泉岳寺駅を使ったことがある人なら、あのホームの狭さを知っているはずです。羽田空港行きの京急と都営浅草線が乗り入れる主要駅なのに、スーツケースを持った人とすれ違うのがやっとの幅。
その泉岳寺駅で、ホーム幅を約5mから約10mへ、およそ2倍に拡幅する工事が進んでいます。それを可能にしているのが「泉岳寺駅地区第二種市街地再開発事業」です。
ただし、この事業には一つ厄介な問題がありました。泉岳寺駅は国道15号の地下にあり、道路の下だけではホームを広げられないのです。この記事では、その解き方を整理します。
事業の基本情報
地図:OpenStreetMap/位置・範囲は概略です。駅施設の拡張範囲やデッキの位置は公表資料をもとにした模式表示です。情報は2026年9月時点。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業名 | 東京都市計画事業 泉岳寺駅地区第二種市街地再開発事業 |
| 所在地 | 東京都港区高輪二丁目81-1ほか |
| 施行者 | 東京都(東京都第二市街地整備事務所) |
| 特定建築者 | 東急不動産・京浜急行電鉄のコンソーシアム |
| 施行面積 | 約1.3ha |
| 事業施行期間 | 2018年度〜2032年度 |
| 設計・施工 | 鹿島建設 |
建物の概要はこうです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 規模 | 地上30階・地下3階/最高高さ約145m |
| 敷地面積 | 約8,490㎡ |
| 延床面積 | 約112,300㎡ |
| 構造 | RC造・SRC造・S造(制振構造) |
| 主要用途 | 住宅(約350〜385戸)、事務所、店舗、地下鉄駅施設、子育て支援施設、駐車場等 |
| 着工 | 2024年11月1日 |
| 完成 | 2031年度(2032年3月下旬竣工予定) |
主要用途に「地下鉄駅施設」が入っているのがこの事業の本質です。
完成イメージがこちらです。


なぜホームを広げる必要があるのか
東京都の説明は明快です。
泉岳寺駅は、羽田空港にアクセスする京浜急行と、都心部や成田空港にアクセスする都営浅草線との接続駅として、広域的な結節機能を担っています。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 空港需要の増大 | その重要性は高まっている |
| 駅周辺の開発 | 国際交流拠点として開発が進む(高輪ゲートウェイシティ等) |
| 利用者 | 今後さらに増加することが見込まれる |
| 安全性・利便性 | 乗りかえを含む利用者の安全性・利便性の確保が必要 |
羽田と成田の両方につながる乗換駅であり、しかも隣に高輪ゲートウェイシティ(延床約84.5万㎡)が開業した——利用者が増えるのは確実です。
それなのにホームが狭い。この矛盾を解消する必要がありました。
「国道の下だけでは広げられない」問題
ここがこの事業の核心です。
泉岳寺駅は国道15号(第一京浜)の直下にあります。駅の構造物は道路の幅の中に収まっており、国道の空間内だけではホームの拡幅が困難でした。
では、どうするか。答えはこうです。
国道15号の東側の民有地の地下に、駅を拡張する。
そのためには道路に隣接する民有地を含めた市街地整備が必要になります。つまり、
- 国道の東側の土地を取得する
- その地下に駅施設を拡張する
- 地上には再開発ビルを建てる
という組み立てです。駅を広げるために、地上の街ごと作り直したわけです。
東京都はこれを「駅とまちの一体的整備」と呼んでいます。
なぜ「第二種」なのか
事業名に注目してください。第二種市街地再開発事業です。この連載で扱ってきた他の事業はほとんど「第一種」でした。
違いはこうです。
| 第一種 | 第二種 | |
|---|---|---|
| 方式 | 権利変換方式 | 管理処分方式 |
| 従前の権利者 | 事業地内の床に権利を変換して残る | 補償を受けて事業地外へ移転 |
| 施行者 | 多くは再開発組合(民間) | 公共(東京都等) |
| 適用 | 一般的な市街地更新 | 公益性の高い都市基盤整備が必要な場合 |
第二種は、公共が土地をいったん買い取って事業を進める方式です。駅改良という公益性の高い基盤整備が目的なので、この方式が選ばれました。
そのうえで、建物を建てるのは民間——これが「特定建築者」制度です。東京都が2021年4月15日に東急不動産・京急電鉄のコンソーシアムを特定建築者予定者に選定し、2021年6月2日に基本協定を締結しました。
東京都が駅を作り、民間がビルを建てるという役割分担です。
駅はどう改善されるのか
具体的な改良内容を整理します。
①ホーム幅を約5m → 約10mへ
最大の変化がこれです。ホーム幅が約5mから約10mへ拡幅されます。単純に2倍です。
スーツケースを持った空港利用者が行き交う駅で、幅5mから10mへの拡幅は体感が大きく変わります。
②駅の供用開始は2027年度
重要なのはタイミングです。
| 項目 | 時期 |
|---|---|
| 駅改良(ホーム拡幅を含む)の供用開始 | 2027年度 |
| 再開発ビルの完成 | 2031年度 |
駅の方が4年早く使えるようになります。
これは理にかなっています。ビルの完成を待たず、地下の駅施設が先に完成すれば、利用者はその時点から恩恵を受けられます。駅改良は東京都交通局と京浜急行電鉄が共同で進めています。
③高輪ゲートウェイ駅へのデッキ接続
もう一つの改善が乗換動線です。
この建物は泉岳寺駅と直結するほか、JR「高輪ゲートウェイ」駅への歩行者デッキに接続する予定です。徒歩3分ほどで結ばれる計画です。
品川駅北周辺地区では、将来的に高輪ゲートウェイ駅と各街区を結ぶ歩行者デッキが整備される予定になっており、この建物もそのネットワークに組み込まれます。
すでに開業したTHE LINKPILLAR 2(高輪ゲートウェイシティ3街区)のデッキから建設地が見える状態で、完成時には両者がデッキで接続されます。
つまり、
京急(羽田)・都営浅草線(成田・都心)・JR山手線(高輪ゲートウェイ)が、1つの動線で結ばれる。
これが駅改良の全体像です。
駅とまちの一体的整備のイメージがこちらです。

