
■ はじめに:世界が驚いた“空港の概念を変えた建築”
2019年、シンガポールに誕生した**Jewel Changi Airport(ジュエル)**は、
「空港=移動のための場所」という従来の概念を完全に塗り替えました。
年間5,000万人以上が訪れる“空港の中の都市”。
そこでは、建築・ランドスケープ・デジタルの境界が消え、
空間全体が一つの巨大な体験装置として機能しています。
その根幹を支えるのが、
イスラエル出身の建築家 モシェ・サフディ(Moshe Safdie) による設計です。
■ 1. 世界最大級のガラスドームがつくる“均質でない光”
ジュエルといえば、まず目を奪うのが総ガラス面積 2万枚以上の巨大なドーム。
● 建築的ポイント
- 約200m × 約150m の楕円プラン
- 9,000本超の鋼材を組み合わせたメガトラス
- 全面ガラス化による“全天候型の都市空間”
● ガラスドームがすごい理由
① 支柱が中心に一本もない構造
→ 広大な吹き抜けを“邪魔するものゼロ”で実現
② ガラスの角度を精密に調整
→ 直射光を避け、柔らかい自然光が空全体に広がる
③ 環境負荷の最適化
→ 外皮(スキン)として日射・熱・視覚のバランスが優秀
まるで“自然光の森”に入ったような感覚を生む設計になっています。
■ 2. 世界最大の屋内滝「レイン・ボルテックス」のテクノロジー
ジュエルの象徴である落差40mの滝 “Rain Vortex”。
単なる目玉ではなく、建築デザインと環境工学が融合した機能装置です。
● 建築的・都市的メリット
- 空港の空気循環システムの一部でもある
→ 湿度調整・空気冷却・微気候の改善に寄与 - 屋上から雨水を集め、滝として再利用
→ サステナブルデザインの象徴 - 滝の周囲の空気が自然対流を起こし“風の谷”ができる
→ 涼しさ・快適性の大幅向上
さらに夜は、滝を巨大スクリーンにした3Dライトショーが展開され、
建築・水・光が一体化した空間体験が生まれます。
■ 3. “都市と自然を結ぶ”フォレストバレーのランドスケープ設計
ジュエル内部の中心部には2,000本以上の木・1万6,000本以上の植栽からなる
**“Forest Valley(フォレストバレー)”**が広がります。
● ポイント
- 空港内でありながら森の中の回遊動線を形成
- アトリウムを巨大な“谷”として見立て、
植栽の密度・湿度・光量をすべて場所ごとに調整 - 登りながら空間が開けていくランドスケープ体験
特に、
植栽の配置・日射量・温湿度をすべてデータで管理する
“スマートランドスケープ”が導入されており、季節を問わず最適な環境を維持します。
■ 4. 商業施設 × 都市体験 × 空港機能のハイブリッド構造
ジュエルはショッピングモールにも見えますが、その本質は
**「空港の機能を高度化する巨大インターフェース」**です。
● 建築と空港オペレーションが統合
- ターミナル間をつなぐハブ機能
- ファストレーンで預け入れできるEarly Check-in
- トランジット客のストレスをゼロにする動線設計
- 商業施設と動線が“無理なく”融合した構成
観光客・買い物客・トランジット客が混在しても、
混雑を感じさせないオペレーションを建築が支えています。
■ 5. “記憶に残る場”を意図的につくる建築デザイン
サフディ建築の特徴である
「スケールの大きさ × 曲線 × 自然光のドラマ」
が極限まで磨かれたのがジュエルです。
● ここが建築的に革新的
- 構造体が景観と一体化し“見えない構造”を実現
- 屋内空間なのに屋外都市のような“回遊性”
- 自然(光・水・緑)を制御して都市の内部に再構築
- 巨大でありながらヒューマンスケールが保たれている
ジュエルは、
「建築は巨大でも、体験は人に寄り添う」
という理想的なバランスを体現しています。
■ まとめ:ジュエルは“未来の空港建築の原型”
チャンギのジュエルは、空港建築・環境工学・ランドスケープを高度に統合した
21世紀の“新しい都市インフラ”のプロトタイプです。
- 空港 × 都市 × 自然
- 建築 × ランドスケープ × 環境工学
- 構造 × 体験 × デジタル演出
これらを一つの空間として成立させた点にこそ、
ジュエルの建築的すごさがあります。

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