品川駅高輪口の目の前。かつて「ホテルパシフィック東京」、のちに「シナガワグース」として親しまれた建物の跡地で、巨大な工事が進んでいます。
(仮称)品川駅西口地区A地区新築計画。地上29階・高さ約152m、延床面積約31万㎡という規模です。
このプロジェクトの最大の話題は、トヨタ自動車の東京本社が移転してくること。現在の水道橋から品川へ。しかも単なるオフィス移転ではなく、「新東京本社」として機能を刷新する計画です。この記事では、何がどこにどう移転してくるのかを整理します。
事業の基本情報
地図:OpenStreetMap/位置・範囲は概略です。デッキや広場の位置は公表資料をもとにした模式表示です。情報は2026年9月時点。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計画名 | (仮称)品川駅西口地区A地区新築計画 |
| 所在地 | 東京都港区高輪三丁目(旧シナガワグース敷地) |
| 事業主体 | 京浜急行電鉄・トヨタ自動車 |
| 敷地面積 | 23,584㎡ |
| 延床面積 | 約311,802㎡ |
| 容積率 | 約1,000% |
| 規模 | 地上29階・地下4階(運用呼称)/高さ152.36m |
| 用途 | オフィス、商業、ホテル、MICE(コンファレンス、多目的ホール)等 |
| 基本設計 | 日本設計 |
| 実施設計・施工 | 大成建設 |
| 着工 | 2025年5月31日 |
| 竣工 | 2029年1月予定 |
| 開業 | 2029年度予定 |
| 総事業費 | 約2,400億円 |
階数の表記に注意が必要です。建設地は傾斜地で、坂の上を1階として扱うため、建築基準法上は地上28階・地下5階ですが、運用呼称では地上29階・地下4階となります。
延床約31万㎡は東京ドーム約3個分の規模。京急にとっての「京急品川開発プロジェクト」の中核です。
外観イメージがこちらです。



何が移転してくるのか:トヨタ自動車の東京本社
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 移転するもの | トヨタ自動車の東京本社 |
| 現在地 | 東京都文京区(水道橋)のトヨタ東京ビル |
| 移転先 | 品川駅西口地区A地区の計画建物 |
| 新名称 | 「新東京本社」 |
| 開業時期 | 2029年度 |
| 移転規模 | 東京本社の機能を全てトヨタ東京ビルから移転 |
部分移転ではなく全機能の移転です。
なおトヨタの本社そのものは愛知県豊田市にあり、品川に来るのは「東京本社」です。この区別は重要です。
現在の東京本社ビルはどうなるのか
ここも押さえておきたいポイントです。
現在の東京本社が入居するトヨタ東京ビル(文京区)は、2023年2月にトヨタ不動産と三井不動産へ売却されており、リースバック方式で使用している状況です。
つまりすでに自社所有ではなく、借りて使っている状態。新東京本社の開業時には、東京本社の機能をすべてここから移転することになります。
ちなみに現在、同ビルの一部は日本サッカー協会が利用しています。
移転が3年遅れた経緯
トヨタは当初2026年度の開業を検討していましたが、都市計画の手続きや関係各所との協議に時間がかかり、想定より3年先延ばしになりました。
計画地の経緯を追うと、その複雑さが分かります。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2020年4月 | 京急の開発にトヨタを共同事業者として迎える協定を締結 |
| 2022年1月 | 「品川駅西口地区まちづくり指針(高輪三丁目地区)」策定 |
| 2022年10月 | 国家戦略特別区域の事業として認定 |
| 2022年11月 | 「品川駅西口地区地区計画」の変更告示 |
| 2023年6月 | URが施行する品川駅西口土地区画整理事業が事業計画認可 |
| 2024年2月 | URにより仮換地指定 |
| 2024年3月22日 | 土地の一部譲渡と共同建設・運営の契約を締結/トヨタが新東京本社を発表 |
| 2025年5月31日 | 着工 |
| 2029年度 | 新東京本社 開業予定 |
URによる土地区画整理事業が入っているのがポイントです。単独敷地の建て替えではなく、街区の区画そのものを組み替える事業のため、手続きに時間がかかりました。
土地は京急がトヨタへ一部譲渡し、京急の譲渡益は約850億円と見込まれています。
どこに何が入るのか:フロア構成
移転してくるトヨタのオフィスは、建物のどこに入るのでしょうか。
| 階 | 用途 |
|---|---|
| 23〜29F | ラグジュアリーホテル(誘致予定) |
| 7〜22F | オフィス(一部をトヨタが取得=新東京本社) |
| 5〜6F | 国際カンファレンスセンター |
| B1〜4F | 商業施設 |
| B2〜B1F | 多目的ホール |
トヨタが入るのは7〜22階のオフィスフロアの一部です。建物全体がトヨタになるわけではなく、オフィス区画の一部を取得する形になります。
高層部にはラグジュアリーホテルが誘致される予定で、低層部は商業・MICEという構成です。
断面の構成とオフィスロビーのイメージがこちらです。



