東京駅日本橋口のすぐ北側、日本橋川に面した街区で高さ218mの超高層ビルの建設が進んでいます。「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」です。
このプロジェクトが特別なのは、首都高の地下化とセットで計画されている点です。現在この場所は、日本橋川の上を首都高速道路の高架が覆っています。その高架が撤去された後の景観を前提に、建物が設計されているわけです。
つまりこの再開発は、「川の上に道路がある東京」から「川に向き合う東京」への転換を、実際の建物で具体化する事業です。この記事では、何ができるのかと、景観がどう変わるのかを整理します。
基本スペック
地図:OpenStreetMap/位置は概略です。南北街区の範囲は目安として表示しています。
この事業は南北2つの街区に分かれています。ここを混同しないことが理解の第一歩です。
| 項目 | 南街区 | 北街区 |
|---|---|---|
| 位置 | 永代通り沿い | 日本橋川沿い |
| 規模 | 地上44階・地下3階 | 地上2階・地下1階 |
| 高さ | 約218m | 約12m |
| 敷地面積 | 約7,560㎡ | 約1,700㎡ |
| 延床面積 | 約185,500㎡ | 約1,000㎡ |
| 構造 | SRC造・RC造・S造 | S造 |
| 用途 | 事務所・店舗・宿泊施設・駐車場等 | 店舗 |
| 竣工予定 | 2029年度 | 2032年度 |
全体では敷地約9,260㎡、延床約186,500㎡。所在地は東京都中央区八重洲一丁目1番他です。
事業体制はこうなっています。
| 役割 | 担当 |
|---|---|
| 施行者 | 八重洲一丁目北地区市街地再開発組合 |
| 特定業務代行者・参加組合員 | 東京建物、東京ガス不動産、明治安田生命保険、大成建設 |
| 基本設計 | 日本設計 |
| 実施設計・施工 | 大成建設 |
| 低層部外装デザイン監修 | Laguarda.Low Architects(ラグアルダ・ロウ) |
| ランドスケープデザイン監修 | office ma |
2024年11月19日に着工し、12月10日に起工式が行われています。
景観がどう変わるのか——首都高地下化が前提
ここが本題です。現状と将来を比較します。
現状:川の上に高速道路がある
日本橋川の上空には首都高速の高架が架かっています。江戸城の外堀として開かれ、荷揚げ場が並んだこの川は、高度成長期に「道路の下の水路」になりました。日本橋の上を首都高が横切る光景は、東京の都市景観の課題として長年語られてきたものです。
将来:高架が消え、川沿いに水辺空間が生まれる
首都高4号線の日本橋地下化事業(再開発区域北側部分)によって、この高架が撤去されます。本事業では、その実現に向けた各種協力を実施するとされています。
その前提で北街区に計画されているのが、水辺空間と、そこに連続する低層の商業施設です。
ここが計画の巧みな部分です。日本橋川沿いにあえて高さ12mの2階建てしか建てない。約1,700㎡の敷地に延床約1,000㎡だけです。容積を使わず、川と街の間に低い建物と広場を置く構成にしています。
結果として景観はこう変わります。
| 現在 | 2032年度以降 | |
|---|---|---|
| 日本橋川の上 | 首都高の高架 | 開けた空 |
| 川沿いの地上 | 高架下の裏側的空間 | 水辺空間と低層商業 |
| 永代通りからの見上げ | 中層ビル群 | 218mの超高層(川側にセットバック) |
| 川と街の関係 | 分断 | ゲート広場・立体広場で接続 |
高層棟を永代通り側(南街区)に、低層棟を川側(北街区)に振り分けることで、川沿いに圧迫感のない抜けをつくるという断面計画です。丸の内3-1プロジェクトの「31mの軒線を守る」判断と発想は近いものがあります。
公式の完成イメージは「首都高地下化後」の景観として描かれています。


高架のない日本橋川沿いの景観が描かれています。これが実現する姿です。
南街区に何ができるのか——フロア構成
44階建ての中身を見ていきます。
| 階 | 用途 |
|---|---|
| 10〜43F | オフィス(基準階面積約860坪) |
| 5F | 機械室 |
| 6〜9F | 国際級宿泊施設「SEN/KA TOKYO」 |
| 4F | 事務所 |
| 3F | 事務所ロビー |
