2026年7月31日に竣工した「大手町ゲートビルディング」。名前に「大手町」と付いていますが、実は住所は千代田区内神田一丁目です。「なぜ神田のビルが大手町を名乗るのか」——この一点を理解すると、このプロジェクトの狙いが全部つながります。
結論から言えば、これは単体のオフィスビル開発ではなく、丸の内エリアの都市軸を日本橋川の向こう側へ延ばすための「橋渡し」の開発です。三菱地所が農林中央金庫、日立プロパティアンドサービスなどとともに進めてきた「内神田一丁目地区第一種市街地再開発事業」の成果物にあたります。
基本スペック
地図:OpenStreetMap/位置は概略です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名称 | 内神田一丁目地区第一種市街地再開発事業 |
| 所在地 | 東京都千代田区内神田一丁目1番16号 |
| 敷地面積 | 5,105.74㎡ |
| 延床面積 | 85,398.71㎡ |
| 規模 | 地上26階・地下3階 |
| 高さ | 約128m |
| 用途 | 事務所、飲食店、貢献施設、駐車場 |
| 設計 | 三菱地所設計 |
| 施工 | 大成建設ほか |
| 工期 | 2022年7月〜2026年7月 |
| 竣工 | 2026年7月31日 |
| 開業 | MINORIWA 8月31日/商業・観光案内所 9月7日 |
※高さは公式リリースに記載がなく、報道・各種資料では約128〜130mとされています。
こちらが実際の建物です。



高層部はガラスのすっきりしたボリューム、低層部は太い柱が並ぶ構成。建物外部に向けて開き、人の流れを引き込む3層吹き抜けのアトリウムが、まちの「ゲート」となる空間としてデザインされています。
なぜ「ゲート」なのか——大手町と神田の間にある“断絶”
まずこのプロジェクトの前提を押さえます。
- 大手町・丸の内・有楽町エリア:成熟したビジネス街。三菱地所が長年まちづくりを主導
- 神田エリア:多様な文化が育まれてきた、親しみやすい街
- その間にあるもの:日本橋川、首都高、そして「歩いて行きづらい」という心理的な壁
東京駅から1駅の距離なのに、大手町と神田は歩行者の流れがほとんどつながっていませんでした。この開発は、ビルを建てることよりも「川を越える歩行者動線をつくること」に本質があります。
三菱地所は、成熟したビジネス街である大手町と多様な文化が育まれてきた神田の間に位置するこの立地で、日本橋川に歩行者専用の人道橋を架橋し、神田エリアの一部区道を無電柱化することで、丸の内エリアを南北に貫く「仲通り」機能を神田エリアへ延伸するとしています。
開発ポイント①:「仲通り散歩橋」で丸の内の都市軸が神田へ延びる
このプロジェクト最大の見どころが、竣工と同じ2026年7月31日に開通式が行われた人道橋「仲通り散歩橋」です。千代田区へ引渡されています。
日本橋川に新設されたこの橋によって、大手町仲通りに連続する歩行者動線が神田エリアへ延伸されます。丸の内仲通りへとつながることで、三菱地所が丸の内エリアで推進する「まちまるごとワークプレイス構想」に基づくまちの価値を、神田エリアへ面的に広げる新たな都市軸になるとされています。
周辺整備もセットで実施されています。
- 北側の千代田区道558号線を無電柱化・美装化(2025年7月完了)
- 区道549号線の美装化
- 東側エントランス前に丸の内シャトルの乗降場を新設(鎌倉橋の橋詰用地を美装化)
「丸の内シャトルが神田まで来る」というのは象徴的です。無料巡回バスの路線を延ばすことで、エリアの心理的な境界が薄れていきます。



橋のたもとには船着場も新設されました。これが次のポイントです。
開発ポイント②:江戸の「鎌倉河岸」を継ぐ船着場と水辺空間
この場所の歴史が、そのまま計画に組み込まれています。
