日本橋の上を首都高が横切る光景——この風景が、あと十数年で消えます。

首都高速道路の日本橋区間地下化事業と、それに歩調を合わせる5つの再開発。この2つが組み合わさって、日本橋川沿いに幅約100m・長さ1,200mの親水空間を生み出そうとしています。それが「日本橋リバーウォーク」です。
個々の再開発を単体で見ていると全体像がつかめません。この記事では、なぜこれだけの事業が同時に動いているのかを整理します。
地図:OpenStreetMap/位置・ルートは概略です。円の大きさは各事業の最高高さの比率に対応。正確な区域は各事業者・行政の公表資料をご確認ください。
まず首都高地下化を理解する
すべての起点はここです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業区間 | 都心環状線 神田橋JCT〜江戸橋JCT |
| 延長 | 約1.8km |
| 構造の内訳 | トンネル約1.1km/擁壁・堀割約0.3km/高架約0.4km |
| 地下ルート完成 | 2035年度(予定) |
| 高架橋の撤去完了 | 2040年度(予定) |
重要なのは、この事業の出発点が「景観」ではなく「老朽化」だったという点です。
この区間は開通から50年以上が経過し、1日あたり約10万台の交通量による損傷が発生していました。応急補修で対応してきたものの、長期の安全確保のために造り替え(大規模更新)が必要になった。その機会を捉えて「どうせ造り替えるなら地下へ」という判断が下されたわけです。
経緯を追うとこうなります。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 2014年 | 首都高の大規模更新計画を策定 |
| 2016年 | 日本橋川沿いの3地区が国家戦略特区の都市再生プロジェクトに追加 |
| 2017年 | 国土交通大臣と都知事が地下化に取り組む旨を発表 |
| 2019年 | 神田橋JCT〜江戸橋JCT間を地下ルートで整備することが決定 |
| 2025年4月5日 | 首都高八重洲線が約10年間の長期通行止めに/KK線廃止 |
| 2035年度 | 地下ルート完成予定 |
| 2040年度 | 高架撤去完了予定 |
2025年4月からすでに八重洲線が10年間通行止めという、都市交通としては異例の事態に入っています。
首都高が地下化される前後のイメージです。


なぜ「立体道路制度」が鍵なのか
地下化の実現には、技術以上に大きな壁がありました。トンネルを通す場所がないという問題です。
日本橋周辺は建物が密集しており、道路の地下だけでルートを確保できません。そこで使われたのが「立体道路制度」です。
これは建物の地下(または上空)に道路を通せる制度で、首都高速道路会社はこれを活用して建物の地下にトンネルを整備する方針を採りました。
ここで再開発と道路事業が結びつきます。
- 首都高側 → 民地の地下にトンネルを通したい
- 再開発側 → どうせ建て替えるなら、地下化後の川沿いを前提に設計したい
この利害が一致した結果、再開発事業が道路事業の工事用地・トンネル用地を提供し、道路事業が再開発の前提条件をつくるという相互依存の関係が生まれました。
だからこの一帯の再開発は、単独では完成できません。
5つの再開発が「日本橋リバーウォーク」
日本橋リバーウォークは、親水空間と川沿い歩行者ネットワークを中心に、5つの再開発区域とその周辺一帯を指すエリア名称です。
| 事業 | 規模の中心 | 竣工時期 |
|---|---|---|
| 日本橋一丁目中地区(東京ミッドタウン日本橋) | 284m・52階 | 2026年9月竣工/2027年秋開業 |
| 八重洲一丁目北地区 | 218m・44階 | 南街区2029年度/北街区2032年度 |
| 日本橋室町一丁目地区 | 173m・34階 | A街区2032年/C・D街区2034年度以降 |
| 日本橋一丁目東地区 | 203m+210mのツイン | 着工2028年度/完成2038年度 |
| 日本橋一丁目1・2番地区 | 135m・25階 | A・B街区2031年度/C・D街区2034年度 |
5区域を合わせた面積は約11ha。これに首都高地下化事業が加わり、国・東京都・中央区・首都高・民間事業者・地域が一体で進めています。
2025年春には一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメントが設立され、プレゼンテーション拠点「VISTA」も開設されました。
リバーウォーク全体の将来像がこちらです。



