―「消滅可能性都市」から270mへ。20年がかりの反転攻勢
第9回は池袋。渋谷や新宿と比べると地味に見られがちですが、単一の再開発としては山手線ターミナル最大規模が動いています。
このエリアを理解する鍵は、行政側の危機感です。豊島区は2014年に23区で唯一「消滅可能性都市」とされ、新しく生まれ変わることを決意しました。「子どもと女性にやさしいまちづくり」「高齢化への対応」「地方との共生」「日本の推進力」の4つの軸のもと、「豊島区国際アート・カルチャー都市」を目指し、2020年には東京都で初めて「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」のダブル選定を受けています。
「文化」を旗印に容積を引き出す。池袋の再開発は、ほぼすべてがこの構図で説明できます。
① 池袋駅西口地区第一種市街地再開発事業
特区区域面積 約61,000㎡/延床 約582,700㎡/2043年度竣工(最短)
このシリーズでも屈指の長期プロジェクトです。
所在地は豊島区西池袋一丁目地内、特区区域面積約61,000㎡、敷地面積約33,420㎡、延床面積約582,700㎡(容積率1,430%)。着工は2027年度、竣工は2043年度(いずれも解体を含む最短のスケジュール)。街区ごとの計画は次のとおりです。
- A街区:地上41階・地下4階、高さ約220m。オフィス、商業、情報発信施設、駐車場等
- B街区:地上50階・地下5階、高さ約270m。オフィス、商業、宿泊施設、駅施設、駐車場等
- C街区:地上33階・地下6階、高さ約185m。オフィス、商業、宿泊施設、人材育成支援施設、共同住宅、駐車場等
B棟高層部にグローバルブランドホテル、C棟の一部にライフスタイルホテルを計画。C棟は高さが異なるツインビルになります。A街区にはA棟のほか交通広場を整備し、B棟とC棟の間には大屋根広場、D街区では既存の池袋西口公園を再整備。整備時期はA街区が2036〜2043年度、B街区が2030〜2040年度、C街区が2030〜2034年度という見通しです。
対象区域は広大です。メトロポリタンプラザを除く東武百貨店、池袋センタービル、ビックカメラ池袋西口店、西口公園、バスターミナルなどが含まれ、事業主体は三菱地所と東武鉄道。整備方針として「新たな都市の顔となりウォーカブルなまちづくりを推進する都市基盤の整備」「『国際アート・カルチャー都市』として世界から人々を呼び込む都市機能の導入」「防災対応力強化と環境負荷低減への取り組み」を掲げています。街区間にはまち結節空間を設け、中央駅には青空を感じられるアトリウム空間を作り、駅からまちへの誘導を図ります。B-C街区間には東京芸術劇場、池袋西口公園GLOBAL RINGに続く第3の劇場空間となる半屋外の大屋根広場を整備し、公園を中心に連続的な歩行者空間を創出する計画です。
制度面も整いました。2024年3月に東武鉄道・三菱地所が都市計画素案を公表し、同年9月10日に東京都都市計画審議会で都市計画変更案が可決。都市再生特別地区として指定を受け、容積率の緩和などの優遇措置が適用されます。施行面積は西口地区約4.5ha、池袋駅直上西地区約1.6ha、合計約6.1haです。
「第3の劇場空間」という言い方が象徴的です。東京芸術劇場(1990年)、池袋西口公園GLOBAL RING(2019年)に続く3つ目として大屋根広場を位置づける。単なる公開空地ではなく、文化施設の系譜に接続することで意味づけている。設計課題で公開空地の理由づけに悩む人には、参考になる論法だと思います。
② 池袋駅直上西地区
約1.6ha/東武鉄道の個人施行
東武東上線池袋駅と駅直上の東武百貨店の一部を含む約1.6ヘクタールの区域です。①とは別事業として、東武鉄道が個人施行で進めます。
駅そのものを鉄道会社が単独で建て替え、周辺は組合施行という組み合わせは、権利関係を整理するうえで合理的なやり方です。⑧新宿の西口地区(小田急・メトロ・東急不動産の共同事業+小田急単独事業)と同じ構図が見られます。
③ 東池袋一丁目地区第一種市街地再開発事業
敷地面積 約9,900㎡/2028年7月下旬竣工予定
いま池袋で最も工事が進んでいる大型案件です。地上31階・地下4階、高さ174.67m、敷地面積9,900.21㎡、建築面積7,618.38㎡、延床面積155,561.00㎡。建築主は東池袋一丁目地区市街地再開発組合(参加組合員:住友不動産)、設計者はアール・アイ・エー、施工者は大成建設で、2025年5月下旬着工・2028年7月下旬竣工予定です。用途は事務所、集会場、店舗、駐車場、駐輪場。
フロア構成が面白い建物です。地下2階〜地下1階がイベントホール、地上1階がアトリウムやイケバス運行拠点、3階・5階が文化体験施設、7階〜31階がオフィスフロア。四方が道路に囲まれた独立した敷地で、池袋駅側の西側に約2,000㎡の広場1号(ゲート広場)、南側に約900㎡の広場2号、東側から北側にかけて約2,000㎡の広場3号(みどりの丘)が整備されます。