日本橋川沿いの一帯は江戸時代に「鎌倉河岸」と呼ばれ、江戸城築城の資材や食材の荷揚げが行われた物流の要衝として発展しました。その後も市場や屋台、居酒屋文化など多様な食文化が育まれ、日本の都市文化の形成に影響を与えた場所です。
この歴史を踏まえ、開発区域外への貢献として防災船着場「鎌倉河岸船着場」を新設し、千代田区に引渡しています。平時には観光利用等に供することで、東京都が推進する舟運の活性化に貢献するとされています。
水辺と広場の整備内容はこうです。
| 施設 | 内容 |
|---|---|
| 内神田仲通り広場 | 建物西側の約1,000㎡の交流広場。移動式家具「ムービングファニチャー」を設置 |
| 内神田川端緑道 | 川沿いの歩道を敷地内に新設 |
| 鎌倉河岸船着場 | 防災船着場。平時は観光・舟運利用 |
| 観光案内所 | 船着場に近接。舟運利用者の待合・飲食・交流機能 |
神田エリアに不足していた大規模な公共空間を創出したという位置づけで、日本橋川沿いには飲食店のテラス空間が広がります。「川に背を向けていた都市を、川に向き直させる」という、近年の東京の水辺再生の流れをそのまま体現した計画です。
開発ポイント③:農と食の産業支援施設「MINORIWA(ミノリワ)」
2〜4階に入る「MINORIWA」が、このビルを単なるオフィスビルと分ける要素です。2026年8月31日に開業しました。
背景には4年がかりの助走があります。三菱地所は2022年9月に「めぐるめくプロジェクト」を始動し、地域間交流を促す「食卓会議」を4年間で27地域で開催。2026年2月には農や食のプレイヤーが集うサーキュラー・コモンズ「めぐるめくコミュニティ」を立ち上げ、その活動拠点としてMINORIWAが整備されました。
施設内には、クラフトサケの醸造所「haccoba 内神田醸造所」も2026年9月に開業。タップルームを併設した醸造所がオフィスビルの中に入るという構成です。
かつて食材の荷揚げ場だった土地に、農と食の産業支援施設を置く。歴史の文脈を用途計画のレベルで引き継いでいる点が、この開発の企画力の高さだと思います。


開発ポイント④:竣工時点で成約率100%のオフィス
オフィス部分のスペックと結果です。
- 8〜17階、19〜25階:基準階約2,070㎡(約620坪)の無柱空間
- 竣工時点での成約率100%、満床稼働
- 18階:就業者ラウンジ「GATE LOUNGE」(貸会議室・フォーカスブース併設)
- 18階:フレキシブルオフィス「xLINK大手町ゲートビル」(約11坪〜約157坪、全7区画)
- MINORIWA内に什器付きサービスオフィス
620坪の無柱空間から11坪のフレキシブルオフィスまで、大企業からスタートアップまでを1棟でカバーする構成になっています。竣工時に満床というのは、大手町アドレスと神田の賃料水準の組み合わせが市場に評価されたということです。
開発ポイント⑤:制振構造・72時間電源・帰宅困難者720名
防災インフラとしての性能も高い水準です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 構造 | 制振構造 |
| 非常用電源 | 全負荷利用想定下で72時間の電源供給 |
| 一時滞在施設 | 約1,200㎡に約720名の帰宅困難者を収容可能 |
| 一時待機場所 | 「内神田仲通り広場」 |
| 船着場 | 東京都防災船着場整備計画に基づく緊急輸送ネットワーク |
72時間・全負荷という数字は、非常時にも平時同等の事業継続が可能という水準です。大手町側の防災拠点ビルと連携し、神田エリア全体の防災性向上に寄与するとされています。
地味に技術的に面白いのがエネルギーです。日本橋川の川底の下を掘削して洞道を整備し、丸の内熱供給が大手町エリアで展開してきた地域冷暖房施設(DHC)と接続することで、地域冷暖房システムを神田エリアへ延伸しました。歩行者動線だけでなく、エネルギーインフラも川を越えさせているわけです。
