(都市計画・建築から読み解く、あいりん地区/釜ヶ崎の成り立ち)
大阪・西成(とくに新今宮駅南側の、あいりん地区=旧来「釜ヶ崎」)は、いまでも「治安が悪い」「怖い」と語られがちです。
でも、これを“地域の気質”で片づけると本質を見失います。西成のイメージは、戦後の都市の成長過程で 「日雇い労働」「簡易宿所(ドヤ)」「福祉・治安対策」を一点に集める という、都市の“設計上の選択”が積み重なってできたものだからです。
1) まず前提:「寄せ場」は都市のインフラだった
釜ヶ崎は、いわゆる「寄せ場」=日雇い労働力を大量に供給するための結節点として機能してきました。港湾・建設・土木など、“その日その場で人手が必要な仕事”を支える仕組みです。
ここで大事なのは、寄せ場が自然発生したというより、都市が高度成長していく中で、労働市場の都合に合わせて人が集まり、住まい(簡易宿所)も集積し、行政対応も集積したという点です。
2) 「治安が悪い町」化の引き金:集積が“社会問題の集積”にも変わった
高度成長期:若い労働者が流入 → 住まいは“最小限”へ
全国から来た単身男性労働者が多く、住まいは低家賃の簡易宿所へ集中。
建築的には、小さな個室・共同設備・高密度になりやすく、生活の余白が少ない。これ自体が悪いわけではありませんが、景気の波を受けると一気に脆くなります。
バブル崩壊以降:仕事が減る → “居住”が困難に → 路上生活・健康問題・摩擦
仕事が減ると、寄せ場は「労働の結節点」から「困窮の滞留点」に性格が変わります。
高齢化や生活困難が進む中で、路上生活、健康(結核など)、依存などの課題が表に出やすくなり、結果として トラブルが目立つ環境ができやすい。行政も西成に課題が集約されていると整理しています。
3) 都市計画の視点:西成は「都市の“裏方機能”」を背負わされた
西成・あいりん地区は、都心や観光地に近い一方で、長く「課題対応を集める場所」として扱われやすかった。
- 福祉・就労・治安の対策が“地区単位で”組み立てられた(役割分担の固定化)
- その結果、支援の蓄積はできた一方で、「この場所はそういう場所」という都市のラベリングも強化される
- ラベリングは投資を遠ざけ、建物更新(建替え・用途転換)も進みにくくし、古いストックが残りやすい → さらにイメージが固定される
これは都市計画でよく起きる「集積の自己強化」です。いったん集まった機能は、便利だからこそ集まり続け、外からは“性格が変わらない街”に見えます。
4) 建築の視点:空間が“衝突”を生みやすい構造になりがち
街の「怖さ」は犯罪件数だけで決まらず、空間体験で増幅されます。
- 簡易宿所の高密度集積:出入りが多い/短期滞在が多い → 顔が見えにくい
- 路上の滞留空間:待機・休憩・支援待ちなどが路上に出やすい(居場所不足の都市設計)
- 老朽ストック:暗がり、見通しの悪さ、狭い街路が残りやすい
- 用途の単一化(宿・労働・支援中心)→ 家族世帯や日中人口の多様性が生まれにくく、自然監視(“普通の往来”)が弱くなりやすい
要するに、治安は「警察力」だけでなく、混ざり方(用途混在)と居場所の設計に左右されます。
5) 「いまはどうなの?」—改善も同時進行している
一方で、西成はずっと同じではありません。大阪市は西成特区構想として、治安・環境・福祉・子育て世代流入などをパッケージで進めてきた、と公式に整理しています。
また、市は区別の犯罪発生状況も公表しており、数字で現状を追えるようになっています。
さらに、新今宮周辺はインバウンドやホテル開発などで「街の使われ方」が変わりつつあり、その変化が期待と懸念の両方を生んでいることも報じられています。
まとめ:西成が“治安の悪い町”と呼ばれてきた理由
西成(あいりん地区)は、
①日雇い労働という都市のインフラが集まり、
②景気変動で困窮が集中し、
③行政対策も集中して「ラベル」が固定化し、
④高密度・老朽ストック・居場所不足が体感治安を悪化させやすかった──
この“集積の連鎖”が、イメージを作ってきた、という構図です。
参考文献(一次情報・公的資料中心)
- 大阪市「西成特区構想事業の進捗状況(令和7年9月末現在)」
- 大阪市「今後の西成特区構想について(平成30年度~)」
- 大阪市「大阪市の犯罪発生状況(区別データ)」
- アジア・太平洋人権情報センター(HURIGHTS OSAKA)「大阪・釜ヶ崎で動き始めた地域福祉とまちづくり」
- 嵯峨嘉子「戦後大阪市における『住所不定者』対策について」(大阪公立大学リポジトリ掲載)
- 原口剛「1950-60年代の港湾運送業における寄せ場・釜ヶ崎の機能」
- 水内俊雄「スラムの形成とクリアランスからみた大阪市の戦前・戦後」(立命館大学 人文科学研究所紀要)
- 福島義和「あいりん地区の再生と生活困窮者の高齢化」
- 毎日新聞「星野リゾートで変わる新今宮…懸念の声が上がる理由」

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