― 容積を積まない再開発。人口減少を前提にした街づくり
シリーズ最終回は多摩。立川・八王子・町田を中心に見ていきます。
①〜⑭で追ってきた東京23区の再開発は、突き詰めれば「容積率の緩和と引き換えに公共貢献を得る」という一つの方程式で説明できました。都市再生特別地区、高度利用地区、都市再生特別措置法。制度は違っても、床を増やして事業を成立させるという構造は共通です。
多摩ではその方程式が使えません。地価も賃料も需要も、23区の水準にはない。だからここでは、まったく違う手法が試されてきました。そしてその一部は、いま23区が直面している行き詰まりへのヒントになっていると思います。
① 町田駅周辺開発推進計画(A〜D地区)
4地区/概ね2040年頃の完成目標
多摩でいま最も注目される計画です。
町田駅周辺は開発から約50年が経過し、施設の老朽化が進んで大規模再開発の時期を迎えています。町田市は2024年6月に「町田駅周辺開発推進計画」を公表し、再開発に向けて検討が進められている地区を「開発推進地区」と位置づけてA〜Dの4つのエリアに区分。D地区は「町田駅周辺開発をけん引するリーディングエリア」とされています。原町田大通りや原町田中央通りなどでは、まちの賑わいや活気を高めるための取り組みに先行して着手します。
背景には危機感があります。開発から約50年が経過し大規模な機能更新の時期を迎えていること、駅周辺の優位性低下という認識のもと、官民連携で再開発を推進する機運が高まっています。計画書では「首都圏南西部における新たな拠点形成の動き」も指摘されており、近隣の橋本駅南口ではリニア新駅を見据えて2023年11月に「相模原市リニア駅周辺まちづくりガイドライン」が策定されています。地権者からも「駅周辺を一体的に開発することでより良いまちになる」との声が出ています。
進め方は慎重です。町田市は2026年度当初予算で「中心市街地まちづくり推進事業」に1億1,233万円を計上。対象はA〜C地区で、新バスセンターとペデストリアンデッキ整備に向けた概略検討とガイドライン策定を行い、「(仮称)町田駅周辺交通基盤・公共空間整備方針」の策定を目指します。地権者向けの勉強会も並行して開催予定です。つまり2026年度の時点では、建物が具体的に動き出すというより、駅前の歩行者動線とバス乗り場をどう再編するかという交通インフラの設計段階にあります。概ね2040年頃の完成を目指し、地区によって完成時期は異なり、交通機能を担うA地区が最も早く、D地区が最後になる見込みです。
まず交通基盤、建物は後。⑧新宿や⑨池袋のターミナル再編も同じ順序ですが、町田では建物の計画すらまだ描かれていない段階でデッキとバスセンターの検討に予算をつけている。この順番の徹底ぶりは、23区の大型案件が次々と延期になっている状況を見ると、むしろ堅実に映ります。
② 多摩都市モノレール 町田方面延伸
運行開始 2040年代目標
町田の再開発を駆動する最大の要因です。2021年12月に多摩都市モノレール町田方面の延伸ルートが選定され、モノレールの起終点となる町田駅周辺の道路ネットワークや歩行者空間の在り方を再検討し、駅周辺街区の機能更新とあわせて便利で快適、魅力ある都市空間の形成が求められています。A地区に計画されている多摩都市モノレールの町田新駅は延伸事業とセットで進み、延伸区間の導入空間となる道路整備は2024年3月に一部区間が開通済み。モノレール自体の運行開始は2040年代を目標としています。
⑫湾岸の臨海地下鉄(2040年開業目標)とまったく同じ時間軸です。東京の交通インフラ整備は、いま計画しても供用は2040年代という現実がここにも表れています。
③ 八王子ミライテラス
2026年10月誕生
八王子駅南口に位置する八王子医療刑務所跡地に、公園、ライブラリー、ミュージアム、交流スペースが一体となった集いの拠点「八王子ミライテラス」が誕生します。
整備の理由づけが特徴的です。自宅でも学校・職場でもない、居心地の良い第三の居場所「サードプレイス」の重要性は高まっており、市の将来を見据え新たなニーズであるサードプレイスを提供することが整備目的とされ、集いの拠点が充実することで定住人口の維持も目的としています。
