六本木ヒルズの西側、テレビ朝日通りに面した約1.6haで進む再開発があります。西麻布三丁目北東地区第一種市街地再開発事業。地上54階・高さ約200mの超高層タワーが建つ計画です。
ただしこの事業、単なるタワマン開発ではありません。敷地内にある3つの寺社を、それぞれ独立した建物として再整備するという構成になっています。
しかもそのうちの1つは、源頼朝の時代から続き、新選組・沖田総司がお宮参りをした神社です。この記事では、歴史がどう継承されるのかを中心に整理します。
事業の基本情報
地図:OpenStreetMap/位置・範囲は概略です。街区配置は公表資料をもとにした模式表示で、確定した区画ではありません。情報は2026年9月時点。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名 | 西麻布三丁目北東地区第一種市街地再開発事業 |
| 施行地区 | 東京都港区西麻布三丁目・六本木六丁目 |
| 施行区域面積 | 約1.6ha |
| 施行者 | 西麻布三丁目北東地区市街地再開発組合 |
| 参加組合員 | 野村不動産・ケン・コーポレーション |
| 総事業費 | 約804〜824億円 |
| 設計 | 梓設計(基本設計)、梓設計・大成建設(実施設計) |
| 施工 | 大成建設 |
| 立地 | 六本木駅から西へ約300m、六本木ヒルズに隣接 |
街区はA街区(超高層棟)とB1〜B3街区(寺社)に分かれています。
| 街区 | 内容 | 規模 |
|---|---|---|
| A街区 | 超高層棟 | 地上54階・地下4階/高さ199.98m(最高201.20m)/延床約96,800㎡ |
| B1街区 | 妙善寺 | 地上3階・地下1階 |
| B2街区 | 長幸寺 | 地上3階・地下1階 |
| B3街区 | 櫻田神社 | 地上4階・地下1階 |
寺社3棟の高さは約11〜15m、延床は合計約2,740㎡です。
完成イメージがこちらです。



歴史はどう継承されるのか
この事業の最大の特徴が、3つの寺社を「消さない」という判断です。
事業者は本事業の特長として、地区内の3つの寺社を再整備し、まちの歴史を継承しながら周辺と調和した魅力ある複合市街地の形成を掲げています。
継承方法①:それぞれ独立した「棟」として再建
3つの寺社は、超高層棟の低層部に収容されるのではありません。B1・B2・B3という独立した街区に、それぞれ別の建物として再建されます。
| 街区 | 寺社 | 階数 | 工期 |
|---|---|---|---|
| B1 | 妙善寺 | 地上3階・地下1階 | 2025年7月着工/2027年5月末竣工予定 |
| B2 | 長幸寺 | 地上3階・地下1階 | 2024年12月着工/2026年7月竣工予定 |
| B3 | 櫻田神社 | 地上4階・地下1階 | 2024年12月着工/2026年7月竣工予定 |
高さ11〜15mという規模は、200mのタワーの足元に、人のスケールの建物を残すという選択です。テレビ朝日通り沿いに寺社が並ぶ街並みが、形を変えて維持されます。
継承方法②:寺社を先に建てる
工程に注目してください。寺社(2026年7月〜2027年5月)が、超高層棟(2029年12月)より先に完成します。
B2・B3街区では長幸寺と櫻田神社の仮移転を伴う工事が先行しており、既存の宗教施設と周辺の権利関係を調整しながら整備が進められています。
つまり、
- 寺社を一時的に近隣へ仮移転
- B街区に新しい社殿・本堂を建設
- 寺社を戻す
- その後、A街区の超高層棟を完成させる
という順序です。宗教活動を止めないための工程設計になっています。
継承方法③:境内の構築物も可能な限り移設
櫻田神社については、社殿・境内は造り改められ拝殿などは新設されるが、境内の構築物は新しい境内にできる限り移設する方向で進められていると伝えられています。
建物は新しくなっても、石碑や灯籠といった「境内にあったもの」は持っていく。これは建築の継承というより、場所の記憶の継承です。
櫻田神社という場所の重み
3つのうち、歴史的に最も注目すべきが櫻田神社です。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 治承4年(1180年) | 源頼朝の命により、霞山桜田明神として霞ヶ関桜田門外に鎮座 |
| 文治5年(1189年) | 頼朝が30貫の田畑を寄進。御神田の畔に桜を植えたのが**「桜田」の由来** |
| 文明年中(1461-86年) | 太田道灌が再興 |
| 慶長の頃 | 櫻田溜池の台へ遷座 |
| 寛永元年(1624年) | 麻布(現在地)へ遷座 |
| 明治5年 | 村社に指定 |
| 明治28年 | 社号を霞山稲荷神社から櫻田神社へ改称 |
| 昭和20年(1945年) | 東京大空襲で社殿の大半が焼失 |
| 昭和26年(1951年) | 再建 |
「桜田門」の「桜田」の由来がこの神社という説があります。もともと霞ヶ関にあり、400年前に麻布へ移ってきた——この神社自体が「遷座を繰り返してきた歴史」を持っているわけです。
そしてもう一つの縁があります。新選組一番隊組長・沖田総司がお宮参りをした神社です。
沖田総司は陸奥国白河藩の下屋敷で生まれました。その白河藩下屋敷が櫻田神社のほぼ隣にあり、藩邸も氏子地域だったため、櫻田神社が沖田総司の氏神になりました。日露戦争の乃木希典も初宮参りをしたと伝えられています。
江戸切絵図を見ると、「阿部播磨守」(白河藩下屋敷=沖田総司生誕地)の門前に「霞山イナリ」と記されています。そしてその上方の「毛利甲斐守」の屋敷跡が、現在の六本木ヒルズです。
つまりこの一帯は、江戸の大名屋敷と鎮守が並んでいた場所。六本木ヒルズも、この再開発も、その敷地割りの上に建っています。
エリアの歴史的な文脈と現在の様子がこちらです。



