【東京再開発マップ ⑭】城西・城南

都市・再開発

― 262mの計画が白紙に戻った街と、開業した街

建設中 計画・見直し中 竣工済

第14回は城西・城南。中野・大井町を中心に、下北沢・二子玉川といった先行事例も交えて見ていきます。

このエリアの2026年は、対照的な2つのニュースで語られます。ひとつは3月に開業した大井町のOIMACHI TRACKS。もうひとつは、事業者選定からやり直しになった中野サンプラザ跡地です。同じ「駅前の大規模再開発」が、片や完成し、片や振り出しに戻った。その差がどこから来るのかが、このエリアの読みどころです。


① 中野四丁目新北口駅前地区第一種市街地再開発事業(中野サンプラザ跡地)

区域面積 約5.2ha/事業計画 見直し中

このシリーズで扱った全案件の中で、最も大きくつまずいたプロジェクトです。

中野駅新北口駅前エリアは旧中野区役所、中野サンプラザ等の公共・公益的施設が立地していることが特徴でしたが、建物はいずれも老朽化し更新が必要で、バス停の散在や駅前の滞留空間の不足などの課題を抱えていました。中野区役所や中野サンプラザなどを含む約5ヘクタールの地区を再開発し、エリア全体は「NAKANOサンプラザシティ」と名付けられ、7,000人収容の大ホールを含むNAKANOサンプラザ、低層階が商業施設・中層階がマンション・高層階がオフィスとなるシンボルタワー、広場などが設けられる計画でした。中野サンプラザは2023年7月2日をもって閉館。当初計画の再開発事業者は野村不動産、東急不動産、住友商事、JR東日本、ヒューリック(2024年離脱)でした。計画では高さ約262メートル、地上61階、地下3階の超高層複合ビルが建設される予定で、最大7,000人規模を収容する多目的ホール、大規模なオフィスフロアと商業施設、高層部に国際水準のホテルや都市型住宅、駅前広場・歩行者デッキの整備が盛り込まれていました。

しかし現在、計画は白紙に近い状態です。区は2027年2月をめどに見直し案を作成し、2027年度に新たな民間事業者を公募・選定する方針を示しています。ホールの規模や、住宅・オフィス・商業の用途構成なども改めて検討されており、サンプラザ跡地を含むエリアの新たな姿が今後具体化していく見込みです。区域面積は約5.2ha(中野四丁目新北口駅前土地区画整理事業/UR施行)で、主な用途はホール(集客交流施設)、オフィス、商業、住宅等(見直し中)、事業者は再公募により選定予定(2027年度予定)、竣工は未定となっています(2026年6月時点)。

262m・61階の計画が、事業者ごと白紙に戻る。⑧新宿の西南口が「工期未定」だったのに対し、こちらは「計画そのものの再検討」です。建設費高騰が再開発に与える影響として、これが現時点で最も極端な事例だと思います。

不動産市場の見方も分かれています。強気シナリオではサンプラザ跡地にも魅力的な文化施設が整備され新北口駅前広場の完成で街のブランドが一段上がるとされる一方、中立シナリオでは駅と囲町の再開発は評価されるがサンプラザ跡地は長めの「様子見」状態、慎重シナリオではサンプラザ跡地の計画が長期にわたり停滞するとされ、「中立シナリオを基準に、サンプラザ跡地次第でプラスにもマイナスにも振れうる」というのが比較的バランスの良い見方だと指摘されています。

② (仮称)中野駅西口開発

地上5階・高さ28.269m(最高31.824m)・延べ18,354㎡/2026年供用開始

サンプラザ跡地が止まる一方で、駅そのものの整備は進んでいます。中野駅自由通路、新駅舎、駅ビルなどを整備するもので、建築主・設計はJR東日本、施工は鹿島建設。駅ビルは2026年に供用を開始する見込みです。

駅(JR単独)は進み、駅前広場(区+民間組合)は止まる。⑨池袋で見た「駅直上は鉄道会社の個人施行、周辺は組合施行」という構図が、ここでは進捗の差として表れています。事業主体が単純なほど早いというのは、市街地再開発事業の宿命です。

区役所の移転はすでに完了しています。中野サンプラザの西隣にあった中野区役所は中野セントラルパークの北側の中野体育館跡地に移転し、「構造・意匠・環境計画が三位一体となって相乗効果を発揮する環境にやさしい庁舎」をテーマとする「中野区新庁舎」(地上11階、地下2階)が2024年2月に竣工、5月に開庁しました。

③ 中野三丁目地区・囲町地区

中野駅の南西側(三丁目)と北西側(囲町)でも再開発が進行中です。囲町地区では住宅の大量供給が進んでおり、市場では「囲町の供給過多が一時的に賃料・価格を押し下げる」可能性も指摘されています。

④ OIMACHI TRACKS(大井町駅周辺広町地区開発)

