新宿駅西南口地区 南街区はなぜ止まったのか?工期「未定」の理由とこれからを解説

都市・再開発

新宿駅南口を出て甲州街道を渡った先、バスタ新宿のすぐ隣に、ビルが消えて開けた一角があります。

ここは「(仮称)新宿駅西南口地区開発事業」の南街区。京王電鉄とJR東日本が、地上36階・高さ約220mの超高層ビルを建てる計画の敷地です。

当初は2024年12月に着工し、2028年度に竣工する予定でした。ところが2025年3月、京王電鉄は南街区の工期完了時期を「未定」に変更しました。理由は「施工会社が決まらない」。

新宿駅前の一等地で、なぜ再開発が止まったのか。そしてこれからどうなるのか。公表されている事実報道・専門家の見方を分けて整理します。

事業の基本情報

地図:OpenStreetMap/位置・範囲は概略です。街区やデッキの位置は公表資料をもとにした模式表示です。工期・施工者は2025年12月時点の公表内容に基づきます。最新情報は事業者の発表をご確認ください。情報は2026年9月時点。

項目内容
事業名(仮称)新宿駅西南口地区開発事業
所在地東京都新宿区西新宿一丁目・渋谷区代々木二丁目
事業主体京王電鉄・JR東日本
全体敷地約16,300㎡(北街区+南街区)
全体延床約291,500㎡
都市計画決定2022年11月9日(告示)
位置づけ新宿グランドターミナル構想の一部

事業は、甲州街道を挟んで2つの街区に分かれています。

南街区(今回のテーマ)北街区
位置甲州街道の南側(バスタ新宿の隣)甲州街道の北側
現在既存ビル解体中/新築は未着工京王百貨店新宿店・ルミネ1が営業中
規模地上36階・地下4階/高さ約220m地上19階・地下3階/高さ約110m
延床面積約146,050㎡約141,500㎡
用途店舗、事務所宿泊施設、駐車場等店舗、宿泊施設、駐車場等
設計日建設計・JR東日本建築設計
完成「未定」(当初2028年度)2040年代(南街区の後に着工)

南街区の高層階には、京王グループの新ブランドによる国際水準のラグジュアリーホテルが計画されています。26〜33階に130室程度とされています。

南街区には、JR新宿ビル、ヒューマックス南新宿ビル、東京南新宿ビルディング、ミヤコ新宿ビル、新宿駅前サウスビル、新宿南口ビルなどが建っていました。

計画のイメージがこちらです。

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何が起きたのか:時系列

時期できごと
2022年4月計画発表
2022年11月9日都市計画決定
2023年4月大成建設が南街区の既存ビル(地上部)の解体に着手
2023年8月2日京王・JR東日本が開発計画と京王線新宿駅改良工事への着手を発表
(2024年12月)(当初の新築工事の着工予定)
2025年3月28日京王電鉄が南街区の工期完了を「2028年度」→「未定」に変更と発表
2025年12月ミヤコ新宿ビルと地下部の解体をフジタが受注(工期:2025年12月1日〜2029年3月31日
2026年2月残っていた既存ビルの解体工事が進行、基礎・地下部分の解体も継続

つまり「止まった」のは新築工事の着工であって、解体工事は続いているというのが正確な状況です。

なぜ止まったのか

公式の理由:施工会社が決まらない

京王電鉄が発表した理由は明快です。施工会社(新築工事を請け負う建設会社)が決まらず、着工が遅れているため。

解体工事は大成建設が担当しましたが、新築工事を担う建設会社が決まらない。候補となる建設会社とは協議を継続している状態とされています。

2025年12月時点でも、JR東日本の担当者は着工・竣工時期ともに「検討中のため未定」、新築工事の施工者についても「未定」と回答しています。

背景①:建設費の高騰

公式発表は「施工会社が決まらない」ですが、なぜ決まらないのかについては、報道や業界関係者からいくつかの見方が示されています。

最も多く指摘されているのが建設費の高騰です。業界関係者の見方として、建設費の高騰が止まらない中で、建設会社側が受注に踏み切りにくいのではないかという声が報じられています。

南街区の事業費のうち、京王電鉄の負担分だけで約920億円が予定されています。京王電鉄の広報は、事業費について物価高騰などにより変動の可能性はあるが、現時点では見直していないと説明しています(2025年4月時点の報道)。

発注者が想定する事業費と、建設会社が見積もる工事費の間に差が生じていれば、契約はまとまりません。

背景②:人手不足

建設業界の人手不足も背景として挙げられています。2024年4月からの時間外労働の上限規制の適用もあり、建設会社は受注できる工事量そのものが限られる状況にあります。都内では大型再開発が同時に多数進んでおり、建設会社側が案件を選ぶ局面になっています。

背景③:駅前の「難工事」

東京新聞は、この現場を「難工事」と表現しています。

南街区は、

  • JR新宿駅南口の目の前
  • 甲州街道(国道20号)に面している
  • バスタ新宿にほぼ隣接
  • 地下には鉄道施設や地下構造物が近接

という条件です。世界最多級の乗降客数の駅の真横で、交通を止めずに超高層ビルを建てる——工事の難易度が高く、リスクを見込むと工事費がさらに膨らむという関係にあります。

背景④:「悪循環」

東京新聞は、こうした状況を「悪循環」とも表現しています。

建設費が上がる → 採算が合わず施工者が決まらない → 着工が遅れる → その間にさらに建設費が上がる——時間が経つほど条件が厳しくなる構造です。

同じ時期に起きたこと

2025年3月には、中野サンプラザの跡地再開発で、工事費が当初の想定を900億円以上上回る見込みとなり、計画が撤回され白紙に戻されるという事態も起きていました。

この連載でも、六本木五丁目西地区(竣工遅延の可能性を表明)、HIBIYA CROSSPARK(北地区の大幅な延期)、泉岳寺駅地区(特定建築者の入札に応札なし)など、建設費高騰による再開発の遅れを複数扱ってきました。新宿駅西南口の南街区も、同じ構造的な問題の中にある案件です。

