
東京駅日本橋口の目の前。タワークレーン8基が昼夜を問わず動き続けている巨大な現場が、2028年に日本一の高さのビルになります。三菱地所が手がける「Torch Tower(トーチタワー)」です。
「日本一高い」というキャッチだけが先行しがちなこのプロジェクト、実際に図面や構造計画を追っていくと、高さ以上に面白いポイントが山ほどあります。この記事では建築を学ぶ視点から、トーチタワーの「ここがすごい」を数字ベースで整理します。
基本スペック
地図:OpenStreetMap/位置は概略です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Torch Tower(東京駅前常盤橋プロジェクト B棟) |
| 所在地 | 東京都千代田区大手町二丁目 |
| 高さ | 約385m |
| 階数 | 地上62階・地下4階 |
| 延床面積 | 約553,000㎡ |
| 主要用途 | 事務所、店舗、ホール、ホテル、賃貸住宅、駐車場等 |
| 設計監理 | 三菱地所設計 |
| 施工 | 清水建設 |
| 工期 | 2023年9月着工 〜 2028年竣工予定 |
主要用途は事務所・賃貸住宅・ホテル・ホール・店舗・駐車場等、規模は延床約553,000㎡、地上62階・地下4階、高さ約385m、工期は2023年9月〜2028年(予定)、設計監理は三菱地所設計、施工は清水建設です。
なお、2020年の発表当初は「高さ約390m・地上63階」とアナウンスされていました。当時のリリースでは延面積544,000㎡、地上63階・地下4階、高さ約390m、竣工予定2027年度とされていました。設計の詰めとともに数字が更新されているので、古い記事を読むときは注意が必要です。
すごい①:東京タワーを超える日本一の高さ385m
トーチタワーの地上高は385m。完成すると、大阪のあべのハルカス(300m)や2023年6月竣工の麻布台ヒルズ森JPタワー(325m)を超えて日本一高いビルになります。さらに日本のビルとして初めて東京タワー(333m)の高さ、そして350mを超える建物になります。
麻布台ヒルズ・あべのハルカスとの高さ比較
| 建物 | 高さ | 竣工 |
|---|---|---|
| トーチタワー | 約385m | 2028年(予定) |
| 麻布台ヒルズ 森JPタワー | 約325m | 2023年 |
| 東京タワー(参考・電波塔) | 333m | 1958年 |
| あべのハルカス | 300m | 2014年 |
日本の超高層は長らく300m前後が天井でした。それを一気に60m更新するスケールジャンプを、しかも地震大国の東京で成立させている点が技術的なハイライトになります。現在日本一の麻布台ヒルズ森JPタワーと比べても、頭ひとつ抜けた存在です。


東京駅の八重洲・丸の内から見上げると、他の超高層とは明らかに違う「斜めの鉄骨」が目に入ります。これが次の見どころです。
すごい②:国内最大級「ダイヤグリッド架構」と外殻制振構造
ダイヤグリッド架構とは?
