2025年2月、帝国劇場が休館しました。1966年の竣工から約59年。演劇ファンの聖地が姿を消し、いま日比谷通り沿いでは巨大な解体工事が進んでいます。
その跡地に計画されているのが「(仮称)丸の内3-1プロジェクト(国際ビル・帝劇ビル建替計画)」です。三菱地所・東宝・出光美術館という3者の共同事業で、帝国劇場と出光美術館が同じ場所に「戻ってくる」という珍しい建替計画になっています。
この記事では、まだ着工前で情報が断片的なこのプロジェクトについて、公式リリースと業界紙の報道から「どんな開発になりそうか」を整理します。
基本スペック(計画段階)
地図:OpenStreetMap/位置は概略です。駅位置は最寄り出口付近を示しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名称 | 丸の内3-1プロジェクト新築工事 |
| 所在地 | 東京都千代田区丸の内三丁目1番1号 |
| 建築主 | 三菱地所、東宝、出光美術館 |
| 敷地面積 | 約9,888㎡ |
| 延床面積 | 約176,000㎡ |
| 規模 | 地上29階・地下4階 |
| 高さ | 軒高144.98m/最高高さ154.98m |
| 構造 | S造・SRC造、直接基礎 |
| 用途 | 事務所、飲食・物販店舗、劇場、美術館、駐車場、診療所 |
| 設計 | 三菱地所設計 |
| 解体工事 | 大林組(2025年4月1日〜2027年3月31日) |
| 新築着工 | 2027年4月1日予定 |
| 竣工 | 2030年度予定 |
高さの数字に注意してください。「約144m」と「約155m」の2つが報道で流通していますが、これは軒高144.98m/最高高さ154.98mという同一建物の異なる測り方です。矛盾ではありません。
建て替えられる2棟:国際ビルと帝劇ビル
まず何が解体されているのかを押さえます。
| 国際ビル | 帝劇ビル | |
|---|---|---|
| 竣工 | 1966年9月 | 1966年9月 |
| 構造規模 | SRC造 地上9階・地下6階 | SRC造 地上9階・地下6階 |
| 敷地面積 | 5,623.30㎡ | 3,825.05㎡ |
| 延床面積 | 76,918.25㎡ | 39,419.80㎡ |
| 所有者 | 三菱地所・日本倶楽部 | 東宝・出光美術館 |
| 主な入居 | オフィス | 帝国劇場、出光美術館 |
2棟は一体化しており、外観では見分けがつきませんでした。築60年弱での建て替えで、解体対象の延床面積は合計約116,338㎡にのぼります。
ちなみに敷地は西を日比谷通り、北を丸の内4th St.、東を丸の内仲通り、南を丸の内5th St.に囲まれた街区で、皇居外苑の濠に正面から向き合うという都内屈指の立地です。
そしてこの立地条件が、計画の性格をほぼ決定づけています。


mag.tecture

完成イメージがこちらです。上層部がガラスのボリューム、低層部が水平に広がる構成になっているのが分かります。この「低層部と高層部の分節」には明確な理由があります。
ポイント①:百尺(31m)の軒線を継承するスカイライン
このプロジェクトを理解する一番のキーワードが「百尺(ひゃくしゃく)」です。
戦前の日本には「百尺規制」という高さ制限があり、建物の高さは31m(=百尺)までとされていました。丸の内の日比谷通り沿いには、この時代につくられた31mで揃った軒線(スカイライン)が今も残っています。皇居に面した街並みの品格をつくっているのが、この水平ラインです。
計画では、歴史的な31m(百尺)の軒線を継承し、高層部は一定のセットバックを行うことで低層部の既存の軒線との連続性を確保するとされています。
つまり、
- 低層部:31mの軒線に合わせて水平に伸びる
- 高層部:セットバックして後ろに引く
- 結果:日比谷通りからの見上げでは街並みの統一感が保たれる