| 2F | 店舗+高度金融人材サポート施設 |
| B1〜2F | 店舗 |
| 地下 | 日本橋駅〜東京駅の地下通路、駐車場 |
① オフィス(10〜43階):基準階約860坪
オフィスは基準階面積約860坪。これは丸の内・大手町のハイグレードビルと同等の水準です。
参考として、この連載で扱ってきた他のプロジェクトと比べるとこうなります。
| 建物 | 基準階面積 |
|---|---|
| YAESU CORE | 約1,900坪超 |
| Torch Tower | 約2,000坪 |
| 八重洲一丁目北(南街区) | 約860坪 |
| 大手町ゲートビルディング | 約620坪 |
超大型ではないものの、永代通りという金融の軸線上という立地が効く規模設定です。
② 高度金融人材サポート施設(2階):GFTNとの連携
このプロジェクト独自の機能がこれです。
立地の説明が的を射ています——金融関連プレイヤーが集積する大手町と兜町をつなぐ永代通りの中心という位置を生かし、多様かつ国際的な高度金融人材の活動支援の場として、商談やビジネス交流、アフターコンベンションなどで快適に利用・滞在できる施設を整備するとされています。
さらに、世界最大規模のフィンテックイベントであるシンガポールフィンテックフェスティバルの運営などを通じフィンテック・コミュニティの形成を担うGFTN(The Global Finance & Technology Network、本社シンガポール)の日本法人エレバンディ ジャパンと連携協定を締結し、高度金融人材の集積に向けた取り組みを推進します。
大手町(メガバンク・金融庁)と兜町(東証)の中間点という地理を、そのまま機能に翻訳した計画です。
③ 宿泊施設「SEN/KA TOKYO by The Crest Collection」(6〜9階)
宿泊施設は日本初の発表となるブランドです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | SEN/KA TOKYO by The Crest Collection(センカ東京 by クレストコレクション) |
| 階数 | 南街区6〜9階 |
| 延床面積 | 約7,100㎡ |
| 客室数 | 92室 |
| 開業 | 2029年度下半期(予定) |
シンガポールに拠点を置き、世界40か国230都市以上で960以上のプロパティを展開するアスコットの最上位ラグジュアリーブランドが「The Crest Collection」で、日本での発表はこれが初です。
特徴は1か月・1年などの長期滞在に対応する「ホテル・イン・レジデンス」という形態。外資系金融の駐在員需要と、2階の高度金融人材サポート施設が同じビルの中で噛み合う構成になっています。
歩行者ネットワーク:東京駅と日本橋駅が地下でつながる
景観と並ぶもう一つの目玉が動線です。
日本橋駅と東京駅を接続する地下通路の一部区間を整備することで、周辺の再開発エリアと連携した日本橋駅・大手町駅・東京駅・京橋駅を結ぶ広域地下歩行者ネットワークの実現に貢献するとされています。
ただし注意点があります。京橋駅との接続は、今後予定されているYAESU CORE(八重洲二丁目中地区)の完成後になります。つまり、
- この事業=日本橋駅〜東京駅の区間を担う
- YAESU CORE=東京駅〜京橋駅の区間を担う
という分担で1本のネットワークをつくる構造です。前に解説したYAESU COREの記事と合わせて読むと、東京駅東側の地下がどうつながっていくのかが見えてきます。
立体的な接続も計画されています。
- 日本橋川交流拠点の象徴となる立体広場空間
- 南北街区と水辺空間をつなぐゲート広場
- 南北街区間の歩行者デッキ
- 地下通路・地上・歩行者デッキを相互に接続する多層的ネットワーク
加えて、南北街区間の区道272号線と、区域東側に接する区道13号線が再整備されます。
区道272号線の整備イメージは、川へ向かう路地が広場的な空間に変わる内容です。



首都高地下化後の日本橋川全体の将来像です。この事業は、その川沿いに連なる再開発群の一つという位置づけになります。
環境・防災性能
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エネルギー | コージェネレーションシステム(CGS)の導入、地域冷暖房施設のネットワーク化 |
| 事業継続 | CGS・非常用発電施設の整備により業務継続機能を強化 |