一般的な超高層ビルは、ジャングルジムのように鉛直・水平の柱梁を組み上げるラーメン構造です。対してトーチタワーが採用する「外殻制振構造(Damped braced tube)」は、建物外周に斜め部材を配置し、建物全体を1本のチューブ状の構造体として強靭化します。
1階から9階床高さまでの低層部が「ダイヤグリッド架構」、その上部の基準部が「ブレース架構+オイルダンパー」。この斜めの構造体が、そのままタワー全体の表情をつくり出しています。
数字で見ると凄さがわかります。
- 一周約400mの全外周にわたり、高さ約52mまで連続
- 鉄骨総重量約1.1万トン(建築の構造体として国内最大級)
- タワー重量約80万トンのうち約4割強(約32万トン)を支える
- 斜め鉄骨柱の断面は1.4m×1.6m、最大板厚90mm、部材最大重量28.4トン
板厚90mm・1本28.4トンの柱を400m周にわたって斜めに組み上げる施工難易度は相当なもので、清水建設のプロジェクトマネージャーも「施工の難易度は非常に高く、一筋縄ではいかない」と語っていました。
なぜ通常の2倍超の耐震性能が必要だったのか
理由は平面形にあります。三菱地所設計によると、トーチタワーは超高層でありながら100m四方の平面を持つ「高くても太い」プロポーションの建物で、長周期地震動の影響を受けやすい。そのため通常の超高層ビルの2倍を超える耐震性能の実現を目指したとしています。
そこで400m級のビルをダイヤ形状の「外殻」で支える外殻構造を採用し、高層部は曲げを吸収する外殻ブレース制震構造、低層部は足元を支えるダイヤグリッド架構としました。三菱地所設計は、地震国日本で400mクラスの超々高層ビルを合理的に成立させるため10年以上の歳月をかけて構造計画・設計に取り組んできたとしています。
「地震国でどう400m級を成立させるか」への解答が新しい構造形式として結実した——ここが建築的に一番おいしい部分だと思います。



たすき掛けに組まれた巨大な斜め柱。2026年2月には、この低層部の架構が完工しています。(cite index=”12-1″>三菱地所、三菱地所設計、清水建設は2026年2月27日、低層部を支える架構の完工に合わせて建設現場を報道陣に公開しました。
すごい③:地上300m超に「半屋外の丘」——藤本壮介が手がける頂部
トーチタワーの縦方向の構成は、単なる積層ではありません。
| 階 | 用途 |
|---|---|
| 61F〜屋上 | 展望施設 |
| 59〜60F | ラグジュアリーレジデンス(約50戸) |
| 53〜58F | ホテル「Dorchester Collection」(約110室) |
| 〜52F | オフィス(基準階約2,000坪) |
| 3〜6F | 約2,000席の多目的ホール |
| B1〜6F | 商業ゾーン(約4,500坪) |
地下1階から6階までには約4,500坪の商業ゾーンが整備され、3階から6階までには「現代の芝居小屋」をモチーフとした約2,000席の多目的ホールが設けられます。53階から58階までの高層階は国際級ホテル「ドーチェスター・コレクション」、59階から60階は大手町・丸の内・有楽町エリア初となるラグジュアリーレジデンス、最上層の61階と屋上階は展望施設で、眼下の街並みのほか東京湾から富士山までを遠望できるとされています。
そして最大の見せ場が53階です。53階の「スカイヒル(Sky Hill)」は、ホテルロビーに展開する半屋外の天空の丘とされています。ホテルのロビー階は外気を取り入れられる空間になっており、300m超の高さでありながら緑と風を感じられるようデザインされています。
このアイデアの出どころは建築家・藤本壮介氏です。藤本氏は、人々のための場所がどう拡張していくかを考えたとき「上空300mに浮いている丘」のようなものがあってもいいのではないかと三菱地所設計と一緒に思いついた、丘は斜面なので身体的で、本来1階・2階と分断される場所が緩やかにつながると語っています。
デザインチームの布陣も豪華です。頂部デザインアドバイザーに藤本壮介氏、低層部デザインアドバイザーに永山祐子氏、広場デザインアドバイザーにFd Landscapeの福岡孝則氏が入っています。コアアーキテクトの三菱地所設計に、部位ごとに旬の建築家を配置する体制です。

すごい④:総延長4kmの「空中散歩道」と大規模広場
タワー単体ではなく、足元の外部空間も同時に評価すべきプロジェクトです。