という構成です。皇居からのパノラマ景観を意識したスカイラインを形成しつつ、街並みに調和しながらも特徴を持つデザインとするとされており、「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくりガイドライン2023」に沿った計画になっています。
デザイン体制も注目です。
| 担当 | 設計者 |
|---|---|
| 建物全体設計 | 三菱地所設計 |
| 低層部 外装デザイン提案 | 小堀哲夫(建築家) |
| 新・帝国劇場 設計 | 小堀哲夫 |
| 出光美術館 設計デザイン | 日建設計 |
| 劇場PM/CM | 日建設計コンストラクション・マネジメント |
| 劇場コンサルタント | シアターワークショップ |
小堀哲夫氏は「ROKI Global Innovation Center」などで日本建築学会賞とJIA日本建築大賞をダブル受賞した建築家です。その人物が新しい帝国劇場の設計を手がける——これは日本の劇場建築史においてかなり大きなニュースです。
ポイント②:皇居外苑を望む低層屋上テラス
セットバックによって生まれる31mレベルの屋上に、テラスが整備されます。
皇居外苑に面した貴重な低層部屋上に、一般の方にも開放される屋外テラスを整備し、MICEユニークベニューとしての活用も想定されているとされています。
ここが個人的に一番期待しているポイントです。丸の内には皇居を見下ろせる公開空間がほとんどありません。31mという高さは、濠と緑と石垣を「見下ろしすぎない」絶妙な視点で、丸ビルや新丸ビルの高層階からの眺望とはまったく違う体験になるはずです。



皇居外苑を望む屋上テラスのイメージです。では建物全体はどう積まれるのか、フロア構成を見ていきます。
ポイント③:フロア構成——劇場・美術館・オフィスの垂直配置
| 階 | 用途 |
|---|---|
| 6〜29F | ハイグレードオフィス |
| 低層〜中層部 | 出光美術館 |
| 低層部屋上(31mレベル) | 屋外テラス |
| 低層部 | 帝国劇場、商業ゾーン(飲食・物販) |
| 地下 | 駅まち空間(有楽町駅・日比谷駅接続)、駐車場 |
オフィスは皇居に面するお濠端の眺望を最大限活かし、交通アクセス性・環境性能にも優れたハイグレードオフィスを6〜29階に整備するとされています。低層部には文化芸術機能(劇場・美術館)に加えて食やショッピングを楽しめる施設を設け、丸の内から有楽町へつながる賑わいを生み出す計画です。
帝国劇場の再整備については、ロビーホワイエの社交場的機能を強化して出逢い・交流を促進するとともに、あらゆる人々が快適に観劇を楽しめる空間整備や取組を実施し、観劇の裾野を広げる劇場の整備・機能強化を図るとされています。
出光美術館は、1966年の開館以来育まれた「出光美術館らしさ」を継承しながら展示公開エリアを拡充し、東洋・日本古美術の魅力や独自性を国内外に発信。教育普及プログラムやアフターMICEメニューの提供等を通じて機能強化を図る計画です。
「アフターMICE」という言葉が出てくるのがポイントで、国際会議の参加者が夜に美術館や劇場を使うという、都市の国際競争力の文脈に文化施設を組み込む設計思想です。
ポイント④:地下歩行者ネットワークの大幅拡充
実は建物本体以上に都市インフラとして重要なのが地下です。
駅まち接続
東京メトロ有楽町線「有楽町駅」、都営三田線「日比谷駅」と接続し、地下鉄改札を出た瞬間からまちの雰囲気を感じられる空間をつくるとされています。
JR有楽町駅 東西地下通路の新設
新たにJR「有楽町駅」東西のまちを繋ぎ、JR有楽町駅とも接続する「東西地下通路」が整備されます。これにより大丸有エリアの地下歩行者ネットワークが拡充され、将来的には以下へのアクセス性向上にも資する計画です。
- 歩行者空間化されるKK線(東京高速道路)上部空間
- 都心部・臨海地域地下鉄との乗換利便性
有楽町駅は東西で街の性格が分断されてきた駅です(西は丸の内・日比谷、東は銀座・KK線)。この通路は単一事業者では成立しない規模の貢献のため、国交省の技術的助言に基づき、有楽町エリアの複数街区が協力する中長期的な共同貢献事業として進められます。
