欠陥建築シリーズ④
「富岡市役所:木材仕様の市庁舎で起きた“外装材の腐食・劣化”問題」



— 建築・不動産・公共建築の視点から読み解く
■ 導入
群馬県の富岡市が2018年に竣工した市庁舎は、世界的建築家 隈 研吾 氏が設計し、木材や自然素材を多用したシンボリックな公共建築として注目を集めました。
しかし竣工からわずか数年で、外装木材部の腐食・錆・塗装剥離といった劣化が報告され、設計者・施工者が修繕費用を負担する方向で協議が進んでいるというニュースが流れました。テレ朝NEWS+2ビジネスジャーナル+2
この事例は、「デザイン重視で木材を大胆に使う公共建築」が、いつ、どこで、“何を”見落としたのかを浮き彫りにしており、建築学生・不動産実務・都市計画の観点からも学ぶべき点が多くあります。
① 基本データ(事件の全体像)
- 所在地:群馬県富岡市富岡1460-1(富岡市役所)富岡市公式サイト+1
- 竣工年:2018年(総工費約40億円)Coki+1
- 設計:隈研吾建築都市設計事務所
- 施工:該当報道では「設計・施工業者」として確認ありビジネスジャーナル+1
- 問題発覚時期:SNS投稿が契機 → 市職員が 令和6年11月13日に現地確認。富岡市公式サイト
- 確認された主な劣化内容:軒裏金具の錆・塗装剥離、野地板合板への雨染み、木ルーバー自体は腐食なしとの市調査報告あり。富岡市公式サイト
② 欠陥の内容(建築編)
■ 1. 軒裏および金具・鉄部の腐食・錆の発生
市庁舎の軒裏部位で、金具が錆びて膨張→水切りの隙間を塞ぎ→雨水が軒裏に回り込むという連鎖が確認されました。富岡市公式サイト+1 錆の発生は、木材そのものではなく金具・鉄部に端を発しており、木材仕様建築であっても“金属部材+雨水処理”の管理を軽視してはいけないという警鐘です。
■ 2. 木ルーバー(外装木材)自体の検証結果
市の調査では、木ルーバーに用いられたフェノール樹脂含侵合板について、
- 含水率は標準値より低い
- ピンも入らない程度の硬度あり(つまり材自体の腐食は未発生)
- 表面の退色・変色・カビの発生があるが、清掃で対応可能という結論。富岡市公式サイト
つまり「木材が腐っている」という報道とは少し異なり、木材自体は構造的に重大な劣化を起こしていない可能性が高いということです。
■ 3. 設計・仕様選定の課題
報道では、軒裏合板に注入された不燃薬剤が塗料を溶解し、金具の腐食を引き起こした可能性が指摘されています。ビジネスジャーナル+1 また、設計者側も「影響を把握できず材料選定を行った」と説明しており、設計段階での素材選定・耐久性検証の欠落が浮かび上がっています。
③ 欠陥による影響(不動産・公共建築編)
■ ■1. 公共建築としての信頼性低下
市庁舎という“公共の顔”において早期に劣化が起きたことは、市民・行政双方の信頼を揺るがす出来事です。デザイン性を重視した建築投資が、耐久性というベーシックな要件を満たさなかったという印象が残るため、「設計力」や「施工管理力」が問われる結果となりました。
■ ■2. 維持管理・修繕コストの顕在化
通常、公共建築は中長期(30年・50年)を想定して設計・維持されますが、完成からわずか7年程度で修繕が必要とされることは、資産価値・アセットマネジメントの観点から大きな課題です。テレ朝NEWS+1
■ ■3. 設計者・施工者への責任・費用負担問題
驚くべき点として、設計者側(隈研吾建築都市設計事務所)および施工業者側が修繕費用を負担する方向で協議中であることが報じられています。ビジネスジャーナル+1 通常、公共建築では発注者(行政)が維持・修繕を負担するのが一般的ですから、契約・瑕疵担保・保険制度の議論の起点ともなります。
④ なぜこの欠陥は生まれたのか(背景分析)
■ 1. 木材多用デザイン × 屋外劣化環境
隈研吾氏の設計建築に共通する「木材を大胆に見せる」スタイル。これはデザインとして魅力的ですが、北海道・北関東の気候や降雨・湿気・枝葉の落下など“屋外木材劣化”の環境条件を十分に吸収設計していたかが問われます。本件では、不燃合板+薬剤処理という仕様が逆に副作用を招いた可能性も報じられています。Coki+1
■ 2. 素材・金物・メンテナンス設計の間隙
木材自体は目視・計測ともに重大な腐食はなかったものの、金具/水切り/鉄部という“構造・付属部材”の仕様が追い付いていなかった点が構造的な盲点です。設計段階で「金具が膨張して水切りが塞がる」というリスク評価がされていなかった、と専門家も指摘しています。ビジネスジャーナル
■ 3. 公共建築発注・維持の制度的課題
公共建築では、デザイン・持続可能性・コスト削減・地域材活用など多方向の要求があります。これらを統合する中で、維持管理性(メンテナンス性)・耐久性が後回しになりやすい構造が本件にも見え隠れします。設計が優れていても“使い続ける建物”としての視点が弱いと、数年で課題化するリスクがあります。
⑤ 住民・社会の声
- SNSでは「完成から7年で錆びるなんて…」という驚きの声が拡散。Coki+1
- 公共建築としての“見た目・象徴性”は高かったが、実際の耐久・メンテナンス性に疑問を抱く声が市民・建築関係者双方から上がっています。
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⑥ 建築学生の学び
- デザイン性 vs 耐久性・メンテナンス性という二律背反をどう設計に落とし込むか
- 木材+付属金物+屋外条件の“接合部”設計の重要性
- 公共建築における“30年・50年先を見た仕様設計”の視点を養う
⑦ 宅建士/不動産視点の学び
- 公共建築も「建物=資産」である以上、維持修繕コストや修繕負担の所在が透明であることが、発注者・利用者ともに信頼性を高める
- 設計・施工責任の所在が明確でないと、不動産価値・将来的な使用継続性に疑念が生じる
- 建物仕様・素材選定・メンテナンス計画は、民間建築・住宅でも“買う/借りる”際にチェックすべき要素
⑧ まとめ:「なぜこの事例をシリーズに選んだのか」
木材を大胆に用いた公共建築という“理想”と、“7年で生じた劣化”という“現実”のギャップ。デザインの華やかさが裏返しになり、耐久性・仕様検証・維持管理の設計が追いついていなかったという構図が明確です。
建築×不動産×公共という三位一体の視点で、「デザイン優先が必ずしも長寿命に繋がるわけではない」という学びを読者に提供できる典型的な事例です。
🔜 次に取り上げる可能性のあるテーマ
- 他の公共建築における木材劣化事例(例えば隈研吾氏設計の駅舎・美術館)
- 住宅・賃貸での木材・外装劣化による資産価値低下の実例
- リノベーションで「木材仕様+メンテナンス設計」をどう改善すべきか


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