どう移転してくるのか:「新東京本社」の中身
単なる引っ越しではないのがこの移転の特徴です。トヨタは新東京本社に明確な役割を与えています。
背景にあるのは、トヨタが進めるモビリティカンパニーへの転換です。CASE(Connected/Autonomous・Automated/Shared/Electric)をはじめとした技術革新により、自動車産業の枠を超えることを目指しています。
新東京本社で計画されているのは以下の内容です。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| ソフトウェア開発機能の配置 | 移動価値の拡張に向けた開発拠点 |
| 実証に必要な設備の導入 | カーボンニュートラルを含む持続可能な共生の取り組み |
| モビリティ実機の持ち込み | オフィス内に実際の車両を持ち込める環境 |
| 協創の場 | 多様な仲間が集う場の創造 |
| 新しい働き方 | 福利厚生等の制度およびインフラの導入を検討 |
「オフィス内にモビリティ実機を持ち込める」というのが、この移転の最も具体的な変化です。通常のオフィスビルでは、車両を上層階に上げることは想定されていません。それを可能にする設計が求められます。
なお、トヨタは都内に人工知能研究を行う大手町オフィスや、子会社のウーブン・バイ・トヨタなど複数の拠点を持っています。これらを新東京本社に統合するかは現時点で未定とされています。
なぜ品川なのか
トヨタが品川を選んだ理由は、立地条件に集約されます。
- 東海道新幹線の停車駅
- 羽田空港・成田空港へのアクセス
- 京急線による空港直結
- リニア中央新幹線の始発駅(開業時期は延期)
- 都心各地への移動の容易さ
空港と新幹線とリニアが1駅に集まる——グローバル企業の東京拠点として、この条件は他にありません。
京急の資料でも、A地区は単なるオフィスビルではなく、交流と滞在を生む複合施設として位置づけられています。MICE・商業・オフィス・ホテルが同じ施設に入ることで、平日・休日、昼・夜の利用が分散し、駅前のにぎわいが継続する設計です。
周辺との接続
建物単体で完結しない点も押さえておきましょう。
| 整備内容 | 内容 |
|---|---|
| 国道上空デッキ | 地区東側の第一京浜(国道15号)上空に整備し、品川駅に接続 |
| 広場 | 西側の高輪森の公園と一体となる広場を整備 |
国道15号の上を渡って品川駅とつながるという計画です。現在、品川駅高輪口から西口側へ行くには第一京浜を横断する必要がありますが、それがデッキで解消されます。
エリア全体のコンセプトは「世界の人々を迎え入れる品格ある迎賓都市・開かれたまちへの転換」。品川駅西口地区として、一体的かつ段階的なまちづくりが進められます。
まとめ:何がどこにどう移転するのか
- 旧シナガワグース(1971年ホテルパシフィック東京→2011年シナガワグース)跡地の再開発
- 地上29階・高さ152.36m、延床約31万㎡、総事業費約2,400億円
- トヨタ自動車の東京本社が、文京区(水道橋)のトヨタ東京ビルから全機能移転
- 移転先は建物の7〜22階のオフィスフロアの一部
- 単なる移転ではなく「新東京本社」として、ソフトウェア開発機能とモビリティ実機を持ち込める環境を整備
- 当初2026年度開業予定だったが、都市計画手続き等で3年延期
- 高層部(23〜29階)にラグジュアリーホテル、低層部に商業・MICE
- 第一京浜上空のデッキで品川駅と接続、高輪森の公園と一体の広場
- 着工2025年5月31日、竣工2029年1月、開業2029年度
このプロジェクトを一言でまとめると、「日本最大の自動車メーカーが、空港と新幹線とリニアが集まる駅前に東京拠点を移す」という話です。
そして移転の中身が興味深い。オフィスに車を持ち込めるようにする——モビリティカンパニーへの転換を、働く場所の設計レベルで実装しようとしています。
開業は2029年度。シナガワグースの記憶がある人には、あの斜面の建物が152mのビルに変わるという光景の変化が、最も大きな驚きになるはずです。
よくある質問
Q. 品川駅西口地区A地区はいつ完成する?
2029年1月に竣工予定、2029年度の開業予定です。2025年5月31日に着工しています。
Q. トヨタの東京本社はどこから移転する?
東京都文京区(水道橋)のトヨタ東京ビルから移転します。東京本社の機能をすべて移転する計画です。なお本社そのものは愛知県豊田市にあります。
Q. 建物のどこにトヨタが入る?
7〜22階のオフィスフロアの一部をトヨタ自動車が取得し、2029年度に「新東京本社」として開業する予定です。
Q. ホテルは入る?
23〜29階にラグジュアリーホテルを誘致する予定です。運営者は公表されていません。
Q. 前にあった建物は?
1971年に「ホテルパシフィック東京」として開業し、2011年からは「シナガワグース(SHINAGAWA GOOS)」として営業していた建物です。
Q. 品川駅からどう行く?
第一京浜(国道15号)の上空に整備される国道上空デッキによって、品川駅に接続する計画です。


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