2023年1月31日、渋谷・道玄坂の東急百貨店本店が閉店しました。1967年開業、半世紀以上にわたって渋谷の「奥」を支えてきた百貨店です。
その跡地で進んでいるのが「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」。地上34階・高さ155.7mの複合施設で、2029年度の竣工を予定しています。
ただしこの施設、百貨店の建て替えではありません。商業・美術館・ホテル・賃貸レジデンス・庭園が1棟に重なる、「文化複合施設」です。この記事では、建物の設計とテナントの2つの面から、どんな魅力を持つ施設になるのかを整理します。
事業の基本情報
地図:OpenStreetMap/位置・範囲は概略です。建物・庭園の位置は公表資料をもとにした模式表示です。情報は2026年9月時点。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト) |
| 所在地 | 東京都渋谷区道玄坂二丁目24番1号 |
| 事業者 | 東急・L Catterton Real Estate・東急百貨店(特定目的会社を通じて推進) |
| 敷地面積 | 13,675.30㎡(隣接するBunkamuraを含む) |
| 延床面積 | 119,041.07㎡ |
| 規模 | 地上34階・地下4階/高さ155.7m |
| 用途 | 物販店、飲食店、ホテル、共同住宅、美術館、駐車場 |
| デザインアーキテクト | Snøhetta(スノヘッタ)(ノルウェー) |
| 設計 | 日建設計、石本建築設計事務所 |
| 施工 | 大林・東急・西武建設共同企業体(代表:大林組) |
| 着工 | 2025年3月11日 |
| 竣工 | 2029年7月31日予定 |
| コンセプト | 「Tokyo’s Urban Retreat」 |
事業パートナーのL Catterton Real Estateは、ラグジュアリーブランドへの投資で知られるグループの不動産部門です。東急単独ではなく、国際的なパートナーと組んでいることが、この施設の方向性を示しています。
完成イメージがこちらです。



魅力②:縦に重なるテナント構成
この施設の特徴は、性格の違う5つの機能が縦に積み重なることです。
| 階 | 用途 | 内容 |
|---|---|---|
| 18〜33F | 賃貸レジデンス | 都市型賃貸住宅 |
| 8〜17F | ホテル | The House Collective(約100室・日本初進出) |
| 7F | 美術館 | Bunkamura ザ・ミュージアム(拡大移転) |
| 中層部 | 庭園 | The Sanctuary(7〜10階に接続) |
| B1〜6F | 商業 | ライフスタイル提案型のリテール店舗 |
商業 → 美術館 → 庭園 → ホテル → 住まいと、上に行くほどプライベートで静かになっていく構成です。コンセプト「Tokyo’s Urban Retreat(都会の隠れ家)」が、フロア構成そのものに表れています。
一つずつ見ていきましょう。
商業(B1〜6F):百貨店ではなく「ライフスタイル提案型」
地下1階〜地上6階には、洗練されたライフスタイルを提案する小売店が入ります。
注目すべきは、百貨店として再建されないという点です。かつての東急百貨店本店は、フロアごとに売り場が並ぶ大型百貨店でした。新施設はライフスタイル提案型のリテール——ブランドごとの世界観を体験する店舗が中心になると見られます。
テナントの具体名はまだ公表されていません。ただし事業パートナーがラグジュアリーブランドへの投資で知られるL Catterton系であることから、高感度な国内外ブランドの誘致が想定されます。
美術館(7F):Bunkamura ザ・ミュージアムが拡大移転
Bunkamura ザ・ミュージアムが、隣接するBunkamuraから新施設の7階に拡大移転します。
しかも美術館のデザインもスノヘッタが担当します。建物と美術館を同じ建築家が設計するため、庭園・ホテルとの一体感が生まれます。
Bunkamuraは1989年9月に開館した東急グループの文化施設。オーチャードホール以外は2023年4月から長期休館に入っており、Shibuya Upper West Projectの開業と同時に営業を再開する計画です。
休館中のコンテンツは東急系の施設で引き継がれています。たとえばシアターコクーンの演劇は、新宿の東急歌舞伎町タワー内「THEATER MILANO-Za」などで当面上演されています。
ホテル(8〜17F):The House Collective 日本初進出
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ブランド | The House Collective(ザ・ハウス・コレクティブ) |
| 運営 | Swire Hotels(スワイヤー・ホテルズ) |
| 客室数 | 約100室 |
| 位置 | 8〜17階 |
| 特徴 | ワールドクラスのスモールラグジュアリーホテル、日本初進出 |
The House Collectiveは、香港を拠点とするスワイヤー・ホテルズのラグジュアリーブランドです。大規模チェーンとは異なり、1軒ずつデザインと個性で勝負するホテル群として知られます。
約100室というスモールサイズが特徴です。この連載で扱った他のラグジュアリーホテル(ウォルドーフ・アストリア197室、ローズウッド約200室)と比べても半分程度。客室数を絞り、体験の密度を上げるタイプのホテルです。
