2018年に豊洲へ移転して以来、約19万㎡の更地のまま残されてきた築地市場跡地。その使い道がついに固まりました。
総事業費約9,000億円、総延床面積約126万㎡、9棟構成。中心に据えられるのは約5万人収容の屋内型マルチスタジアムです。
「都心最後の一等地」と呼ばれてきた土地が、どう生まれ変わるのか。2025年8月に公表された基本計画をもとに整理します。
事業の基本情報
地図:OpenStreetMap/位置・範囲は概略です。配棟は基本計画の構成を模式的に示したもので、実際の配置とは異なります。正確な計画は基本計画PDFをご確認ください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名 | 築地地区まちづくり事業 |
| 所在地 | 東京都中央区築地五丁目・六丁目 |
| 活用都有地面積 | 約19万㎡ |
| 総延床面積 | 約126万㎡ |
| 総事業費 | 約9,000億円 |
| 構成 | 9棟 |
| 事業者 | 築地まちづくり株式会社(SPC、2024年12月設立) |
| 開業 | 2030年代前半以降 |
事業者の顔ぶれが異例です。代表企業の三井不動産に加え、トヨタ不動産と読売新聞グループ本社が中心。構成企業には鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店、日建設計、パシフィックコンサルタンツ、朝日新聞社、トヨタ自動車が並びます。
スーパーゼネコン4社が揃い、新聞社2社と自動車メーカーが入るという布陣は、他の再開発ではまず見られません。設計は日建設計とパシフィックコンサルタンツ、施工は鹿島・清水・大成・竹中が担当します。
全体の完成イメージがこちらです。



コンセプトは「ONE PARK × ONE TOWN」
基本計画のテーマが「ONE PARK × ONE TOWN(ワンパーク ワンタウン)」です。自然と都市の活動の2つが共生・調和・発展し、社会的価値を創出するまちづくりを目指すとされています。
ONE PARK(水と緑)
隅田川や浜離宮恩賜庭園と一体的に緑地・広場を整備します。築地は江戸期より交易・交流の拠点として発展し、隅田川は豊かな水辺を生かしたにぎわいの舞台でした。その歴史を踏まえ、水辺のオープンスペース、プロムナード・緑化、舟運の活用により「水都東京の再生」を推進します。
ONE TOWN(都市の活動)
銀座から続く文化・芸術の流れ、築地場外市場の食文化、新橋・汐留のビジネス拠点、隣接する医療施設との連携により、交流とイノベーションを生み出します。
浜離宮恩賜庭園と隅田川に挟まれたこの立地は、都心でこれだけの規模の緑地と水辺を同時に扱える唯一の場所です。それを活かすという方針が明確に出ています。
デザインモチーフは「扇」
景観のキーワードが「扇」です。
かつて築地市場の平面形状が扇形だったことから、市場の歴史や文化を継承する意味を込めて、調和や発展を想起させる扇の形が取り入れられました。
中核施設となるマルチスタジアムの屋根形状は、重なり合う2枚の扇に見立てられています。
この判断は建築的にかなり誠実だと思います。市場の建物自体は残せませんが、扇形という「かたち」の記憶を都市スケールで継承するというアプローチです。
扇形だったかつての築地市場と、新しい景観のイメージがこちらです。



