はじめに
岐阜県では、中心市街地の衰退・交通手段の制約という課題を背景に、LRT（次世代型路面電車）を有力な交通インフラの選択肢として検討を開始しています。鉄道協議会日誌+1
この記事では、構想の背景・ルート案・出店（誘致）先・課題・今後のスケジュールを整理し、建築×不動産×まちづくりの視点からもひもといておきます。
1. 構想の背景
- 岐阜市中心部では、かつて賑わった商店街（例：柳ヶ瀬商店街）の通行量が大きく落ち込み、郊外型ショッピングモール等への移行が進んでいます。メルクマール+1
- 自動車中心の交通環境から脱し、「歩いて移動できるまち」、回遊性のあるまちづくりの実現を目指す動きがあります。飛翔～リニア時代の新しい名古屋へ
- 県の都市政策課による資料でも、「新たな交通システム整備の考え」としてLRTを位置づける文書が公表されています。岐阜県庁
2. 想定ルート案（３本）
構想段階のため確定路線ではありませんが、以下の３つのルートが主に検討されています。ぎふチャン｜岐阜放送公式サイト+2岐阜新聞デジタル+2
- ①南北ルート（基幹ルート）：
岐阜羽島駅（羽島市） → 県庁・市街地 → JR岐阜駅（岐阜市）
羽島・新幹線駅を起点として市中心部へ人を呼び込む構想です。飛翔～リニア時代の新しい名古屋へ+1 - ②周回ルート（市街地循環）：
JR岐阜駅 → 金華山・長良川国際会議場方面 →市街中心部をぐるりと回るルート。回遊性を高め、観光・商業を含めた“まちの滞在時間”を伸ばす狙いがあります。ぎふチャン｜岐阜放送公式サイト - ③北部ルート（学生・ICアクセス）：
岐阜市街地 → 岐阜大学周辺 → 岐阜IC（東海環状自動車道）
大学生等の移動需要や高速道路との接続強化を想定しています。飛翔～リニア時代の新しい名古屋へ
3. 出店・誘致先（「まちづくり」視点での注目場所）
このLRT構想とともに、沿線・駅周辺では“駅前立地”や“リノベーション”“コンパクトシティ化”などのまちづくりがセットで語られています。以下、特に注目すべき場所を挙げます。
| 場所 | 内容・狙い | 補足 |
|---|---|---|
| 柳ヶ瀬商店街（岐阜市中心部） | LRTによる回遊動線が整備されれば、従前の商店街やアーケード街へのアクセス改善・滞在時間増が期待されます。 | 衰退した中心市街地への活性化策として位置づけられています。メルクマール |
| 岐阜羽島駅前 | 新幹線利用者を起点に、LRTで市内中心へアクセス可能になることで、駅前商業・宿泊・オフィス誘致の起点になり得ます。 | 羽島市との連携も視野に入っています。岐阜新聞デジタル |
| 岐阜大学周辺・岐阜IC周辺 | 学生・若年層の移動を確保しつつ、IC付近の自動車アクセスを活かして「駅＋クルマ」で市中心へ誘導する構想と紐づきます。 | 北部ルートの用途ターゲットとして想定されています。飛翔～リニア時代の新しい名古屋へ |
出店先の明記：今のところ「沿線駅前・駅徒歩圏」や「中心市街地再編エリア」などがターゲットゾーンとして挙げられており、具体的なテナント名・商業施設名の公表はされていません。ですが上述３エリアがまちづくりとLRTの両輪で注目されており、出店・誘致先として優位と考えられます。
4. 想定スケジュール・整備体制
- 2025年度中に基礎調査を県が開始。メルクマール+1
- 調査費として3,000万円程度を補正予算に計上済み。タビリス
- 開業目標として「おおよそ10年後」との方向性が示されています。ぎふチャン｜岐阜放送公式サイト
- なお、事業主体（整備・運営）は未確定で、運営スキーム・財政計画・軌道・電化方式など詳細設計フェーズにあります。タビリス
5. 課題・留意点
- 財政面：県としての債務・借入の課題が指摘されており、大きなインフラ整備を如何に収益化・持続化するかが焦点。メルクマール
- 既存交通との競合：例えば、名鉄竹鼻線・羽島線との重複・競合区間が懸念されています。岐阜新聞デジタル
- 路線・駅配置・採算性：ルートが未決定であり、利用想定・費用便益分析・収支構造が現時点では不透明。タビリス
- 市街地再生との整合性：「移動手段を整えるだけ」でなく、沿線まちづくり（駅前再開発・商業誘致・住宅誘導）との一体設計が不可欠です。
6. 建築×不動産視点での読み解き
- 駅前・沿線開発：LRT駅設置によって「駅徒歩5〜10分圏」の価値が再評価され得る。土地賃料・商業収益のポテンシャルが変化します。
- コンパクトシティモデル：自動車依存から公共交通＋徒歩・自転車を軸にした都市構造へ転換すれば、郊外住宅・商業施設に代わる「中心部の回帰」が想定されます。
- 住宅・オフィス誘致：大学や研究機関、ICアクセスを活かした学・産・官連携施設を誘致することで「交通インフラ＋知拠点」の組み合わせが可能。
- リスクヘッジ：しかし、採算が取れないと税金負担・自治体財政への圧迫となるため、民間誘致・複合開発（駅上・駅横マンション＋商業＋オフィス）などの仕掛けが重要です。
7. 今後のポイント／見どころ
- 調査段階（2025年度内）で、ルート絞り込み・利用予測・費用便益分析が出るかどうか。
- 駅設置予定地・出店先（商業施設・ホテル・オフィス）の公表。
- 運営スキーム（公営・公設民営・ＰＦＩ方式など）、民間参加の方向性。
- 沿線まちづくりの具体化（再開発エリア・駅前広場整備・歩行者空間化など）。
- 他都市事例（例えば 富山市 のLRT整備と都市再生成果）との比較検討。
結びに
岐阜県・岐阜市を中心としたこのLRT構想は、交通インフラの刷新を契機に「まちの価値を線で、面で高める」取り組みと捉えられます。もしこの構想が実現すれば、沿線不動産の価値変動・都市内回遊性の改善・観光・学生・ビジネス誘致など幅広い波及効果が期待されます。
一方で、財政・採算・まちづくり整合性のハードルも少なくありません。今後、路線決定・関係施設の誘致公表・詳細設計のフェーズに入ったときに、まちづくり・不動産戦略としての分析も深める価値があります。
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