| 防災 | 帰宅困難者受け入れスペース、防災備蓄倉庫を設置 |
| 認証 | LEED認証の取得を目指す |
CGSは発電時の排熱を利用する仕組みで、地域冷暖房のネットワーク化と組み合わせることで環境負荷を下げます。この「街区単位でエネルギーを最適化する」手法は、大手町ゲートビルディングのDHC延伸、YAESU COREの隣接ビルとの連携と同じ流れです。
スケジュール
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2021年11月30日 | 市街地再開発組合 設立認可 |
| 2023年5月 | 既存建物の躯体解体工事着手(大成建設) |
| 2023年9月15日 | 権利変換計画の認可 |
| 2024年5月 | 解体工事完了予定 |
| 2024年11月19日 | 新築工事着工(12月10日起工式) |
| 2029年度 | 南街区 竣工予定 |
| 2029年度下半期 | SEN/KA TOKYO 開業予定 |
| 2032年度 | 北街区 竣工予定 |
南街区と北街区で3年のタイムラグがあるのがポイントです。北街区は首都高地下化の進捗に依存するため、後回しになっています。つまり水辺空間の完成は2032年度以降で、川沿いの景観変化を体感できるのはまだ先ということです。
なお計画は何度も変わっています。2019年時点の資料では地上45階・地下5階・高さ約235mでしたが、その後地上44階・地下3階・高さ約218mに変更されました。公式リリースにも「計画概要は現時点における予定であり、今後の本事業の進捗状況等により変動する可能性があります」と明記されています。
まとめ:この再開発の読み方
- 南北2街区の段階整備。南街区(218m・2029年度)、北街区(12m・2032年度)
- 首都高地下化を前提に設計された、日本橋川沿いの水辺空間と低層商業
- 川側に低く、通り側に高くという配置で、水辺の抜けを確保
- オフィスは基準階約860坪(10〜43階)
- 高度金融人材サポート施設とGFTNとの連携で、大手町と兜町をつなぐ金融拠点を形成
- 日本初のThe Crest Collection「SEN/KA TOKYO」92室(2029年度下半期開業)
- 日本橋駅〜東京駅の地下通路を整備、京橋駅接続はYAESU CORE完成後
- CGS・LEED認証取得を目指す環境性能
景観の観点で言えば、このプロジェクトの本当の評価は2032年度に北街区ができて首都高が消えたときに定まります。218mの高層棟は永代通りの街並みの延長ですが、川沿いの12mの低層棟と水辺空間は、東京が半世紀以上失っていた「川に開いた都市」を取り戻す実験です。
高さ218mより、高さ12mの方が重要な建物かもしれない——そう読める再開発だと思います。
よくある質問
Q. 八重洲一丁目北地区の再開発はいつ完成する?
南街区(高さ約218m・地上44階)は2029年度、北街区(高さ約12m・地上2階)は2032年度の竣工予定です。
Q. 高さと階数は?
南街区が地上44階・地下3階で高さ約218m、北街区が地上2階・地下1階で高さ約12mです。延床面積は全体で約186,500㎡です。
Q. 首都高の地下化はこの事業に含まれる?
含まれません。首都高4号線の日本橋地下化事業は別事業で、本事業は区域北側部分の実現に向けた各種協力を実施する立場です。北街区の水辺空間は地下化を前提に計画されています。
Q. どんなホテルが入る?
アスコットの最上位ラグジュアリーブランド「The Crest Collection」の日本初案件「SEN/KA TOKYO by The Crest Collection」が南街区6〜9階に入ります。92室で、1か月・1年などの長期滞在に対応するホテル・イン・レジデンスです。2029年度下半期開業予定。
Q. 東京駅や日本橋駅とつながる?
南街区で日本橋駅と東京駅を接続する地下通路の一部区間を整備します。京橋駅との接続はYAESU CORE(八重洲二丁目中地区)の完成後になります。
Q. 設計者は誰?
基本設計が日本設計、実施設計と施工が大成建設です。低層部の外装デザイン監修をLaguarda.Low Architects、ランドスケープデザイン監修をoffice maが担当します。


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