事業の位置づけも明快です。東池袋一丁目地区は池袋駅の北東に位置し、明治通りとJR鉄道線路敷に囲まれた区域で、商業や業務地区にありながら低未利用地や細分化された宅地が多く、老朽化した建物が多く存在し市街地の更新が望まれる地区でした。「国際アート・カルチャー都市」構想の実現に向けて、多様なアート・カルチャーを世界に発信するステージとなる文化体験施設や、多様な利用に備えた可変性の高いイベントホール等を整備し、賑わいのある街並みの形成を図るため、約1.5ヘクタールについて第一種市街地再開発事業が都市計画決定されました。
敷地の3面に広場を配し、オフィス床は7階以上に上げる。低層部をすべて公共的用途に振り分けた構成で、容積のインセンティブがどこから来ているかが読み取りやすい建物です。
④ 南池袋二丁目C地区(グランドシティタワー池袋/プラウドタワー池袋)
施行地区面積 約1.7ha/北棟2026年9月・南棟2027年2月竣工予定
住宅系ではこのエリア最大です。地上52階・地下2階の北棟(グランドシティタワー池袋)と、地上47階・地下2階の南棟(プラウドタワー池袋)が建設され、豊島区最大級となる総戸数1,498戸の超高層ツインタワーマンションが誕生します。低層部分には商業施設や生活支援施設、文化・交流施設等を配置し、北棟の低層部には公共施設等を導入。東京メトロ有楽町線「東池袋」駅につながる地下通路を新設し、地上では既存区道を幅員9mに拡幅整備します。北棟は2022年10月着工、南棟は2023年5月着工です。
北棟は52階建・高さ189.88mで、1993年以降に発売された豊島区の新築分譲マンションで最高層。総戸数878戸は最大規模とされています。敷地面積は約8,700㎡で、建物の南北に大きなウェルカムガーデンを設け、歩車分離動線を実現しています。
⑤⑥⑦⑧ 面としての池袋
豊島区の市街地再開発事業は、いま挙げたもの以外にも南池袋二丁目A・B・C地区、南池袋二丁目28番街区地区、東池袋四丁目地区、東池袋四丁目2番街区地区、東池袋五丁目地区と多数が並行しています。加えて池袋駅東口駅前広場再編、東西連絡通路(東西デッキ)といった基盤整備も動いています。
これらを束ねる考え方も示されています。豊島区の「池袋駅周辺地域まちづくりガイドライン」では、駅を中心とした各エリアを「ウォーカブル(居心地が良く歩きたくなる)」な空間としてつなぐことが重視されており、東池袋一丁目地区の「(仮称)みどりのプロムナード」の整備や、池袋駅前公園・中池袋公園・南池袋公園などをつなぐグリーンネットワークの形成は、老朽建物の建替えにとどまらず市街地の骨格そのものを「車中心」から「人中心」へ転換させる取り組みと位置づけられます。防災面でも、南池袋エリア・東池袋エリアで木造密集地域の解消が進められ、特定緊急輸送道路沿いの建築物の耐震化・不燃化が広域防災拠点の機能維持に直結するとされています。
道路整備も連動しています。環状第5の1号線周辺地区地区計画では、延長3.6kmの都市計画道路のうち東池袋四丁目から五丁目までの延長610mの区間について、幅員25mの道路と歩道、自転車走行空間を新設。街路整備と沿道まちづくりが一体的に進み、延焼遮断帯を形成するとともに、無電柱化により地域の防災性向上が期待されています(2028年3月末完成予定)。
まとめ:池袋の20年後
| 事業 | 規模 | 完成時期 |
|---|---|---|
| 池袋駅西口地区 | 約61,000㎡/270m・220m・185m | 2043年度 |
| 池袋駅直上西地区 | 約1.6ha | 2030年代〜 |
| 東池袋一丁目地区 | 約9,900㎡/175m | 2028年7月 |
| 南池袋二丁目C地区 | 約1.7ha/190m・47階 | 2026年9月・2027年2月 |
| 環状第5の1号線 | 610m区間 | 2028年3月末 |
池袋を①〜⑧のエリアと比べたとき、いちばん違うのは誰が主導しているかです。丸の内は三菱地所、渋谷は東急、品川はJR東日本という「地主デベロッパー」の街に対し、池袋は豊島区という自治体が構想を先に立て、そこに三菱地所・東武鉄道・住友不動産が乗るという順序になっています。
「国際アート・カルチャー都市」という区の看板が、Hareza池袋の8つの劇場、東池袋一丁目の文化体験施設、西口の大屋根広場と、事業ごとに文化施設として実装されていく。自治体の構想が容積のロジックとして機能している例として、都市計画を学ぶうえでかなり分かりやすいケースだと思います。
一方で、B街区の270mが完成するのは2040年度、A街区は2043年度。いま生まれた子どもが大学生になる頃の話です。⑧新宿と同じく、ターミナル再編は世代をまたぐ事業になっています。

コメント