目玉①:約5万人のマルチスタジアム
この計画の中核です。スペックが常識外れです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収容 | 約5万人(用途に応じて2万〜5万7,000席に可変) |
| 形式 | 屋内全天候型 |
| 可変性 | 可動席と仮設席で、フィールドと客席が形を変える |
| 対応用途 | スタジアム、アリーナ、劇場、展示場 |
想定イベントとして挙げられているのが、ラグビー、野球、サッカー、バスケットボール、eスポーツ、MICE、音楽ライブ、コンサート、演劇。
つまり1つの施設が4つの顔を持つわけです。2万席の劇場にも、5万7,000席のスタジアムにもなる。これを屋内全天候型で実現するとしています。
ほかにも次の機能が盛り込まれます。
- 迎賓・ホスピタリティ:多様なVIPルーム、国内最大規模のラウンジ
- ユニバーサル:多数の常設車イス席、視覚・聴覚障がい者向けの音声・文字情報サービス、センサリールーム、クールダウン室
読売新聞グループが参画していることから、プロ野球との関連を指摘する報道もありますが、球団の使用について公式な発表は出ていません。
目玉②:9棟の複合施設群
スタジアム以外も大規模です。主な棟の構成はこうなっています。
| 施設 | 主な用途 |
|---|---|
| 大規模集客・交流施設(マルチスタジアム) | 約5万人収容 |
| ライフサイエンス・商業複合棟 | 医療連携・イノベーション創出+商業 |
| MICE・ホテル・レジデンス棟 | 国際会議・宿泊・住宅(高さ約210m) |
| 舟運・シアターホール複合棟 | 舟運ターミナル+劇場 |
| その他 | オフィス、商業など計9棟 |
注目はライフサイエンスです。計画地には国立がん研究センターなどの医療施設が隣接しており、その連携によるイノベーション創出が掲げられています。日本橋で三井不動産が進めてきたライフサイエンス戦略と同じ方向です。
そして高さ約210mの棟が計画されています。築地・銀座エリアにこの高さのビルが建つのは初めてで、スカイラインが大きく変わります。
目玉③:陸・海・空の交通結節点
もう一つの特徴が交通です。陸・海・空のモビリティが乗り入れ可能な広域交通結節点を整備する計画になっています。
- 海:隅田川の舟運ターミナル
- 空:ヘリポート機能
- 陸:バス等のモビリティ拠点
さらに2040年代には、高速晴海線や地下鉄新線の新駅といった交通インフラの完成が見込まれています。
「水都東京の再生」という言葉は、景観だけでなく舟運を実際の移動手段として復活させるという意味を含んでいます。
環境性能:緑被率約40%
環境面の目標も高く設定されています。
- 最先端の環境技術を活用したカーボンニュートラルの達成
- 緑被率 約40%
- 風の道、太陽光発電
- 水素ステーション、バイオガス発電
トヨタ自動車が構成企業に入っている理由の一つが、この水素関連だと考えられます。19万㎡の敷地で緑被率40%というのは、約7.6万㎡が緑という計算です。
スケジュール:2026年度から段階的に
完成までの道のりは長期にわたります。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2018年5月 | 「築地まちづくりの大きな視点」取りまとめ |
| 2019年3月 | 東京都が「築地まちづくり方針」策定 |
| 2022年3月 | 事業実施方針策定 |
| 2024年4月 | 事業予定者を決定(ONE PARK×ONE TOWN) |
| 2025年3月 | 基本協定締結 |
| 2025年8月22日 | 基本計画を策定・公表 |
| 2026〜2027年度 | 暫定施設を開業(地元支援機能・情報発信拠点) |
| 2029年度 | 舟運・シアターホール複合棟 開業 |
| 2030年代前半 | まちびらき 第1期 |
| 2030年代後半 | まちびらき 第2期 |
| 2040年代 | 高速晴海線、地下鉄新線新駅などの交通インフラ完成 |
最初に動くのが2026〜2027年度の暫定施設です。全体の完成を待たず、情報発信拠点を先に開くという進め方になっています。
まとめ
- 旧築地市場跡地約19万㎡を、総延床約126万㎡・9棟で再開発
- 総事業費約9,000億円、事業者は三井不動産・トヨタ不動産・読売新聞グループ本社が中心の11社
- コンセプトは「ONE PARK × ONE TOWN」、テーマは水都東京の再生
- 中核は約5万人(2万〜5万7,000席可変)の屋内マルチスタジアム
- デザインモチーフは「扇」——旧市場の扇形平面を継承
- ライフサイエンス、MICE・ホテル・高さ約210mのレジデンス、舟運・シアターホール
- 陸・海・空の交通結節点、緑被率約40%、水素・バイオガス
- 2026〜27年度に暫定施設、2030年代前半にまちびらき
この計画の核心は、スタジアムではなく「水と緑」の方にあると思います。隅田川と浜離宮に挟まれた19万㎡で緑被率40%を確保し、舟運を復活させる。日本橋リバーウォークが川の上の高架を外して水辺を取り戻そうとしているのと、まったく同じ方向を向いています。
東京が湾岸と河川に向き直ろうとしている——築地はその最大のピースです。
よくある質問
Q. 築地市場跡地はいつ開業する?
2030年代前半以降の開業予定です。2026〜2027年度に暫定施設、2029年度に舟運・シアターホール複合棟が先行して開業します。
Q. 何ができる?
約5万人収容のマルチスタジアムを中心に、ライフサイエンス・商業複合棟、MICE・ホテル・レジデンス棟、舟運・シアターホール複合棟など計9棟が建設されます。
Q. スタジアムの規模は?
約5万人収容で、用途に応じて2万〜5万7,000席に可変する屋内全天候型の施設です。スタジアム、アリーナ、劇場、展示場として使い分けられます。
Q. 事業者は誰?
築地まちづくり株式会社(特別目的会社)で、三井不動産を代表企業に、トヨタ不動産、読売新聞グループ本社を中心とした11社で構成されています。
Q. なぜ「扇」がデザインモチーフ?
かつての築地市場の平面形状が扇形だったことから、市場の歴史や文化を継承する意味が込められています。


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