各事業が担う「役割分担」
この枠組みの面白さは、事業ごとに首都高への協力の仕方が違う点です。
| 事業 | 首都高地下化への関わり方 |
|---|---|
| 日本橋室町一丁目地区 | C・D街区の地下をトンネルが通過(浅い位置) |
| 日本橋一丁目東地区 | 区域の一部を事業用地として提供+立体道路制度で用地確保 |
| 八重洲一丁目北地区 | 区域北側部分の実現に向けた各種協力 |
| 東京ミッドタウン日本橋 | 地下化後の景観を先取りした設計 |
そして川沿いの街区は、どの事業も低層に抑えられています。
| 事業 | 陸側 | 川側 |
|---|---|---|
| 東京ミッドタウン日本橋 | C街区 284m | B街区 約32m |
| 八重洲一丁目北地区 | 南街区 218m | 北街区 約12m |
| 日本橋室町一丁目地区 | A街区 173m | B〜D街区 1〜3階 |
| 日本橋一丁目東地区 | A・B街区 203m/210m | C〜E街区 50〜250㎡の広場 |
川に面した部分には壁をつくらない——このルールが全事業で徹底されています。高さを陸側に集約し、水辺は公共空間として開く。これが「リバーウォーク」という名前の実体です。
工程の連鎖:なぜ完成が2030年代後半なのか
全体の時間軸を並べると、この計画の難しさが見えてきます。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2025年4月 | 八重洲線 長期通行止め開始/KK線廃止 |
| 2026年9月 | 東京ミッドタウン日本橋 竣工 |
| 2027年秋 | 同 グランドオープン |
| 2029年度 | 八重洲一丁目北地区 南街区 竣工 |
| 2032年〜 | 日本橋室町一丁目地区 A街区/八重洲一丁目北地区 北街区 |
| 2033年度 | 首都高のトンネル工事が室町地区の川沿いへ |
| 2035年度 | 首都高 地下ルート完成 |
| 2038年度 | 日本橋一丁目東地区 完成 |
| 2040年度 | 高架撤去完了=リバーウォーク完成 |
ポイントは工程が一直線につながっていることです。
川沿いの街区は、トンネル工事の前に既存建物の解体と地中の基礎杭を抜く「前さばき」工事を終えておく必要があります。つまり再開発が遅れると、道路工事も遅れる構造です。
実際、2026年8月には日本橋室町一丁目地区の遅れが地下化工事に影響を与える懸念が報じられています。同地区は入札不調などにより完成時期を3年10か月延期しており、A街区の着工も不透明な状況です。
一つの事業の遅延が全体に波及する——これがこの巨大プロジェクトの最大のリスクです。
首都高の再編もセットで進む
地下化だけでなく、道路網全体が組み替えられます。
| 事業 | 内容 |
|---|---|
| 日本橋区間地下化 | 神田橋JCT〜江戸橋JCTを地下ルート化 |
| 新京橋連結路 | 築地川区間と八重洲線を結ぶ延長1.1kmのトンネル(往復2車線) |
| 築地川区間 | 現行基準に合った擁壁へ造り替え |
| KK線再生 | 東京高速道路を廃止し、上部空間を歩行者中心の公共空間へ |
地下化で都心環状線同士の接続がなくなるため、その交通を代替するのが新京橋連結路です。これらを合わせて2035年度に新たな都心環状ルートが整備されます。
そして注目すべきがKK線。廃止された東京高速道路の高架は、歩行者空間として再生される計画です。日本橋で高架を地下に落とし、銀座で高架を歩道に変える——同じエリアで正反対のアプローチが同時に進んでいます。
まとめ:この計画をどう捉えるか
- 起点は景観ではなく首都高の老朽化と大規模更新
- 対象は神田橋JCT〜江戸橋JCTの約1.8km、地下ルート完成2035年度、高架撤去2040年度
- 立体道路制度で建物の地下にトンネルを通すため、再開発と道路事業が相互依存
- 5つの再開発(約11ha)が川沿いを一斉に建て替え
- 全事業で川側は低層、陸側に高さを集約という原則を共有
- 目標は幅約100m・長さ1,200mの親水空間
- 工程が連鎖しているため、一つの遅れが全体に波及するリスクあり
日本の都市開発で、これほど多くの主体が十数年単位で歩調を合わせる事例はほとんどありません。再開発5件と道路事業が、それぞれの工程を互いの条件として組み込んでいる。プロジェクトマネジメントとして見ても異例の規模です。
そして完成は2040年度。いま日本橋の上を走る首都高を見上げられるのは、あと十数年です。
よくある質問
Q. 首都高の日本橋区間はいつ地下化される?
地下ルートの完成は2035年度、高架橋の撤去完了は2040年度が予定されています。
Q. 対象区間はどこ?
都心環状線の神田橋JCT〜江戸橋JCT間の約1.8kmです。うち約1.1kmがトンネル構造になります。
Q. 日本橋リバーウォークとは?
日本橋川沿いの5つの再開発区域とその周辺一帯を指すエリア名称です。5区域の合計面積は約11haで、幅約100m・長さ1,200mの親水空間を目指しています。
Q. なぜ再開発と道路工事が同時に進むの?
立体道路制度により、建物の地下にトンネルを通す計画だからです。再開発事業が用地や工事条件を提供し、道路事業が再開発の前提をつくる相互依存の関係にあります。
Q. 首都高が通行止めになっている区間は?
八重洲線の神田橋JCT〜西銀座JCTが2025年4月5日から2035年度まで長期通行止めです。東京高速道路(KK線)も同日に廃止されました。


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