―「日本一」が生まれる街。100年をかけた連鎖型更新の最前線
東京の再開発を15エリアに分けて追いかけるシリーズ。第1回は、日本のビジネス街の原点であり、いまなお最大級のプロジェクトが動き続ける丸の内・大手町(+有楽町)です。
このエリアの特徴は、単発の建替えではなく「連鎖型再開発」という手法にあります。まず1棟を建て、そこに既存ビルの機能を移し、空いた敷地を次の再開発に使う——という玉突きを繰り返すことで、業務を止めずに街全体を更新していく。UR都市機構が主導する「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」は、業務活動を中断することなく老朽化した建物を連鎖的に建て替える仕組みで、現在のTOKYO TORCHはその第4次にあたります。 UR Network
上の地図が、いま動いている主な事業の位置です。順に見ていきましょう。
① TOKYO TORCH(大手町二丁目常盤橋地区第一種市街地再開発事業)
敷地面積 約31,400㎡/竣工 2028年(全体)
東京駅日本橋口の目の前、約3.1haという東京駅周辺で最大級の街区です。
A棟「常盤橋タワー」(地上38階・高さ212m・延べ約146,000㎡)は2021年6月に竣工済み。中核となるB棟「Torch Tower」は地上62階・地下4階・高さ385m・延べ約553,000㎡で、オフィスを主体に高層階へ展望施設、国際級ホテル(約100室)、賃貸レジデンス(約50戸)を配置し、低層部に約2,000席の大規模ホールと商業ゾーンを整備します。完成すればあべのハルカス(300m)、麻布台ヒルズ森JPタワー(325m)を上回る日本一の高さとなり、2026年3月には低層部の架構が完工してメディアに公開されました。2026年中に高さ300mに到達し、2027年5月に最上層の工事が始まる予定です。 SkyskyskyOfficetar
デザイン面も豪華で、高級ホテルブランド「Dorchester Collection」がアジア初進出、タワーのデザインアドバイザーには藤本壮介建築設計事務所と永山祐子建築設計が参画しています。 Nikkei
計画の要は高さよりも足元の広場です。街区中央に広がる約7,000㎡の大規模広場「TOKYO TORCH Park」を核に、低層部に張り巡らされた空中散歩道と、そこに連なる屋上庭園からなる緑豊かな屋外空間をシームレスにつなぐ構成。また街区中央地下の東京電力変電所を改修しながら機能更新するC棟(変電所棟、延べ約20,000㎡)や、東京都下水道局のポンプ場をビル化したD棟「銭瓶町ビルディング」(地上9階・高さ53m)も同時に整備されており、都市インフラごと立体的に組み替えている点が、この再開発の本当のすごみだと思います。 Mec + 2
② 大手町ゲートビルディング(旧・内神田一丁目計画)
敷地面積 約5,100㎡/2026年1月竣工
大手町と神田の”境目”を書き換えるプロジェクトです。日本橋川に新たに人道橋を架け、大丸有地区から続く「丸の内仲通り」「大手町仲通り」の機能を神田側へ延伸。人道橋の先には約1,000㎡の広場が整備され、神田エリアと大手町エリアの新たな交流と賑わいを生み出します。さらに日本橋川沿いに防災船着場を新設し、大手町エリアから地域冷暖房施設(DHC)を延伸することで、エリア全体のエネルギーネットワーク拡大と環境負荷低減にも寄与します。 Mecyes
住所は内神田ですが、名前は「大手町ゲート」。これにより大丸有地区を貫く仲通りの賑わいが神田エリアへ延びるという位置づけがそのまま名称になっています。オフィス床をつくるだけでなく、川を渡って街の境界を溶かすタイプの開発として、規模の割に意義の大きい一件です。 Jpc-net
③ (仮称)丸の内3-1プロジェクト(国際ビル・帝劇ビル建替計画)
敷地面積 約9,450㎡(国際ビル5,623㎡+帝劇ビル3,825㎡)/都市計画手続中
皇居外苑のお濠に面した一等地で、1966年竣工の国際ビル(三菱地所・日本倶楽部所有)と帝劇ビル(東宝・出光美術館所有)を一体的に建て替える計画です。 TECTURE MAG