1〜8階の低層部には、屋上庭園へとつながる総延長4kmの立体歩路「空中散歩道」が整備されます。街区の玄関口となる大規模広場「TOKYO TORCH Park」の設計にはデザインアドバイザーとして福岡孝則氏が迎えられています。約2kmの空中散歩道(約5,000㎡)とその終着地に広がる屋上庭園(約2,500㎡)の整備が発表されており、常盤橋タワーとの間には約7,000㎡の広場が完成します。
低層部の大規模商業施設や2,000席級のホールを「空中散歩道」で接続し、足元には水と緑豊かな大規模広場「TOKYO TORCH Park」が広がる構成で、「TOKYO TORCH Park」を核に「Torch Tower」「常盤橋タワー」が三位一体となる空間が描かれています。


すでに竣工している常盤橋タワー(A棟)と、その手前に広がる広場。ここにトーチタワーが加わって街区が完成します。
すごい⑤:LEEDゴールド・WELL予備認証を取得済み
「ただ高いビル」ではないことを示すのが環境・ウェルネス認証です。三菱地所はTOKYO TORCHで既に5つの環境認証を取得済みですが、Torch Towerでは新たに2つの国際認証を取得しました。
- LEED BD+C(CS, Core & Shell)でゴールドランクの予備認証
- 事務所用途でWELL Building Standardの予備認証(竣工後はゴールド認証取得見込み)
大型オフィスの国際競争力はこうした認証の有無で測られる部分が大きく、日本一の高さという話題性の裏で、テナント誘致の実務的な武器を揃えているのがわかります。
すごい⑥:エレベーター173台という垂直交通
延床553,000㎡・62階建てを成立させるには、垂直交通の設計が生命線になります。日立製作所が、日本一の高さとなる地上約390mの「Torch Tower」向けに昇降機173台と行先階予約・運行管理システムを受注しています。
オフィス・ホテル・レジデンス・展望施設・ホール・商業と、動線を分離しなければならない用途が縦に積まれているため、173台という台数とAIによる運行管理はむしろ必然という規模感です。
すごい⑦:2026年9月時点で「まだ35階」という伸びしろ
現在の進捗も押さえておきましょう。
2026年9月13日の撮影時点では、高層部の35〜36階部分の鉄骨が組まれた状況。実際には8基のタワークレーンで建設が進められています。直近のペースは1週間あたり約2フロア(2026年8月時点)。
今後のスケジュールは以下の通りです。
- 2026年内:高さ300mまで鉄骨が組み上がる見込み
- 2027年5〜6月ごろ:最上層に到達する見込み
- 2028年5月末:竣工(当初は2028年3月31日予定だったが、地中障害物の影響で延期)
- 2028年度:ホテル開業予定
つまりいま現地に行くと、日本一のビルが「まだ3分の1ほど」の状態を目撃できるわけです。定点観測を始めるならラストチャンスに近いタイミングです。
建設中のトーチタワーが見える撮影スポット
建設地はJR東京駅の日本橋口から徒歩約2分、東京メトロ大手町駅(B7出口)から徒歩約3分、三越前駅から徒歩約6分。
- 竜閑さくら橋:建物全景が収まる。個人的ベストアングル
- KITTEガーデン:166mのサピアタワーと並べて高さを比較できる
- 丸ビル5階展望テラス:無料で高さのある視点が取れる
- 東京駅日本橋口前・常盤橋公園:足元のダイヤグリッド架構を見上げる
東側の首都高は地下化対象区間のため、将来的に高架が撤去されて遮るものなく見上げられるようになります。周辺の八重洲・日本橋エリアの再開発も同時に進行中です。
まとめ
トーチタワーの「すごい」を整理すると、
- 高さ385mで日本初の350m超、東京タワーを超えるビル
- ダイヤグリッド架構+外殻制振構造という新しい構造形式(10年がかりの開発)
- 地上300m超の半屋外空間「スカイヒル」という前例のない試み
- 総延長4kmの空中散歩道と約7,000㎡の広場による街区一体の外部空間
- LEEDゴールド/WELL予備認証で国際基準のオフィス性能
- 商業・ホール・オフィス・ホテル・住宅・展望の6用途垂直積層
- 2028年5月竣工予定、いまが定点観測のベストタイミング
高さの記録は将来また更新されるかもしれませんが、「地震国で400m級をどう成立させるか」という構造の解答と、「超高層の上に丘をつくる」という空間の提案は、この建物が残す固有の価値だと思います。竣工後は展望施設から実際に体験してみたいところです。
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