つまりこのプロジェクトは、有楽町エリア全体の再構築における「基盤整備の一番手」という位置づけです。
ポイント⑤:環境性能と防災性能
環境
| 項目 | 目標・内容 |
|---|---|
| 中層部オフィス | ZEB Ready(50%以上削減) |
| 建物全体 | ZEB Oriented(30〜40%以上削減)を目指す |
| エネルギー | DHCサブプラントを新設し周辺6ビルとネットワーク形成 |
| 緑 | 皇居外苑とつながる「みどりのネットワーク」 |
DHC(地域冷暖房)サブプラントは、隣接する二重橋ビルと、丸の内仲通りを挟んだ有楽町ビル・新有楽町ビル・新国際ビル・新日石ビル・新東京ビルで利用する施設を新設し、効率的なエネルギーネットワークを形成するとされています。単棟ではなく街区群でエネルギーを最適化する発想です。
防災
帰宅困難者支援(受入)施設として、劇場とオフィスロビーで約780人が一時滞在できるスペースを確保し、地下の駅まち空間に約500㎡のスペースを確保する計画です。劇場の客席を災害時の一時滞在に転用するという使い方は、大規模劇場を持つ複合ビルならではの防災貢献です。
スケジュール整理
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2022年9月 | 建替計画を発表(帝国劇場の休館も同日発表) |
| 2024年12月 | 都市計画手続き開始、計画概要を公表 |
| 2025年2月 | 帝国劇場 休館 |
| 2025年4月 | 既存建物の解体工事着手(大林組) |
| 2025年6月 | 都市計画の決定・告示 |
| 2027年3月 | 解体工事完了予定 |
| 2027年4月 | 新築工事着工予定 |
| 2030年度 | 竣工予定 |
いま現地は解体の真っ最中です。2027年4月の着工まで、street level では「更地に近づいていく」以外の変化がない時期が続きます。逆に言えば、丸の内であれだけの規模の敷地が空く光景は二度と見られないので、記録する価値のある時期です。
まとめ:このプロジェクトの読み方
- 帝国劇場と出光美術館が同じ場所に戻るという、文化施設の継承型建替
- 百尺(31m)の軒線を継承し、皇居に面した街並みの品格を守る
- その結果生まれる31mレベルに一般開放の屋上テラス——丸の内で希少な皇居ビュー
- 小堀哲夫が新・帝国劇場を設計、美術館は日建設計という布陣
- JR有楽町駅東西地下通路で有楽町エリアの分断を解消する基盤整備
- ZEB Oriented+街区群DHCという面的な環境戦略
- 2027年4月着工・2030年度竣工予定、まだ計画変更の余地あり
超高層の高さ競争とは真逆の、「31mの水平ラインをどう守るか」が主題になっている再開発です。丸の内という街が何を大事にしてきたかが、そのまま形になっている計画だと思います。
なお公式リリースにも「計画概要は関係機関との調整等により変更となる場合があります」と明記されています。着工前の計画である点は念頭に置いて読んでください。
よくある質問
Q. 帝国劇場はいつ再オープンする?
新築工事の着工が2027年4月、竣工予定が2030年度なので、再開は2030年度以降の見込みです。具体的な開場時期は公表されていません。
Q. 建物の高さは144mなのか155mなのか?
軒高が144.98m、最高高さが154.98mです。報道でどちらの数字を採用しているかの違いで、別の計画ではありません。
Q. 出光美術館はどこに入る?
低層〜中層部に配置される計画です。展示公開エリアを拡充し、設計デザインは日建設計が担当します。
Q. 新しい帝国劇場の設計者は誰?
建築家の小堀哲夫氏です。建物全体の設計は三菱地所設計で、小堀氏は低層部の外装デザイン提案も担当しています。
Q. 解体工事はいつまで?
大林組の施工で2025年4月1日から2027年3月31日までの工期が予定されています。


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