そしてホテルの8〜10階は庭園「ザ・サンクチュアリ」に接続します。美術館を見て、庭園を歩いて、ホテルに戻る——この動線が、この施設の最大の魅力になります。
レジデンス(18〜33F):都市型賃貸住宅
最上部の18〜33階は都市型賃貸レジデンスです。分譲ではなく賃貸なのが特徴で、東急が長期にわたって保有・運営する意図が読み取れます。
魅力③:渋谷の「西側」という立地
この施設の立地にも意味があります。
渋谷の再開発は、これまで駅の東側(渋谷ヒカリエ、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア)が先行してきました。Shibuya Upper West Projectは駅の西側、道玄坂の上にあります。
さらに背後には松濤(しょうとう)が広がります。都内有数の高級住宅街であり、松濤美術館などの文化施設もあるエリアです。
つまりこの施設は、
- 駅前の賑わい(道玄坂・文化村通り)
- 閑静な住宅街と芸術(松濤)
の境界に建つことになります。名前の「Upper West」は、渋谷の「上の方・西側」という位置を示すと同時に、ニューヨークのアッパー・ウエスト・サイド(リンカーン・センターなどの文化施設と住宅街が共存するエリア)を想起させる命名です。
「渋谷の賑わいから一歩離れた、文化と暮らしの場所」——Tokyo’s Urban Retreatというコンセプトは、この立地から導かれています。
道玄坂エリアのホテル競争
周辺ではホテルを核とした開発が相次いでいます。
| 施設 | 内容 |
|---|---|
| Shibuya Upper West Project | The House Collective(約100室) |
| 道玄坂通(dogenzaka-dori) | 地上28階・最高高さ118.7m、高層部にホテルインディゴ東京渋谷 |
| 道玄坂二丁目周辺 | 三菱地所などの開発計画 |
高級ホテルが少なかった渋谷が、道玄坂二丁目エリアを中心に数年で変わる——その中でShibuya Upper West Projectは最大の注目案件と位置づけられています。
スケジュール
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 1967年 | 東急百貨店本店 開業 |
| 1989年9月 | Bunkamura 開館 |
| 2022年7月 | プロジェクト概要発表 |
| 2023年1月31日 | 東急百貨店本店 閉店 |
| 2023年4月 | Bunkamura(オーチャードホール以外)長期休館 |
| 2025年3月11日 | 着工 |
| 2029年7月31日 | 竣工予定 |
| 2029年度 | 開業予定/Bunkamura営業再開 |
まとめ:どんな魅力を持つ施設になるのか
建物の設計から生まれる魅力
- スノヘッタ(オスロ・オペラハウス)による建築デザイン
- 段状に連なる庭園「ザ・サンクチュアリ」——坂の街に地形のような緑を積む
- 美術館もスノヘッタが設計し、建物・美術館・庭園・ホテルが一体に
テナントから生まれる魅力
4. B1〜6F:百貨店ではなくライフスタイル提案型の商業
5. 7F:Bunkamura ザ・ミュージアムが拡大移転
6. 8〜17F:The House Collective(約100室・日本初進出)
7. 18〜33F:都市型賃貸レジデンス
8. 美術館 → 庭園 → ホテルがつながる動線
立地から生まれる魅力
9. 駅の西側・道玄坂の上、松濤との境界
10. 渋谷の賑わいから一歩離れた「Tokyo’s Urban Retreat」
東急百貨店本店は、モノを売る場所でした。Shibuya Upper West Projectは、時間を過ごす場所になります。
美術館で絵を見て、段々の庭園で休み、同じ建物のスモールラグジュアリーホテルに泊まる。渋谷で「滞在」するという体験は、これまでほとんど存在しませんでした。
渋谷の東側が「駅と動線の再開発」なら、西側のこの施設は「滞在と文化の再開発」。2029年、渋谷のもう一つの顔が生まれます。
よくある質問
Q. Shibuya Upper West Projectはいつ完成する?
2029年7月31日の竣工予定で、2029年度の開業が予定されています。2025年3月11日に着工しました。
Q. どんな施設が入る?
地下1階〜地上6階にライフスタイル提案型の商業施設、7階にBunkamura ザ・ミュージアム、8〜17階にホテル「The House Collective」(約100室)、18〜33階に都市型賃貸レジデンスが入ります。
Q. デザインは誰が担当する?
ノルウェーの建築・デザイン事務所スノヘッタ(Snøhetta)がデザインアーキテクトを務めます。オスロ・オペラハウスなどで知られる事務所で、Bunkamura ザ・ミュージアムのデザインも担当します。
Q. Bunkamuraはどうなる?
Bunkamuraの建物は存続し、オーチャードホール以外は2023年4月から長期休館中です。Bunkamura ザ・ミュージアムは新施設の7階に拡大移転し、施設の開業と同時に営業を再開する計画です。
Q. 商業施設のテナントは決まっている?
2026年9月時点で具体的なテナント名は公表されていません。洗練されたライフスタイルを提案する小売店が入るとされています。


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