現在の南街区の様子がこちらです。

南街区の解体工事が再開した、48階258m「新宿駅西口地区開発計画」の様子 2025年12月20日撮影 - 再開発調査兵団
地上36階、高さ220m「(仮称)新宿駅西南口地区開発事業 南街区」既存建物の解体工事再開中!跡地は展望台もある新宿駅直結の複合施設(2026 ...
地上36階、高さ220m「(仮称)新宿駅西南口地区開発事業 南街区」既存建物の解体工事再開中!跡地は展望台もある新宿駅直結の複合施設(2026 ...

これからどうなるのか

決まっていること

2026年9月時点で公表されている範囲では、次のことが決まっています。

項目状況
解体工事フジタが担当、工期は2029年3月31日まで
新築工事の施工者未定
新築工事の着工・竣工未定(「検討中」)
北街区(京王百貨店)通常営業中。南街区の開発後に着工2040年代の完了を目指す

解体工事は2029年3月まで続くことが決まっています。つまり、少なくとも2029年3月までは、南街区で超高層ビルの本格的な建設が始まる状況にはない可能性が高いと見られます(解体と新築を一部並行させる可能性も指摘されています)。

考えられるシナリオ

今後の展開について、事業者は具体的な方針を示していません。そのうえで、他の再開発の事例から考えられる可能性を整理すると、次のようになります。これは予測ではなく、類似事例に基づく選択肢の整理です。

シナリオ内容類似事例
① 施工者が決まり、計画どおり着工協議がまとまり、現計画のまま進む
② 計画を見直して着工規模・仕様・事業費を見直し、採算を合わせる神宮外苑(ラグビー場の規模縮小)
③ 長期間の延期建設市況の改善を待つHIBIYA CROSSPARK北地区(時期「未定」)
④ 計画の白紙化計画を撤回し、一から検討し直す中野サンプラザ跡地

どのシナリオになるかは、建設費の動向建設会社との協議京王電鉄・JR東日本の経営判断によります。京王電鉄は、工期変更の連結業績への影響は軽微としています。

北街区への影響

最も大きな影響を受けるのは北街区です。

計画では、南街区のビルが完成してから、京王百貨店新宿店を解体し、北街区のビルを建てるという順番になっています。

南街区の遅れは、そのまま北街区の遅れにつながる構造です。つまり、京王百貨店新宿店は、当初想定より長く営業を続けることになる可能性があります。2040年代とされる全体完成も、南街区の着工時期次第で変わり得ます。

新宿グランドターミナル構想への影響

この事業は新宿グランドターミナル構想の一部です。南街区では、甲州街道をまたぐペデストリアンデッキを整備し、新宿駅南口(バスタ新宿方面)と西口方面をつなぐ歩行者ネットワークのハブとする計画でした。

隣の新宿駅西口地区開発計画(旧小田急百貨店・約260m)は2029年度竣工予定で工事が進んでいる一方、西南口の南街区は止まっている——新宿西口の北と南で、再開発の進み方に大きな差が生じているのが現状です。

まとめ:なぜ止まり、どうなるのか

なぜ止まったのか

  1. 公式の理由は「新築工事の施工会社が決まらない」
  2. 背景として、建設費の高騰人手不足駅前の難工事が指摘されている
  3. 時間が経つほど条件が厳しくなる「悪循環」の構造
  4. 中野サンプラザ跡地の白紙化など、同じ時期に同様の問題が各地で起きている

今どうなっているのか
5. 止まったのは新築工事の着工で、解体工事は継続中(フジタが2029年3月まで)
6. 新築の施工者・着工・竣工はすべて「未定」(2025年12月時点の回答)

これからどうなるのか
7. 事業者は具体的な方針を示していない
8. 南街区の遅れは、京王百貨店のある北街区の建て替え時期にも影響する
9. 甲州街道を越えるデッキなど、新宿グランドターミナル構想の南側の動線も後ろ倒しになる可能性

新宿駅西南口の南街区は、「計画が決まり、解体も進んだのに、建てる人がいない」という状態です。

これは南街区だけの問題ではありません。東京の大規模再開発全体が、建設費と人手という壁に直面していることを、最も分かりやすく示している現場です。

新宿駅南口の目の前に広がる、ビルのない空。それが次に何で埋まるのかは、日本の都市開発が今の壁をどう越えるのかを映す指標になります。

よくある質問

Q. 新宿駅西南口の南街区はなぜ止まった?
京王電鉄の発表では、新築工事の施工会社が決まらず着工が遅れているためです。背景として、建設費の高騰、人手不足、駅前という難しい施工条件などが報道で指摘されています。

Q. いつ完成する?
2025年3月に工期完了時期が「2028年度」から「未定」に変更されました。2025年12月時点でも、着工・竣工時期ともに「検討中のため未定」とされています。

Q. 今は何をしている?
既存ビルの解体工事が続いています。ミヤコ新宿ビルと地下部分の解体はフジタが担当し、工期は2029年3月31日までです。

Q. 京王百貨店新宿店はどうなる?
京王百貨店のある北街区は通常どおり営業中です。計画では南街区の開発後に百貨店を解体して建て替える予定で、2040年代の工事完了を目指しています。南街区の遅れにより、北街区の時期にも影響が出る可能性があります。

Q. 計画は中止になった?
中止の発表はされていません。2025年3月の発表は工期を「未定」とするもので、事業者は施工候補の建設会社との協議を続けているとされています。

出典

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