「定住人口の維持」が再開発の目的として明記されている。①〜⑭では一度も出てこなかった動機です。丸の内が国際競争力、渋谷がクリエイティブ産業、池袋がアート・カルチャーを掲げるのに対し、八王子は「人に住み続けてもらう」ことを目的にしている。人口減少社会における都市整備の目的が、率直に書かれています。
そして手段は超高層ではなく公園と図書館です。床を増やすのではなく、居場所をつくる。⑦渋谷の西武跡地について「休める場所が求められている」という指摘を紹介しましたが、八王子はそれを最初から公共事業として実装しています。
④⑤⑥⑦⑧ 立川 ― 多摩でいちばん成功した再開発
立川は多摩の再開発の教科書です。
「たちかわシティ21」に整理された事業群を見ると、その構成がわかります。交通渋滞と市街地の分断の解消を目指したJR中央線(三鷹駅・立川駅間)連続立体交差事業・複々線化計画、国営昭和記念公園と立川広域防災基地、立川駅南口第一地区第一種市街地再開発事業と南口土地区画整理事業、立川駅北口駅前土地区画整理事業と北口西地区第一種市街地再開発事業、そして立川基地跡地関連地区第一種市街地再開発事業(ファーレ立川)と駅前歩道立体化計画。
ファーレ立川は業務核都市構想にもとづき多摩地域に整備された再開発で、行政機能・業務機能・商業機能・文化機能を高度に集約した「職」「遊」の融合したまちづくりを目指し、建物のデザインも潤いのある街並み形成のためのガイドラインに沿って進められました。
36か国92人の作家による109点のパブリックアートを街区全体に埋め込んだことで知られ、1994年の完成から30年以上を経ていまも評価されています。②八重洲の「街区中央の広場」や⑨池袋の「第3の劇場空間」といった公共貢献の考え方の、かなり早い時期の実践例です。
北側では民間の動きもあります。立飛ホールディングスは前身から数えて95年の歴史を持ち、「次の100年も、ここ立川でと考えたとき、やはり街が強くないと、我々も事業を続けられない。街の活力が高まり、街としてのブランド力が高まり、その結果としてこの街の発展に貢献する。そういう街づくりを目指している」として、目先の収益を確保するためでなく次の100年を切り開くための再開発だと割り切った街区開発を進めてきました。
伊勢丹や高島屋、ルミネ、IKEAなど大型商業施設が集積し、家電量販店が立ち並ぶ多摩地区の一大ターミナル——という立川の姿は、これらの積み重ねの結果です。
そして立川については、「渋谷や六本木の没個性な再開発が続く東京で、立川だけが成功している」という評価も出ています(オラガ総研・牧野知弘氏、2026年5月)。同氏は東京の再開発の背景として、市街地再開発事業という法定再開発の制度により一定の条件下で容積率の緩和が認められ、高層の建物を建設することが容易になり、戦後まもなく都心部に建設された多くの住宅や商店、中小ビルなどの敷地をまとめて超高層オフィスビルが建設されるようになったと指摘しています。
まとめ:多摩の20年後
| 事業 | 規模 | 完成時期 |
|---|---|---|
| 町田駅周辺(A〜D地区) | 4地区 | 概ね2040年頃 |
| 多摩都市モノレール町田延伸 | — | 2040年代 |
| 八王子ミライテラス | 医療刑務所跡地 | 2026年10月 |
| 立川(各事業) | — | 概ね完了 |
多摩の再開発が23区と違うのは、時間の使い方です。町田は2026年度をデッキとバスセンターの概略検討に充て、完成は2040年頃を見込む。立川は1980年代から30年以上かけて連続立体交差、区画整理、再開発、公園整備を順に積み上げてきた。八王子は超高層ではなく公園と図書館を選んだ。
23区の再開発が、いま次々と延期・見直しに追い込まれています。⑧新宿西南口は工期未定、⑭中野サンプラザ跡地は事業者ごと再公募、③帝国ホテルは6年後ろ倒し、④六本木五丁目西地区も2032年度へ。理由はいずれも建設費高騰です。
床を積んで採算を取るモデルが、コストの上昇に耐えられなくなっている。そのとき参考になるのが、床に依存しない多摩の手法かもしれません。ファーレ立川のパブリックアート、八王子のサードプレイス、町田の交通基盤優先。どれも「超高層1棟で街を変える」発想とは異なります。

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