三菱地所・東宝・出光美術館の3者による共同事業で、帝国劇場・出光美術館の再整備と機能強化、皇居外苑を眺める低層屋上テラスの整備、東京メトロ有楽町線・都営三田線との駅まち接続、JR有楽町駅東西を結ぶ地下通路の新設などを特徴とし、国家戦略特別区域の都市再生プロジェクトとして手続きが進められています。2024年12月に発表されたA街区の概要では、高さ145mのビルが建設可能となり、低層部には皇居外苑を望みイベント会場にもなる屋上テラスを整備。最新の高機能オフィス、商業施設、文化施設、外国人ワーカー向け住宅などが含まれ、帝国劇場と出光美術館もそれぞれ更新・拡充のうえ再整備されます。建物全体の設計は三菱地所設計、低層部の外装デザインは建築家の小堀哲夫氏が提案しています。 Mec + 2
「オフィスビルの中に劇場が入る」のではなく、劇場と美術館を核に据えたまま超高層化するという珍しい構図。文化施設の建て替えをどう都市計画のインセンティブに載せるか、という点で参考になる事例です。
④ 有楽町ビル・新有楽町ビル建替計画 / YURAKUCHO PARK
敷地面積 約10,800㎡(有楽町ビル3,551㎡+新有楽町ビル7,233㎡)
有楽町ビル(1966年竣工・SRC造地下5階地上11階)と新有楽町ビル(1967年竣工・SRC造地下4階地上14階・延べ約83,000㎡)を解体し、跡地にまちづくりを牽引する旗艦ビルを建設する計画で、解体工事は大成建設の施工により2024年12月1日に着工、2026年8月31日の完了を目指しています。 Kensetsunews
注目すべきは、完成までの”空白期間”の使い方です。三菱地所は解体後の跡地に暫定利用施設「YURAKUCHO PARK」を2026年度後半に開設予定。有楽町駅前・約1ヘクタールの跡地を活用した文化発信拠点で、新ビル建設までの暫定期間に都市体験を創出する新たな再開発モデルの提示を狙っています。NOT A HOTELの空間演出による日本文化の発信拠点を整備し、まちの価値向上やファンづくりにつなげる暫定利用の新しいモデルケースという位置づけです。 Cocolog-nifty + 2
有楽町エリアは、文化・エンタメ・商業といった都市観光機能の高さで大手町や丸の内とは異なる特性を持ち、アーティストと共創しながらまちを再構築する「有楽町アートアーバニズム」などが展開されています。10年近くかかる再開発の”間”を空き地にしない——学生の設計課題でも応用が効く考え方だと思います。 Mec
⑤ エリア全体の枠組み ―「丸の内NEXTステージ」
個別事業の背景として押さえておきたいのが、三菱地所の長期計画です。2002年竣工の丸ビルから2007年の新丸ビル・ザ・ペニンシュラ東京までが「第1ステージ」、2009年の丸の内パークビルから2018年の丸の内二重橋ビルまでが「第2ステージ」、2020年以降が「丸の内NEXTステージ」という区切りです。同社は2030年までに最大7,000億円程度を投下して再開発を推進するとしています。 Impress Watch + 2
近年は建物単体ではなく面の運営へ軸足が移っており、丸の内仲通りをはじめとする公的空間を活用したイベントや道路の歩行者空間化への挑戦、キッチンカー誘致など、個社やビル単位ではできない「まちまるごと」の取り組みが展開されています。2025年12月には地区の現状をデータで可視化する「大丸有エリア評価ダッシュボード(OMY AREA DASHBOARD)」も公開されました。 MecTokyo-omy-council
まとめ:丸の内・大手町の10年後
| 事業 | 敷地面積 | 完成時期 |
|---|---|---|
| TOKYO TORCH(Torch Tower) | 約31,400㎡ | 2028年 |
| 大手町ゲートビルディング | 約5,100㎡ | 2026年1月(竣工済) |
| 丸の内3-1プロジェクト | 約9,450㎡ | 2030年代前半 |
| 有楽町ビル・新有楽町ビル建替 | 約10,800㎡ | 2030年代(暫定利用は2026年度) |
このエリアの再開発は、床を増やすフェーズから「街路・広場・地下通路をどう編むか」のフェーズへ完全に移行しています。仲通りを神田へ延ばす(大手町ゲート)、有楽町駅の東西を地下でつなぐ(丸の内3-1)、街区中央に7,000㎡の広場を置く(TOKYO TORCH)——いずれも主役はビルではなく、その間の空間です。
2028年にTorch Towerが立ち上がれば、東京駅を挟んで丸の内側(歴史的スカイライン)と常盤橋側(385mの垂直軸)という対照的な風景が完成します。街の”顔”が二極になる瞬間を、これから数年かけて見られることになります。


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