を詰めていく意欲を示しました。<cite index=”121-1″>2026年3月には「工期や工事費を詰めている段階」と述べ、着工に向けた山場を迎えていることを明らかにしています。</cite> Weblio
権利者調整も継続中です。2026年4月19日付の東京新聞によれば、外苑東通り沿いの商業ビルで8棟の地権者が交渉を続けており、ある地権者の役員は「六本木は大小の企業、飲食・小売店が集積して活気ある繁華街を築いてきた。同じような再開発が続くと街の個性が失われてしまう」として再開発地区からの除外を求めている一方、別のビルオーナーは「ビルも老朽化している。早くやってほしい」と話しています。 Weblio
同じ通り沿いで、まったく逆の声が同時に出ている。再開発の合意形成という問題が最も生々しく表れている現場だと思います。
② 赤坂二・六丁目地区開発計画
延床面積 約20.6万㎡/2028年3月末竣工予定
三菱地所とTBSホールディングスが、赤坂駅隣接地に事務所・店舗が入る地上40階・地下4階・高さ205.80m・延べ167,642㎡のビル(A工区/東街区)と、ホテル・劇場が入る地上18階・地下3階・高さ99.87m・延べ38,143㎡のビル(B工区/西街区)を新設します。設計は三菱地所設計、施工は東街区が鹿島建設、西街区が大林組。両棟とも2028年3月末竣工予定で、その後A工区の一部外構工事を進め、同年10月末に全体が完成する見込みです。 Skyskysky
「国際新赤坂ビル」跡地の大規模再開発で、TBSは赤坂でコンテンツを発信し続けてきた街の系譜を承継・昇華させる”赤坂エンタテインメント・シティ”をビジョンに掲げています。 Livedoor
B工区の中身が特徴的です。1階〜6階に最新技術を活用し世界水準のエンタテインメントを発信する劇場・ホール(約11,000㎡)を整備し、赤坂サカスとも連携。7階〜18階には「キャノピー by ヒルトン東京赤坂」が進出し、約31㎡を中心とした客室174室(うちスイート24室)、レストラン&バー、テラスカフェ、約77㎡のミーティング・ラウンジ、24時間利用可能なフィットネスルームを備えます。 Skyskysky
外観デザインは赤坂をどりに代表される「舞」をイメージしており、赤坂駅と建物の間は駅とまちの境界を感じさせない空間となる計画です。 Shutten-watch
放送局が自社の街を”劇場都市”として再編する、というのは日本では珍しいタイプの再開発です。
③ 西麻布三丁目北東地区第一種市街地再開発事業
敷地面積 約7,428㎡/2029年12月下旬竣工予定
六本木ヒルズの西隣、渋谷方向にあたる街区です。規模は地上54階・地下4階、高さ199.98m(最高201.20m)、延床面積96,832.49㎡、総戸数498戸(地権者住戸含む)。建築主は西麻布三丁目北東地区市街地再開発組合(参加組合員:野村不動産、ケン・コーポレーション)、設計は梓設計・大成建設、施工は大成建設で、2025年3月下旬着工。フロア構成は1〜2階が店舗、3階が事務所、4〜5階がホテル施設、6〜45階が住宅、46〜52階がホテルで、ホテル客室は47〜52階に配置されます。 Livedoor
野村不動産は2026年6月30日、高層部にカペラホテルグループのラグジュアリーブランド「カペラホテルズ&リゾーツ」が東京初進出すると発表しました。「カペラ東京」の名称で2030年の開業を予定しています。 Skyskysky
この地区では沿道建物の耐震性不足や公園等の不足が課題でした。事業では制振構造の超高層ビルを新設し、緑豊かな複合市街地を形成するとともに、地区内にある3つの寺社をそれぞれの棟に再整備してまちの歴史を継承します。<cite index=”142-1″>北側の広場には歩行者デッキが整備され、「六本木ヒルズクロスポイント」と接続。マンホールトイレや防災シェルターなどの災害時対応施設も整備されます。</cite> BuildApp News
3つの寺社を別棟として残すという処理は、①の六本木五丁目西地区(寺院・教会を独立街区にする)と共通します。港区の再開発における定石になりつつある手法です。
