――補助第227号線計画をめぐる都市計画と住民反発の全貌**

東京・杉並区高円寺で計画されている**補助第227号線(以下:補助227)**をめぐり、反対署名が急増し、議論が再燃している。
「なぜ今さら道路?」
「この街らしさが壊されるのでは?」
こうした声がSNSや現地ポスターを通じて広がり、都市計画の“ある根本問題”が浮き彫りになっている。
本記事では、建築・都市計画の観点から計画の背景・反対の理由・行政の立場・今後の展望をわかりやすく整理する。
1|補助第227号線とは?
■ 70年前に決まった「戦後復興型」の都市計画道路

区部及び多摩地域の都市計画道路|区部及び多摩地域の都市計画道路|東京都都市整備局
補助227は、東京都が1950年代に策定した都市計画道路網の一部。
高円寺駅北側を東西に横断し、環七〜中野区方面を結ぶ幅20〜22mの都市計画道路として決定されている。
当時の目的は、
- 戦後の防災道路の確保
- 自動車交通増大に対応
- 幹線道路のネットワーク化
- 火災延焼を防ぐ「防火帯」
といった、高度経済成長期の価値観がベースにある。
■ 現在の区間で計画されていること
- 道路幅員はおよそ20m
- 歩道整備
- 電線地中化
- 自転車レーン
- 緑地帯の整備
- 木造密集地帯の防災性向上
都市計画としては典型的な「地区の防災性と交通を改善する道路」である。
2|では、なぜ今になって反対が噴出しているのか?
反対署名が集まっている背景には、3つの社会的転換点がある。
2-1|① 70年前の計画を“固定”したまま進む都市計画制度
都市計画道路には「自動失効」がなく、一度決まると半永久的に残る。
高円寺でも、
- 現在の生活実態
- 商店街文化
- 歩行者中心の街づくり
- 車依存の減少
- 温室効果ガス削減政策
など現代の価値観と計画が整合していない。
✔ 道路は必要だが、計画の目的自体が古いまま
✔ 住民は“何のための道路か”を実感できない
このギャップが反発を生んだ。
2-2|② 高円寺らしさ=「狭さ・密度・雑居」の街並みが壊れる
高円寺は、
- 商店街の連続性
- 細い路地の文化
- 古着屋やライブハウスがつくる独自性
- 低層建物のにぎわい
といった**“ヒューマンスケールの街”**で成り立っている。
20m道路は、これらの物理的基盤を一気に分断する。
■ 具体的な懸念点
- 商店街が直線道路で物理的に分断される
- 小規模店舗の立ち退き
- 路地ネットワークの喪失
- 通過交通(車)が増える
- 歩行者動線が大幅に変わる
- 街の“密度”が低下する
高円寺の価値は「狭い文化圏に多様性が詰まっていること」。
そのコアが失われる恐れがあるため、街のアイデンティティ喪失への危機感が強い。
2-3|③ 「道路計画の説明が不十分」という不信感
住民説明会では、
- 歩行量の予測
- 車の交通量の将来値
- 防災効果の具体的説明
- 他の選択肢(歩行者空間整備等)
- 商店街への影響分析
などが不十分との指摘が多い。
「本当にこの道路が必要なのか?」
「代替案は検討されていないのか?」
「街にとってのメリットが見えない」
行政側は“防災性向上”を主理由として説明しているが、住民は「なぜ道路なのか」を納得していない。
3|都市計画的に見た補助227の“メリット”
反対が多い一方で、計画自体にメリットもある。
■ ① 防災面
- 木造密集地で「火災延焼遮断帯」になる
- 消防車の進入路が確保できる
- 電線地中化により災害復旧が早い
■ ② 歩道・自転車レーンが整備される
現在の細い道路よりは安全性が高くなる。
■ ③ 将来の交通代替ルート
中央線の高架沿いだけを動脈として頼るリスクが減る。
ただし、防災目的を達成するなら道路以外のアプローチもある(=住民が主張するポイント)。
4|反発が強い本質的理由
都市計画の観点から整理すると下記の5点が最も大きい。
■(1)道路計画が「街の価値」を無視しているように見える
高円寺の価値は「多様性・雑多さ・密度」。
20m道路は、これを破壊しかねない。
■(2)代替案が示されていない
住民が求めているのは、
「道路ありき」ではなく、
「目的(防災・回遊性)をどう達成するか?」
道路以外の施策案としては、
- 路地ネットワークの複数整備
- 小規模ポケットパークの配置
- 建替え誘導による不燃化促進
- 歩行者優先道路化
- 商店街の車両通行規制
など多様な選択肢がある。
■(3)道路が“通過交通”の増加を招く懸念
「車が増えて歩きにくくなるのでは?」という不安。
住民は“街の道路は街のためのもの”だと考えている。
■(4)商店街文化への悪影響
高円寺は「小さな店の集合」が街の魅力。
立ち退き=文化財ともいえる個店の消失となる。
■(5)行政手続きが“既定路線的”に見える
計画決定から70年の年月が不信感を強めている。
5|今後の展望:計画はどうなるのか?
ここからが都市計画的に重要なポイント。
5-1|■ 都市計画の変更(廃止・縮小)の可能性はある
近年、
- 都市計画道路の見直し(2030年問題)
- 道路を縮小した事例(渋谷明治通り・世田谷代田など)
が増えている。
補助227も例外ではなく、
- 幅員縮小
- 完全な廃止
- 歩行者専用軸として再デザイン
などの可能性は残されている。
5-2|■ しかし短期での全面撤回は難しい
行政手続き的には、
- 都市計画変更案の作成
- 都市計画審議会で審議
- 公聴会
- 住民説明会
- 都市計画決定(変更)
が必要なため、数年単位の長期プロセスとなる。
5-3|■ 杉並区・東京都は“防災”を重視し撤回に慎重
特に杉並区北部は木造密集地域(不燃化特区)。
行政側は
「道路は延焼遮断帯として重要」
と繰り返しており、撤回に消極的。
5-4|■ 現実的な着地点は「段階的な縮小・デザイン変更」
最もありうるのは以下。
✔ 歩道+自転車レーン中心の“街路型道路”への再設計
✔ 幅員20m → 14m〜12m程度への縮小
✔ 緑地帯重視の“歩行者軸”化
✔ 商店街との連続性を保つデザイン
車の通過交通を最小限にし、
「文化を守りながら防災性も確保する」
方向が現実的な折衷案となる。
6|まとめ:高円寺の都市計画は“価値観の衝突”の象徴
補助227問題の本質は、
昔の都市計画 × 今の街の価値観
のギャップである。
昭和の都市計画:
「広い道路・車中心・防災の帯」
令和の都市計画:
「人中心・歩行者空間・文化の継承」
高円寺はこの転換点に立っている。
今後は、
- 代替案の検討
- 幅員縮小
- 歩行者軸としての再設計
- 街のアイデンティティの保全
など、“街を壊さずに防災を高める”方向で議論が進む可能性が高い。
高円寺が持つ唯一無二の文化を守りつつ、
安全で持続可能な都市へ――
これこそが、今求められている都市計画の姿である。


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