A街区:200mタワーには何が入るのか
歴史継承の一方で、超高層棟も本格的です。
| 階 | 用途 |
|---|---|
| 46〜52F | 外資系ラグジュアリーホテル |
| 6〜45F | 共同住宅(約500戸/地権者住戸含む) |
| 1〜2F | 店舗、住宅・事務所・ホテルエントランス |
ホテルは2026年6月30日に決定が発表されました。シンガポールに本社を置くカペラホテルグループのラグジュアリーブランド「カペラホテルズ&リゾーツ」で、東京初進出となります。
構造は制震構造(鉄筋コンクリート造一部鉄骨造)。子育て支援施設も整備されます。
都市基盤の整備
この事業には、防災上の明確な目的があります。地区の課題はこうでした。
- 前面の補助線街路第10号線(テレビ朝日通り)が未整備で、歩道が狭く無信号交差点に面している
- 老朽化した建築物が多く、耐震性が不足
- オープンスペースが不足
これに対する整備内容です。
- 補助10号線(テレビ朝日通り)の拡幅(緊急輸送道路に指定されている)
- 区画道路の整備
- 歩行者デッキの新設 → 北側の広場から「六本木ヒルズクロスポイント」とつながる
- オープンスペース(広場)の整備
寺社を残しながら、道路を広げて広場をつくる——限られた1.6haでこれを成立させるために、寺社を低層で別棟にする構成が選ばれたと読むこともできます。
22年かかった事業
この事業も、時間のかかり方が尋常ではありません。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 2004年5月 | まちづくり協議会 発足 |
| 2013年3月 | 市街地再開発準備組合 設立 |
| 2019年4月 | 都市計画決定 |
| 2020年9月10日 | 市街地再開発組合 設立認可 |
| 2023年2月15日 | 権利変換計画認可 |
| 2024年12月 | B2(長幸寺)・B3(櫻田神社)着工 |
| 2025年3月下旬 | A街区 着工 |
| 2025年7月 | B1(妙善寺)着工 |
| 2026年7月 | B2・B3街区 竣工予定 |
| 2027年5月末 | B1街区 竣工予定 |
| 2029年12月 | A街区 竣工予定 |
協議会発足から竣工まで約25年。当初は2026年度竣工予定でしたが、2029年12月まで後ろ倒しされています。
宗教法人が地権者に含まれる再開発は、合意形成が特に難しいとされます。寺社の移転は氏子・檀家の同意も必要になるためです。22年という期間は、その難しさの表れでもあります。
まとめ:歴史継承の実例として
- 六本木ヒルズ西側の約1.6ha、総事業費約804〜824億円の再開発
- A街区に地上54階・高さ約200m、住宅約500戸+カペラホテルズ&リゾーツ
- B1〜B3街区に3つの寺社(妙善寺・長幸寺・櫻田神社)を独立した棟として再建
- 寺社が超高層棟より先に完成する工程で、宗教活動を止めない
- 境内の構築物も可能な限り新境内へ移設
- 櫻田神社は1180年創建、寛永元年に麻布へ遷座、沖田総司の氏神
- 補助10号線の拡幅、歩行者デッキで六本木ヒルズクロスポイントと接続
再開発では、寺社が超高層ビルの一角に組み込まれる例が少なくありません。この事業が違うのは、3つそれぞれを独立した建物として建て直した点です。
200mのタワーの足元に、高さ11〜15mの寺社が3棟並ぶ。これは効率の観点では最適ではないでしょう。しかし800年続いた場所を、形を変えてでもその場に残すという判断がそこにあります。
歴史の継承を「モチーフ」や「名称」で済ませる開発が多いなかで、実体として残す選択をした事例として、記録しておく価値があります。
よくある質問
Q. 西麻布三丁目北東地区の再開発はいつ完成する?
A街区(超高層棟)は2029年12月竣工予定です。寺社はB2・B3街区が2026年7月、B1街区が2027年5月末の竣工予定です。
Q. 3つの寺社とは?
B1街区が妙善寺、B2街区が長幸寺、B3街区が櫻田神社です。それぞれ独立した建物として再整備されます。
Q. 櫻田神社はどんな神社?
治承4年(1180年)に源頼朝の命により霞ヶ関に創建され、寛永元年(1624年)に麻布へ遷座した神社です。新選組の沖田総司がお宮参りをした神社として知られ、港七福神の寿老神も祀られています。
Q. 参拝はできる?
2026年9月時点では、櫻田神社は再開発に伴い仮移転中です。参拝の可否や場所は各寺社の最新情報を確認してください。
Q. タワーに何が入る?
1〜2階に店舗とエントランス、6〜45階に共同住宅約500戸、46〜52階に「カペラホテルズ&リゾーツ」が入る予定です。


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