


はじめに
ロンドン西部に位置するヒースロー空港は、世界有数の国際ハブ空港として、英国のみならず欧州の航空ネットワークにおいても極めて重要な役割を果たしています。
一方で、長年にわたって「容量がほぼ飽和している」「更なる国際競争力維持のためには拡張が必須」との声も強まっており、現在大規模な拡張プロジェクトが進行中/検討段階にあります。
本稿では、拡張計画の概要、背景・目的、技術的・環境的チャレンジ、そして建築・都市・不動産の視点から読み解くポイントを整理し、ブログ読者向けに「建築×不動産×都市」観点で書いてみます。
背景・必要性
- ヒースローは現在、年間約8,000万人以上の旅客数を扱っており、空港としてはすでに非常に高い稼働率にあります。 Research Briefings+1
- 英国政府は「空港容量の制約が輸出・投資・競争力向上を阻害している」として、2025年1月にヒースロー拡張を支持する方針を示しました。 Research Briefings+2GOV.UK+2
- また、公式運営者である Heathrow Airport Limited(HAL)は、拡張によって「年間最大1億5,000万人規模」の旅客数を扱う可能性を示しています。 Heathrow Airport+1
- こうした背景から、ヒースローは英国にとって「世界との接続性」「航空ハブ維持」という戦略的資産と位置付けられており、設計・都市・インフラ面からも一大プロジェクトとなっています。
拡張計画の主な内容
下記は、主にHALによる「北西に新滑走路を設ける案」をベースに説明します。
新滑走路(第3滑走路)
- 新設滑走路:長さ約3,500 m(北西側)を想定。 Heathrow Airport+2ウィキペディア+2
- この滑走路によって、年間フライト回数が約276,000回分増加・旅客数が最大1億5,000万人に到達するとされています。 Heathrow Airport+1
- 滑走路用地には既存の高速道路(M25 motorway)の移設・トンネル化を伴う大規模な土木構造が計画されています。 ウィキペディア+2Heathrow Airport+2
新ターミナル・既存施設改修
- 新ターミナル「T5X」を西側に配置し、既存ターミナル2・3・5等を順次拡張または更新。 Heathrow Airport+1
- ターミナルエリアを一新・拡張することで、乗り換え・旅客動線・サービス品質の向上を狙っています。設計は著名設計事務所 Grimshaw Architects がコンセプトデザインを担当。 grimshaw.global
アクセス・インフラ改善
- 鉄道・バス・徒歩・自転車アクセスの改善。拡張案では「公共交通優先」のモビリティ構成が強調されています。 thearoragroup.com+1
- 周辺道路・高速道路(M25・他)の再構築・拡張。 ウィキペディア+1
都市・建築・不動産の視点で見るポイント
利点
- 地域経済活性化:HALによれば、拡張による経済波及効果の6割以上がロンドン南東部以外の地域に及ぶとされています。 Heathrow Airport+1 不動産・サプライチェーン・産業立地という観点で見れば大きな機会です。
- 都市交通の再構築:アクセス改善や公共交通導線の再設計によって、空港を軸とした都市構造の再編が期待されます。
- 建築・デザインの刷新:ターミナル、滑走路、アクセス施設といった大規模構造物が一新されれば、建築・インフラ投資の観点でも注目です。
課題・懸念
- 環境負荷・近隣影響:騒音・大気質・気候変動対応が大きなハードルです。英国政府の最新方針にも「気候変動・騒音・空気質」が拡張の4つの主要テストに挙げられています。 GOV.UK+1
- 土地・用地取得・補償:滑走路敷設に伴う土地買収・補償・コミュニティ対応が必要です。グリーンベルト(Green Belt)との関係も議論されています。
- 施工・資金スキーム:HAL案は100%民間資金で行う計画とされています。 Heathrow Airport+1 しかしながら、実需・コスト制御・施工リスクは依然高いと言えます。
- 不動産の影響:滑走路周辺の住宅地・土地価値変動、騒音影響による資産価値低下の懸念が地域住民からも指摘されています。
最新動向(2025年時点)
- 英国政府は2025年10月22日、拡張を実現するための政策枠組み(Airports National Policy Statement:ANPS)を「3年前倒しでレビュー開始」すると発表しました。 GOV.UK
- 現在、滑走路拡張案として、HAL案と、別案であるホテル・不動産投資会社 Arora Group 提案の「Heathrow West案(滑走路2,800 m・M25迂回不要)」が競合しています。 Travel Weekly+1
- 今後、11月末までに「どちらの案を政府が採用するか」が決定される見込みです。 GOV.UK+1
建築×不動産×都市観点での分析
用途地域・土地利用
滑走路・ターミナル拡張により、周辺地域(ヒースロー西側・コルンブルック地域など)の用地転換需要、物流施設・ホテル・オフィス誘致可能性が高まります。また、グリーンベルト規制との調整も注目ポイントです。
不動産価値の影響
- 正:空港アクセス向上・雇用創出・交通インフラ整備により、ビジネス用途・物流用途の地価上昇余地。
- 負:滑走路延伸に伴う騒音・航空機発着増による住宅資産価値下振れリスク。
そのため、地域によって「物流・産業用途としての転換」が鍵になる可能性が高いです。
建築・都市設計視点
新ターミナル「T5X」などのデザイン刷新により、旅客動線・体験価値・サステナビリティが強く問われます。設計事務所Grimshawも「英国発のサステナブルなインフラとして世界標準を目指す」と発言しています。 grimshaw.global
また、空港という巨大「インフラ都市」の一部として、周辺の駅・交通ターミナル・商業施設も「空港都市(aerotropolis)」の構成要素となるでしょう。


コメント