ビルの中身
駅の上に建つビルの構成も見ておきましょう。
| 階 | 用途 |
|---|---|
| 14〜30F | 住宅(約350〜385戸) |
| 14・15F | 事務所兼用住宅 |
| 4〜15F | 事務所 |
| 1〜3F | 店舗、保育所 |
| 地下 | 地下鉄駅施設、駐車場 |
高さ145m・30階建てのビルの地下に駅があるという構成です。東急不動産は分譲住宅事業を中心に参画しており、住宅は高額な分譲マンションになると見られています。
公共施設としては以下が整備されます。
| 公共施設 | 幅員 |
|---|---|
| 都市計画道路補助332号線 | 幅員22m |
| 区画道路 | 幅員4m【20m】 |
事業が遅れた理由
このプロジェクトも当初計画から遅れています。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 平成29年(2017年)11月 | 都市計画決定 |
| 平成31年(2019年)2月 | 事業計画決定 |
| 令和2年(2020年)1月 | 管理処分計画決定 |
| 2021年4月15日 | 特定建築者予定者に東急不動産・京急を選定 |
| 2021年6月2日 | 特定建築者と東京都が基本協定を締結 |
| 2024年11月1日 | 着工 |
| 2027年度 | 駅改良の供用開始予定 |
| 2031年度(令和13年度) | 建築工事完了予定 |
当初は高輪ゲートウェイシティのまちびらきに合わせ、2024年度竣工を目指していました。
しかし特定建築者の入札に応札がなく、再入札となりました。その再入札で東急不動産・京急電鉄が選定され、現在の2031年度竣工予定に至っています。
高輪ゲートウェイシティが2026年3月に全面開業したのに、隣の泉岳寺駅の再開発ビルは2031年度——このズレは、入札不成立という現実的な事情によるものです。
ただし駅改良自体は2027年度に供用開始なので、駅の使いやすさは先に改善されます。
まとめ:駅はこう改善される
- 泉岳寺駅は京急(羽田)と都営浅草線(成田・都心)の接続駅で、広域的な結節機能を担う
- 国道15号の直下にあり、道路の下だけではホームを広げられなかった
- そこで国道東側の民有地の地下に駅を拡張し、地上に再開発ビルを建てる「駅とまちの一体的整備」
- ホーム幅は約5m → 約10mへ、およそ2倍に拡幅
- 駅改良の供用開始は2027年度(ビル完成の4年前)
- JR高輪ゲートウェイ駅へ歩行者デッキで接続、徒歩3分
- 東京都が施行し、東急不動産・京急が特定建築者として建物を建てる第二種事業
- 地上30階・高さ約145m、住宅約350〜385戸、延床約112,300㎡
- 入札不成立により当初の2024年度竣工が2031年度へ後ろ倒し
この事業を一言でまとめると、「ホームを広げるために、街を作り直した」という話です。
道路の下の駅を広げたいけれど、道路の幅は変えられない。だから隣の土地を買って、地下を駅に、地上をビルにした。そのために第二種市街地再開発事業という公共主導の仕組みが使われました。
駅の改良は目的で、145mのタワーは手段——この順序が、他の再開発とは逆になっています。
2027年度、泉岳寺駅のホームは倍の広さになります。
よくある質問
Q. 泉岳寺駅のホームはいつ広くなる?
ホーム幅の約5mから約10mへの拡幅を含む駅改良は、2027年度の供用開始が予定されています。東京都交通局と京浜急行電鉄が共同で進めています。
Q. 再開発ビルはいつ完成する?
2031年度(2032年3月下旬)の竣工予定です。2024年11月1日に着工しています。
Q. なぜ再開発が必要だったのか?
泉岳寺駅は国道15号の地下にあり、国道の空間内だけではホームの拡幅が困難でした。そのため道路に隣接する民有地を含めた市街地整備を行い、地下に駅を拡張する必要がありました。
Q. 「第二種」とは何が違う?
第一種は権利変換方式で従前の権利者が事業地内に残りますが、第二種は管理処分方式で、権利者は補償を受けて事業地外へ移転します。公益性の高い都市基盤整備に適用され、施行者は公共(本事業は東京都)です。
Q. 高輪ゲートウェイ駅とつながる?
JR高輪ゲートウェイ駅への歩行者デッキに接続する予定で、徒歩3分ほどで結ばれる計画です。


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