区域面積 約7.1ha/2026年3月まちびらき

こちらは予定どおり開業しました。

JR大井町線、東京臨海高速鉄道りんかい線、東急大井町線の3線が乗り入れる大井町駅のすぐそばで、オフィス・ホテル・商業施設・レジデンスなどから構成される大規模再開発ビルの建設が進められてきました。JR東日本は羽田空港の国際化やリニア中央新幹線の整備などによる交通インフラの充実・進化を見据え、JR浜松町駅から大井町駅間の東京南エリアの各駅周辺を「広域品川圏」と位置づけてまちづくりを推進しており、本開発は「都市生活共創拠点」としてその一翼を担います。まちの名称は「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」と決定され、2026年3月のまちびらきに向けてJR東日本グループ初のサービスレジデンス、開放的なアウトモール型商業施設などが整備されました。

構成は2棟です。東側の建物はホテルと住宅が入るタワー、その西隣がオフィスタワー。TOHOシネマズやホテルも出店します。品川区の庁舎区域も合わせた再開発の面積は約7.1haに及び、最も東側に位置するJR大井町駅に新たな改札口が新設され、新しい広場が設けられます。交通広場も設置されるため、大崎方面への交通がよりスムーズになると見込まれています。

⑤浜松町・田町、⑥品川・高輪・大崎で扱った「東京サウスゲート」「広域品川圏」の南端が、この大井町です。浜松町(235m)→品川(152m)→大崎(143m)→大井町という帯が、JR東日本の手で一続きに整備されてきたことになります。

⑤⑥ 大井町の残るピース

大井町の再開発の歴史も長く、前半にはA地区の「品川区立総合区民会館 きゅりあん」やD-1地区の「イトーヨーカドー大井町店」が建築され、2011年と2014年には「阪急大井町ガーデン」が建設されました。2023年には品川区が「大井町駅周辺地域まちづくり方針」を策定。2026年3月にOIMACHI TRACKSが開業し、残る大きなプロジェクトは品川区新庁舎建設のみとなりました。品川区新庁舎の整備は2029年秋ごろに完成予定です。一方、大井町駅西口E地区は2023年に再開発準備組合が設立されたばかりで、どのように開発が進むかは未知数です。

再開発検討地はC〜G地区として駅の南側や東側にも及び、中でもC地区に指定されている駅北東側の「東小路飲食店街」は飲み屋が軒を連ねる区域です。

⑪秋葉原の電気街、⑫月島の路地、⑬北千住の商店街と同じ論点が、ここにもあります。駅前の飲食店街をどう扱うかは、いまの東京の再開発に共通する未解決の課題です。

⑧⑨ 参考 ― 高層化しなかった再開発

このエリアには、超高層に頼らない再開発の先行事例が2つあります。

ひとつは二子玉川ライズ。駅と公園と商業を一体で整備し、2015年に全体竣工しました。もうひとつが下北沢です。小田急線の地下化で生まれた約1.7kmの線路跡地を、高層ビルではなく低層施設の連なりとして再生した「非再開発型」の手法で、2022年に全体開業しました。

中野サンプラザ跡地の262m計画が白紙になったいま、下北沢の方法論はあらためて検討に値すると思います。大きなホールと超高層1棟で街を更新するか、小さな施設を線状に並べて時間をかけて更新するか。前者は建設費に直撃されますが、後者はされにくい。


まとめ:城西・城南の10年後

事業規模完成時期
中野四丁目新北口駅前地区約5.2ha(旧計画262m・61階)未定(2027年度に再公募)
中野駅西口開発5階/18,354㎡2026年
OIMACHI TRACKS約7.1ha/2棟2026年3月(開業済)
品川区新庁舎2029年秋
大井町駅西口E地区未定

このエリアが示しているのは、再開発の成否を分けるのは立地ではなく事業スキームの単純さだということです。

大井町はJR東日本という単一の大地主が7.1haを持ち、品川区と組んで進めた。だから予定どおり2026年3月に開業した。中野は区の公共施設が核にあり、5社のコンソーシアムが組まれ、そのうち1社が2024年に離脱し、建設費高騰で全体が崩れた。

そして中野の教訓は、「公共施設の建替え費用を再開発の床で賄う」というスキームの脆さにあります。中野区の資料には「新庁舎整備の財源は、再整備事業を通じて確保」と明記されています。つまり区役所を建てるお金を、サンプラザ跡地の超高層から得る設計だった。床の価値が建設費に負けた瞬間、この方程式は成立しなくなります。

⑨池袋のHareza(区旧庁舎跡地)、⑤浜松町の区立芸術ホール、⑬北千住の子育て支援施設。このシリーズで何度も出てきた「公共施設を再開発の床で確保する」手法が、いま試されている。中野の再公募がどう決着するかは、2030年代の日本の駅前再開発すべてに影響する話だと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました