― 日本一の乗降客数を捌きながら、駅を丸ごと組み替える
第8回は新宿。世界一の乗降客数を持つターミナルを、営業しながら再編するという無茶なプロジェクトです。
ただし今回は、これまでの7エリアと少し違う話をすることになります。このエリアでは、計画の延期と工期未定が相次いでいます。建設費高騰と人手不足が、東京の再開発にどう効いているのか。新宿はその縮図です。
新宿の再開発は、2026年竣工の西新宿一丁目地区から始まり、2029年の西口地区、2033年の西新宿三丁目西地区、さらに2040年代の西南口計画まで、約20年以上にわたる長期プロジェクトです。駅機能の強化、環境配慮、災害対策、歩行者ネットワークなど多面的な都市再編が進む一方、物価高騰や人手不足による延期・見直しも課題となっています。
① 新宿駅西口地区開発計画(旧・小田急百貨店本店跡地)
敷地面積 約15,719㎡/2030年3月竣工予定
新宿で最も高いビルになります。規模は地上48階・塔屋1階・地下5階、高さ258.18m、敷地面積15,718.96㎡、建築面積15,647.89㎡、延床面積278,906.56㎡。建築主は小田急電鉄、東京地下鉄(共同事業者に東急不動産)、設計者は日本設計・大成建設設計共同体、施工者は大成建設です。この高さ258.18mは東京都庁第一本庁舎(地上48階、最高243.4m)を抜き、新宿駅周辺で最も高い超高層ビルになります。フロア構成は地下2階〜10階が商業施設、12〜13階がビジネス支援施設という計画です。モザイク通りや新宿ミロードなどがあった場所には、商業施設のほか小田急新宿駅の新改札も建設されます。事業は北側のA区(地上48階・地下5階、最高約260m、敷地約8,060㎡、延床約251,000㎡)が3社共同事業として2024年3月25日に新築着工。南側のB区(地上8階・地下2階、最高約50m、敷地約7,660㎡、延床約28,000㎡)は小田急電鉄の単独事業で今後着工予定です。2026年7月時点では新宿ミロードの解体が進み、小田急百貨店跡地北側の歩行者動線が変更されました。新宿駅西口の11番階段が閉鎖され、仮設階段が設置されています。
駅の階段を閉じながら建てる。利用者にとっては不便ですが、これが日本一のターミナルを更新するということの実態です。
② (仮称)新宿駅西南口地区開発事業 南街区
地上37階・高さ約225m/工期未定
このシリーズで初めて登場する、「止まっている」大型案件です。
京王電鉄とJR東日本が事業主体で、高さ約225mの超高層複合ビルを建設する計画でした。当初は2023年度着工・2028年度竣工を目指していましたが、施工会社が決まらない状態が続いたため、京王電鉄は2025年3月28日に工期完了時期を「未定」へと変更しました。解体工事自体は継続されておりプロジェクトが中止になったわけではありませんが、新築工事の着工・竣工時期ともに「検討中のため未定」(JR東日本)とされています。2026年2月時点では残っていた既存ビルの解体工事が始まっており、解体の施工者はフジタ、解体工期は2025年12月1日〜2029年3月31日。他の既存ビルの地上部は解体済みで、基礎や地下部分の解体工事が行われています。発注者は東日本旅客鉄道と京王電鉄です。
計画そのものの内容は魅力的です。南街区は地上37階・地下6階、高さ約225m、延床面積約15万㎡規模の超高層複合ビルで、主要用途はオフィス、商業、宿泊施設。上層部には京王グループが手掛ける新ブランドの高級ホテルが入居予定です。甲州街道をまたぐペデストリアンデッキを整備し、新宿駅南口方面(バスタ新宿方面)と西口方面を結ぶ歩行者動線のハブとなる計画です。現地では工期が未定のまま工事が続いている状態です。
解体だけ2029年まで続き、新築の着工時期は誰も言えない。④六本木や③帝国ホテルで見た延期とは質が違い、こちらは「請ける会社が見つからない」という供給側の問題です。2020年代後半の日本の建設業が抱える構造的な課題が、そのまま都市計画に跳ね返っています。
③ 西南口地区 北街区(京王百貨店)
地上19階・高さ約110m/2040年代
南街区の竣工後に着手される予定で、工期は従来どおり2040年代を見込んでいますが、南街区の遅延が影響する可能性があります。京王百貨店は現在も営業中です。
④ 西新宿三丁目西地区第一種市街地再開発事業
区域面積 約4.6ha/2035年度竣工目標
住宅系としては都内最大級のプロジェクトです。西新宿三丁目西地区市街地再開発組合が地上63階・地下4階、高さ約221m(最高約229m)の北棟と、地上62階・地下4階、高さ約220m(最高約228m)の南棟を計画。総延べ面積は約383,578㎡、総戸数は約3,200戸を想定していました。ただし2026年1月の報道では、事業費高騰で設計を見直すため、当初計画より3年ほど遅らせて2028年度着工・2035年度竣工を目指すとされています。施行区域面積は約4.6haで、野村不動産・住友商事・東京建物・首都圏不燃建築公社が参画。住宅を主用途としながら事務所・商業施設・保育所・防災広場なども整備され、商業施設の床面積は約24,000㎡。JR新宿駅と京王新線初台駅の間に位置し、初台駅から新宿駅方向(十二社通りまで)を結ぶ歩行者デッキの整備も計画に含まれます。地区内部は老朽化した木造住宅が密集し、道路や公園などのオープンスペースが不足した防災上の課題が多い地区であり、安全安心な質の高い住環境の整備と土地の有効利用・高度利用を図ることが事業の目的です。
密集市街地の解消という、市街地再開発事業の本来の目的にいちばん近い案件です。同時に、その手段が63階のツインタワーであることの是非は議論が分かれるところだと思います。
⑤⑥ 新宿グランドターミナル ― 街を貫く基盤整備
個別のビルより重要なのが、この基盤整備です。東西をつなぐ地下の東西自由通路、線路上空の東西デッキ、南北をつなぐデッキおよび東西駅前広場等の整備を推進し、地区内の駅ビル等の更新にあわせて段階的に地区整備計画を策定、新宿グランドターミナルの一体的な再編を誘導するという枠組みです。地下広場を再編し、歩行者導線を一新することも掲げられています。また「西新宿グランドモール構想」では、新宿駅西口から都庁前にかけて一体化された歩行空間の整備が進められます。
2026年には駅前に新しい拠点も完成します。これまで新宿西口は「通過する場所」というイメージが強く、滞在・交流の場が乏しいとされてきました。西新宿一丁目地区のビルはホールや子育て施設を複合させることで、周辺住民・ワーカー・来街者が「留まれる」駅前空間を目指しており、竣工は2026年8月予定です。
⑦渋谷の西武渋谷店跡地の話と同じ論点が、ここでも出てきます。高密度なターミナルで最後に足りなくなるのは、留まれる場所です。
⑦ 東急歌舞伎町タワー(参考・完成済)
歌舞伎町一丁目地区の再開発として2023年4月に開業。地上48階・高さ約225mで、ホテル・劇場・ライブホール・映画館が積層する構成です。オフィスをまったく入れずエンタメだけで超高層を成立させた例として、日本ではほぼ唯一と言っていい建物です。
まとめ:新宿の20年後
| 事業 | 規模 | 完成時期 |
|---|---|---|
| 新宿駅西口地区開発計画 | 約15,719㎡/258m | 2030年3月 |
| 西南口地区 南街区 | 約15万㎡/225m | 未定 |
| 西南口地区 北街区 | 110m | 2040年代 |
| 西新宿三丁目西地区 | 約4.6ha/229m・228m | 2035年度(3年延期) |
| 西新宿一丁目地区 | — | 2026年8月 |
| 新宿グランドターミナル | — | 2040年代 |
新宿を①〜⑦のエリアと比べると、「完成予定」という言葉の重みが違うことに気づきます。丸の内や品川では年度単位でスケジュールが公表されていますが、新宿では最重要案件のひとつが「未定」であり、別の案件は3年延びました。
理由は明快です。新宿の再開発は駅と一体でしか成立しないからです。線路の上に人工地盤を架け、営業中の百貨店を段階的に閉じ、日々350万人が通る動線を切り替えながら建てる。工事条件が厳しいほど施工リスクは高くなり、建設費が上がった局面では請け手がつかなくなる。
⑦渋谷が22年、新宿は20年以上。東京の巨大ターミナルの更新は、もはや一世代がかりの事業です。いま建築を学んでいる人が現場に出る頃、新宿はまだ工事の途中でしょう。そしておそらく、その完成形を設計するのはこれからの世代です。

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