④ 虎ノ門三丁目プロジェクト
都市計画提案を2026年に予定
森ビルの「次の次」。辻社長は2025年の年頭所感で「2026年の都市計画提案を目指して推進する」との方針を示しました。同社は総延べ108万㎡を超える六本木五丁目西地区を進めており、これに続く新たなプロジェクトが動き出すことになります。 Kensetsunews
対象は虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの南側街区にある虎ノ門30・35・36・37森ビルという4棟の「ナンバービル」群で、虎ノ門ヒルズを南西へ拡大・進化させる構想です。<cite index=”131-1″>『新建築 2025年3月別冊』掲載の都市計画区域図により、区域は虎ノ門ヒルズ南側一帯に広がり、西側を江戸見坂、南側を地区幹線道路1号および気象庁・港区立教育センター合同庁舎、中央を国道1号線(桜田通り)が貫くとみられています。ただし現時点で正式な計画概要や事業規模、高さは公表されていません。</cite> Cocolog-nifty
森ビルが1970〜80年代に量産した「ナンバービル」の一斉更新——自社が作った第一世代の街を、自社が建て替えるというフェーズに入ったことを示す案件です。
⑤⑥⑦⑧ 完成済みのピースと、その意味
このエリアを読むうえで、完成済みの開発を押さえておくと位置関係が理解しやすくなります。
虎ノ門エリアは国家戦略特区プロジェクトにおける「国際的ビジネス拠点」地区に位置付けられており、2023年度には3月に虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業(麻布台ヒルズ)、7月に虎ノ門一・二丁目地区(A街区)、11月に虎ノ門二丁目地区 業務棟が相次いで竣工しました。虎ノ門一丁目東地区第一種市街地再開発事業は「東京虎ノ門グローバルスクエア」に隣接する外堀通り沿いの駅直結の敷地で、高さ約180m、低層階に店舗・ビジネス支援施設・カンファレンス・交流ラウンジ、高層階に事務所が入ります。 Kenbiya
また虎の門病院跡地の「虎ノ門アルセアタワー」が2025年2月に竣工、赤坂では「東京ワールドゲート赤坂」内に2026年3月30日より新たなショップ&レストランが順次開業しています。 Shutten-watch
つまり虎ノ門・麻布台・六本木を結ぶ「森ビル軸」は2023年でいったん完成し、いまは赤坂(三菱地所・TBS)と西麻布(野村不動産)という周縁で他社の開発が進み、その次の森ビル案件が着工待ち、という構図です。
まとめ:虎ノ門・六本木・赤坂の10年後
| 事業 | 規模 | 完成時期 |
|---|---|---|
| 六本木五丁目西地区 | 総延べ約108万㎡/327m・288m | 2032年度(全体) |
| 赤坂二・六丁目地区 | 延べ約20.6万㎡/206m・100m | 2028年3月 |
| 西麻布三丁目北東地区 | 約7,428㎡/200m | 2029年12月 |
| 虎ノ門三丁目プロジェクト | 未公表 | 2030年代後半 |
①〜③のエリアと違い、ここには「地下化する高速道路」も「19haの更地」もありません。あるのはすでに高密度に使われている土地を、さらに垂直に積み増すという選択肢だけです。だからこそ、327mや288mという数字が出てくる。
そしてその戦略が、いま建設費高騰という形で試されています。六本木五丁目西地区の竣工目標は2030年度から2032年度へ、③でも触れた帝国ホテルは解体着工が6年後ろ倒し。超高層による一体開発というモデルが、コスト面で成立しにくくなりつつある——2020年代後半の東京を見るうえで、このエリアが最もその兆候を映していると思います。
10年後、六本木交差点の南に330mの塔が立っているかどうか。それは単に1棟のビルの話ではなく、ヒルズ型開発が次の世代でも続くのかという問いへの答えになります。

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