開発ポイント⑥:ZEB Ready+CASBEE Sランクの環境性能
取得している認証は以下の通りです。
- ZEB Ready認証(事務所部分)
- CASBEE建築 Sランク
- CASBEEスマートウェルネスオフィス Sランク
- DBJ Green Building認証 ★4
設計手法として、空調効率等を踏まえ北面をメインファサードとする建物配置計画を採用。建物東西面に配置した三角形状の出窓は、日射遮蔽だけでなく自然換気の取り込み機能を備え、意匠面だけでない機能面も持たせたデザインになっています。
木材の使い方にも文脈があります。荷上場だった歴史を踏まえ、MINORIWAにはMEC Industryの露出天井材「MIデッキ」を採用。1階オフィスエントランスの壁・天井には、従来は建築資材として利用が難しかった原木丸太の端材から製造した「幅はぎ板」を使い、長期的な炭素固定を目指しています。
商業テナント一覧(全8店舗)
| 階 | 店舗名 | 業態 |
|---|---|---|
| 1F | Bakery & Bistro Bolero(仮) | ビストロ |
| 1F | エリックサウス | 南インド料理 |
| 1F | 和食日和 おさけと 大手町 | 和食会席 |
| 1F | 焼肉 塩ホルモン 好ちゃん 神田本店 | 焼肉 |
| 1F | ドトールコーヒーショップ | カフェ |
| 1F | ブラッスリーローデンバッハ | ビアホール |
| 2F | haccoba内神田醸造所 | クラフトサケ醸造所兼タップルーム |
| 3F | デイリーヤマザキ | コンビニ |
エリックサウスやローデンバッハなど、神田の飲み食い文化に寄せた選定になっているのが特徴です。丸の内的な高級路線ではありません。
アクセス
- 東京メトロ丸ノ内線・東西線・千代田線・半蔵門線・都営三田線「大手町駅」徒歩3分
- JR各線・銀座線「神田駅」徒歩6分
- JR「東京駅」徒歩12分
2駅9路線が使える立地です。
まとめ:このプロジェクトの本質
- 住所は内神田、名前は大手町——大手町のブランドを川の向こうへ持ち出す装置
- 仲通り散歩橋で丸の内〜大手町の都市軸を神田へ延伸
- 鎌倉河岸船着場と約1,000㎡の広場で水辺と公共空間を新設
- MINORIWAで江戸の「食の荷揚場」という歴史を用途に翻訳
- 620坪無柱×成約率100%というオフィス市場での評価
- 72時間電源・720名収容・川底洞道でDHC延伸という都市インフラ整備
- ZEB Ready+CASBEE Sランクの環境性能
ビル単体のスペックよりも、「エリアの境界をどう溶かすか」という都市デザインの課題に対する解答として読むのが正しい建物だと思います。丸の内エリアの価値を面的に拡張していく三菱地所の長期戦略の、最新の一手です。
よくある質問
Q. 大手町ゲートビルディングの住所はどこ?
東京都千代田区内神田一丁目1番16号です。名称は「大手町」ですが所在地は内神田で、大手町駅から徒歩3分の位置にあります。
Q. いつ竣工・開業した?
2026年7月31日に竣工。2〜4階のMINORIWAが8月31日、商業ゾーンと観光案内所が9月7日より順次開業しました。
Q. 高さと階数は?
地上26階・地下3階、延床面積85,398.71㎡。高さは約128mとされています(公式リリースに高さの記載はありません)。
Q. 「仲通り散歩橋」とは?
日本橋川に新設された歩行者専用の人道橋です。千代田区に引渡され、大手町仲通りの歩行者動線を神田エリアへ延伸します。
Q. オフィスの空室は?
竣工時点での成約率は100%で、満床稼働です。18階のフレキシブルオフィス「xLINK大手町ゲートビル」には約11坪〜約157坪の7区画があります。


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